そうか、殺してしまえば楽だったんだ
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――(Side.Guizhong)
なまえが突然姿を消した。
今までなまえが私の前に何日も姿を見せなかったことも、何も言わずにどこかに行くことは決してなかった。
だからとても心配になって探していた。
それなのになまえはなんて事のないようにふらふらと突然、何事もなかったかのように姿を表した。
それを見て私は怒りよりも無事だったという安堵の気持ちの方が大きかった。
だから、なまえの姿を目にした瞬間、私は彼女の元へと走り寄った。
「なまえ……!」
「……どうしたの、帰終」
「……っ」
でも、もっと早く見つけるべきだった。
もっと私がなまえの気持ちを考えるべきだった。
帰終と名前で呼ばれて、無機質ななまえのその表情を見て、私は無事を喜んだ数秒前の自分を殴りたくなった。
何も無事ではない。
――帰終ちゃん! ごめんね、心配かけて!
いつものようにそんな明るい声を期待していた。
「、……なまえ。あ、あなたこそ……」
そこまで言って私は最後の言葉まで紡げなかった。
もし、大丈夫? なんて聞いてなまえが平気だって言ったら、なまえがその変化に気づいていないのだとしたら……。
こわい。
もし、なまえが自身の変化に気づいていないのなら……それは、……それは。
私のことを「帰終」と呼ぶなんて……。
――どうしよう、……どうしたらいいの
答えの見つからない疑問が頭の中をぐるぐると回る。
「……どうしたの、何かあった?」
黙り込んだ私になまえがもう一度尋ねてきた。
いつもなら、もっと早く心配そうに私に近づいて無遠慮に体に触って異常はないかと確認して、それから問題ないとわかるとなまえは自分のことのように安心していた。
それが大袈裟だと思いつつも、そこまで心配してくれるなまえの存在が私にはありがたく、そしてとても嬉しかった。
魔神だから畏敬の念を抱かれることはあるがなまえのように体調の心配をしてくれる者はいなかったから。
でも、今のなまえは違った。
同じ魔神だから、頑丈さを理解しているはずなのになまえは私を心配してくれた。
でも今は違う。
言葉では調子を尋ねてくれるけど、それはあくまでも形式的なもので、その場に立ったまま、変わらず無機質な声と無感動で機械的な視線を携えて私を見ていた。
雲ひとつない青空のように澄み切ったなまえの瞳はもう何の感情ものっていなかった。
だから、怖かった。
「帰終?」
「っ……大丈夫よ。なまえの方こそ……」
なまえが首を傾げて私を帰終と呼ぶ。
一度だけではなく、二度までも私を「帰終」と呼んだ。
私の聞き間違いではないのだと、そう言うようになまえは私を帰終と呼んだ。
なまえはもう私のことを帰終ちゃんと呼んでくれない。
彼女だけが私をそう呼んでくれていた。
なまえだけが……私の……。
「私? 私は何も問題ないよ」
なまえは私に何も教えてくれなかった。
それは前と何も変わらない。
私のことは心配するくせに心配をさせてはくれない。
それは私がこの地の領主だったから。
領民のことを気にかけなければならないのに、自分のことまで背負わせるわけにはいかないと、そう言ってなまえは私に悩みを相談することは絶対になかった。
だから、なまえの相談に乗れる留雲借風真君が羨ましかった。
彼女は周りをよく見ている。
適切な助言ができてなまえの憂いを何度も払ってきたのを知っている。
素晴らしい仙獣だった。
でも、私はいつも思っていた。
私に相談してほしいって……。
「でも、……」
「何もないなら良かった。じゃあ、私行くね」
結局のところ、皆に頼られてもなまえからは一度も頼られたことはなかったのだとようやく認めざるを得なかった。
私の領地は素晴らしいと人々が集い、統治をほめそやし、笑い声が聞こえても、一番大切な友に対して何もできないただの魔神だったのだ。
以前は何も言われなくてもなまえのことがわかったのに、いまは何もわからなかった。
なまえのその表情や仕草からはもう何も読み取ることができなくなっていた。