きみをつかって、きみのふくしゅうをする
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衆目にさらされながら旦那様に抱えられて帰った私はさぞかし目立ったに違いない。
それだけでも十分罰と言えるものなのに、帰宅後にさらなる試練が待っていた。
手慣れた様子で私を広いソファの上に下ろした旦那様。
下ろし方はとても優しかったけれど、ここまでの道中一言も口を聞いてくれなかった。
気まずい雰囲気が漂う中、意を決して旦那様にお尋ねすることにした。
「だ、旦那様……何かいけないことをしてしましたか……?」
「……」
沈黙が怖い。
なにか喋ってほしい。
見下ろされる体制はとても怖いから本当に何か話してくれないと困る。
「旦那様……」
「……ふむ。お前は俺が怒る理由がわからないのか」
何度かの呼びかけで彼はようやく言葉を発してくれた。
どうやら私に対して怒っているようだが突然公衆の面前であんな辱めを受けて、怒りたいのはこっちの方だ。
わかるわけない。そう言いたいけど旦那様の目が冷たすぎて何も言えない。
旦那様こわい。
どうみたって凡人のできる眼光じゃない。
いや、凡人じゃないって知っているけど。
私が何も言わないでいると、それを肯定ととったのか旦那様は言葉を続ける。
「……ならばお前と交わした決まり事についての再確認といこうか」
「え?」
「何か文句でもあるのか」
全く有無を言わせぬ高圧的な態度にこれは完全に切れてると思った私。
ああ、帰終ちゃん……あの時みたいに私を助けて……。
私のことでぶち切れた旦那様を鎮めるのは帰終ちゃんはとても上手だった。
どういう手段をとっていたのかは全くわからないが私の前で少し2人で内緒話をして簡単に怒りを鎮めていた。
一度だけ何を言ってたのか教えてもらったことがある。
彼女曰く、「交換条件でチョチョイのちょい(意訳)」らしい。
まったくわからなかった。
でも今は当然のごとく帰終ちゃんはいないから私は何も言えずに首を振った。
「さて、なまえ。お前と会ってずいぶん経つが俺たちが最初に約束したことは覚えているか?」
そんなの覚えてない。
そもそもそれはいつのことだと思っているの……?
でも忘れましたとは素直に言えない。
適当に思い出したことを口に出しておこう。
たぶん間違ってると思うけど言わないよりはまだマシだと思った。
「……りんごを勝手に食べない……とか、です……か?」
「……それは5番目だ」
「……あるんだ」
そうだ。
これは領地の外に1人で行く私を咎めた彼が出した条件だった。
対価はなんだったかな……?.
「ふむ。……やはり復習というのは大切らしいな。凡人というのはすぐに忘れてしまうものだと聞いたぞ」
たしかに私の記憶力は良くないかもしれないけど凡人じゃない。
「だから、なまえ」
「……!」
私の体を挟むようにしてソファに乗り込んできた旦那様の様子にこれは危険だと今までの経験が警鐘を鳴らす。
固定されて逃げられない。
「――体に教えたほうが早そうだな」
「だ、旦那様……おねがい、まって……待ってください」
無表情でそんな怖いことを言わないでほしい。
私はやめてほしくて声をあげた。
無論そんな簡単に止められるはずもないけれど意味がなくても言わなくてはならない言葉はある。
「……」
「旦那様……ま、まって……本当に……」
旦那様にうまいこと挟まれて動くこともままならない。
逃げ出さないように私の足を挟んで膝をついた。
沈み込んだソファに私はうまく対応できない。
逃がさない、そういうように私の顔の横に手をおかれた。
目を逸らせば、片手で顎を掴まれて固定される。
どうしようもない。
いつの間に手袋外したんですかと現実逃避をしながら彼の手の温かさに気づいているどこか冷静な自分もいた。
だからこそ、もうだめだ。
私はずっと旦那様を止められない。
だって、こういう時の旦那様は絶対ひどいことをする。
泣いてもやめてくれないし、まだお昼なのに……。
絶対まずいことになる。
経験から言えば抵抗しても無駄である。
もう抵抗するよりも覚悟を決めたほうがいいかもしれない。
「なまえ」
琥珀色の瞳に見つめられて名前を呼ばれて、その声の甘さに気づく。
心がときめく。
本当にひどい。
私が結局抗えないのを知っていてするのだから。
諦めて旦那様の好きにさせる方がいいのかな。
「……なまえ、」
もう一度名前を呼ばれた。
先程よりも、もっと感情が乗せられたその声に答えずにはいられない。
もう目が離せない。
もう諦めたほうがいい。
私は旦那様の頬に手を伸ばす。
「っ、本当に。……本当に、ひどいひと」
本当にひどいひとだ。
でも好き。
旦那様はひどくて優しくてかっこいい素敵なひとだ。
やっぱり旦那様は私の大切である。
彼だけがずっと私のそばにいてくれた。
どんな状況になろうとも、私が旦那様を止められない最大の原因は彼への愛に他ならない。
彼だけが私の旦那様だからだ。
「ああ、――知ってる」
そう言って旦那様は私に口づけた。
私の言葉のその真意を彼は知っている。
ずっと一緒にいるのだ。
わからないはずがない。
夫婦とは一心同体なのだから。
交わした口づけはいつものように優しくて、これから行われる「ひどい」行為とは対照的であった。