そうか、殺してしまえば楽だったんだ
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どうしよう。
私はこのままここにいるのが辛い。
二人が並んでいるのを見るだけで、涙が溢れそうだ。
誰かが言っていた……お似合いだって。
魔神にそんな感情があるはずもないのに。
そう思いながらも私の中に渦巻くこの気持ちはなんだろう。
二人のことは好き。
好きなんだ。
だけど、二人が並んで楽しそうにお話ししているのを見ると辛い。
あのひとなんて私の前では笑わないのに、帰終ちゃんの前では表情を綻ばせていた。
それにはじめて気づいてしまってから私は二人の間に入ることができなくなった。
もう、一緒にはいられない。
留雲借風真君がそんな私に気づいて相談に乗ってくれた。
「なまえ、二人はそのような関係ではないことはそばにいるなまえが一番よくわかるであろう」
彼女は私のその考えは誤解だと理由も述べてゆっくりと優しく懇々と説明してくれた。
私が一番二人のそばにいるから、彼らの関係もわかるのではないか。
そう言って留雲ちゃんは私の心を落ち着かせて慰めるように告げた。
でもそれはまだ彼らがその感情を自覚していないからではないだろうか。
「でも、……でも、あのひと……。私には全然笑ってくれない。そればかりか、いつも難しそうな顔ばかりして。私はただ笑って欲しいだけなのに、……」
留雲借風真君は周りをよく見ていて、見識もある。
常ならば私だって留雲ちゃんの言うことをちゃんと理解して納得していた。
でも、無理だった。
だって、あのひとは私に笑ってくれない。
「それは……」
「きっと、私のこと邪魔だと思ってる」
「なまえ……」
いつも無表情で口数だってすごく少ない。
帰終ちゃんとお話ししてるとあのひとがいつもやってくる。
はじめは気にしないように努めてその場にいたけれどだめだった。
あのひとは私を見ることもない。
口数は相変わらず少ないけれど、目の前で帰終ちゃんとばかりお話をしていた。
気を使って帰終ちゃんが話を振ってくれるけれど、まるでいないようなその扱いに疎外感が助長されて邪魔者なんだと実感した。
そうしたら、もう帰終ちゃんのもとにも自分から行けなくなっていた。
誰も私を知らない場所に行きたいと帰終ちゃんのそばにいたかった頃のことなんて忘れたようにそればかりを思っていた。
でも、それはできない。
あのひとと私は契約を結んでしまったから。
だから、寂しくて、辛くてもこの地で守るために武器を振るわなければならない。
でも、こんなに辛いなら契約を一方的破棄して逃げてしまっても良いんじゃないかな。
彼の話す契約破棄の罰がどんなに酷いものでもこの胸の痛みに勝るものはないもの。
それに私がいなくてもこの地にはあのひとや留雲ちゃん達仙人もいる。
私ひとりいなくなったところで何が変わるわけもないだろう。
そうして、私はいつの間にか誰もいない静かな場所でひとり座っていた。
目の前には一輪の琉璃百合。
周りには他の花も咲いていなくて、たった一輪で咲くその姿はなんだか私みたいだなと思った。
その花を見つめながら、そこに何もせずにずっとうずくまって私は考えていた。
ぼーっと辺りの風景を見ていたら、気がつけば日が沈んでいた。
そしていつの間にか眠っていて、また日がな一日この場所でただ座っていた。
誰も姿を見せずに、それがまた私の孤独を助長させた。
それから日が何回か沈んだり昇ったりした。
その頃になると、もう考えることがばからしくなっていた。
琉璃百合もいつの間にか枯れていて私はひとりぼっちなのだと実感した。
でも、もうそんなことは大したことではなかった。
琉璃百合も、私のことも……あのひとのことも。
やがて、私はもう自分のことも他人のこともどうでも良くなっていた。
顔を伏せてずっとそこにいると時間の感覚も無くなってなんだかよくわからない。
体がふわふわとしていた。
「……ッ、ここにいたのか」
「……」
だから、私の後ろから息を切らしたあのひとが声をかけてきても、もう何の感情も抱かなかった。
――どうでもいい
あのひとが帰終と話していようとも、私にとってはもうなんて事のない取るに足らない出来事なのだ。
彼らがどうなろうとも私がするのは彼との契約に従いこの地を守ることである。
皆を守って、それでいつか契約を終わらせて誰も知らない場所に行こう。
なぜそんなことを思っていたのかは忘れてしまったけれど。
「……なまえ?」
そう決めて立ち上がると隣にはまだあのひとがいた。
以前の私ならきっとさまざまな感情が湧き起こっただろう。
でも、もう彼に対して何の感情も抱くことはなかった。