きみをつかって、きみのふくしゅうをする
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愚人衆執行官第十一位公子タルタリヤにとってこの出会いは千載一遇のチャンスだった。
この場所で出会った理由こそ、そのチャンスを女皇陛下が与えてくれたのだとそう思っていた。
「やあ、相棒」
璃月港を歩いていた時タルタリヤは空の姿を見つけて暇つぶしがてらに話しかけた。
異国の服を纏う空の格好は交易で栄えるこの璃月といえどもわかりやすい。
「あ、公子だ!」
「……公子?」
「タルタリヤ、久しぶり」
空は声をあげて振り返ってこちらを見つめた。
しかしどうやら見慣れぬ第三者がいたようで、その後ろから顔を出した初めて見る顔にタルタリヤは誰だろうかと純粋な疑問を持った。
「2人のお友達?」
「うーん、友達……かどうかは置いといて、こいつは公子って言うんだけど、鍾離からなんか聞いてないか?」
「え、……うーん」
「(鍾離先生の関係者なのか?)」
パイモンの言葉を受けて考え出した彼女を見ながらタルタリヤもまた不思議に思った。
「……公子……? 聞いたことあるような……あっ、たしかファデュイの……、執行官……?」
「そうだぞ!公子はファデュイの執行官であってるぞ! でも、危ないやつだから気をつけろよ!」
眉を顰めて思い出しながら辿々しく言葉を紡ぎ出す彼女にパイモンは当たっていると声をかけて励ました。
ファデュイに対する警告も忘れずに。
「……ファデュ、イ……こう、し……公子ど、の……?」
「へえ。俺のことを知ってくれているのか。それで彼女は鍾離先生の知り合いかい?」
公子殿という呼び名はあの往生堂の客卿が使うものだった。
それを出してきたということはやはり彼の知り合いだと睨んだタルタリヤは彼女と鍾離の関係を聞いた。そんな彼に言葉を返したのはパイモンだった。
「あ、そうだったな。公子、彼女はなまえ。鍾離のよ「弟子です!」」
「「――え?」」
「……」
タルタリヤの言葉に答えるようになまえの紹介をしはじめた。そんなパイモンの言葉を遮るように叫んだなまえ。
それを聞いてパイモンと空が戸惑いの声をあげる。
その様子と先程のパイモンの言葉。
それを合わせると多分なまえは嘘をついたとタルタリヤは瞬時に判断した。
「改めまして先生がいつもお世話になってます! ……思い出しました。公子殿ですよね? 先生からお話は伺ってます」
「……、弟子、ね。今はそういうことにしておこうか。よろしくなまえ」
「はい、よろしくお願いします」
なまえがわざとらしく先生を連呼しているようにタルタリヤには聞こえた。
彼は彼自身がなまえの嘘に気づいているぞと言外に含ませる。
だが、なまえは動じなかった。
何か反応が見られると思ったがなまえは自然な態度でタルタリヤに向かってただ朗らかににこりと笑うだけだった。
「……」
果たして彼女はただの鈍い娘なのか。
それとも演技が上手な抜け目ない者なのか。
いくらファデュイの執行官として働くタルタリヤといえどまったく情報のない初対面の人間に対してその内面までは見通すことは難しい。
しかし、彼女が嘘をついたというのは間違いない。
あくまでも弟子という態度を崩さない彼女の姿にその化けの皮を剥がしてやりたくなった。
加えて、タルタリヤは鍾離に対して少し……そう、ほんの少しだけ前の迎仙儀式から始まったあの件について根に持っていた。
なにせタルタリヤは鍾離の手のひらで転がされていたと言っても過言ではないのだ。
まあ手のひらで踊らされていたのはタルタリヤだけではなく仙人、七星をはじめとした璃月全ての人なのだが。
しかし最終的に悪役として人々の矢面に立たされたのはタルタリヤ1人である。
彼も戦いを存分に楽しんだとはいえ、目の前の空には邪眼を使用しても負けてしまった。
しかもせっかく苦労を重ねて禁忌滅却の札を偽造し、それの効果を検証したうえで複製し召喚した上古魔神も呆気なく封印されてしまったのだ。
これでは悪役は悪役でも三流である。
だから、その元凶ともいえる鍾離には軽い意趣返しのようなことをしてやりたいと少しばかり考えていたのだ。
そんな時目の前に現れたこの鍾離の弟子(仮)。
タルタリヤの脅しといえる言葉を受け流し涼しい顔をしているこの弟子(仮)。
そんな彼女を見てタルタリヤは1つの案が浮かんだ。
彼女を利用してやろうと思った。
それは簡単なもので成功しても失敗しても互いに実害はないはずだ。
「それで、なまえは鍾離先生の何の弟子なの?」
「……、戦いです。先生はとてもお強い方なので、私からお願いして戦いを教えてもらいました」
「……へえ」
たしかに鍾離は強い。
彼の正体からしてもそれは明白だろう。
だからなまえのその言葉におかしいものなどない。
なまえのその答えはタルタリヤにとって僥倖だった。
「じゃあ、俺と戦ってみない?」
「……え?」
「おい! 何でお前となまえが戦うんだよ!」
「単なる好奇心だよ。鍾離先生のお弟子さんがどれだけ強いのか気になってね」
どう?と言いながらなまえに尋ねたタルタリヤは彼女の返答を待つ。
「それになまえはかわいいし、俺が勝ったら璃月でも案内してもらおうかな?」
「なっ……!」
「どうかな?」
「……」
なまえの様子を見極めるようにタルタリヤは彼女に近づいた。
パイモンが絶句しながらも、あわあわと慌ていて、空が頭を抱えて首を振っている様子が見えたけどタルタリヤは気にしなかった。
「……タルタリヤさん」
「なんだい」
「それは、……っ!」
なまえは言いかけた言葉を忘れたようにタルタリヤの後ろを見ながら驚いたように目を見開いた。
一体何があったのかと思って、旅人とパイモンも目を向けるとなまえと同じようにそれを認めて、顔色をさっと青くした。
言葉にすると「あ……まずい……」という感じであった。
3人の様子に背後で何かただならぬことが起こっているのだと思って振り向こうとしたタルタリヤ。
だが振り向く前に彼の肩に手が置かれた。
「彼女から離れてもらおうか、公子殿」
「……っ!」
静かにいつもよりずっと感情ののらない無機質な声が響いてなまえはまた肩をびくつかせた。
大袈裟なほど驚いたなまえは彼のその声の裏にある感情に気づき、真っ青になった。
そんななまえをはじめとした3人の様子を不思議に思いながらもタルタリヤは普段通りの様子を維持したまま肩に手を置いた本人に挨拶をする。
「やあ、鍾離先生! 彼女、とてもかわいいね。一度手合わせしてみたいよ」
「……なまえは戦わない」
弟子への許可は師匠にとるべきである。
それが本当の関係であるならば。
しかし、この2人が師弟関係ではないことはわかっていた。
だからこそ、わざと聞いたのだ。
しかし、鍾離は少し眉を顰めながらもなまえは戦わないとはっきりタルタリヤに告げた。
「なぜ鍾離先生が答えるんだい? なまえのことはなまえ自身が決めることだろう?」
「まさか。彼女は俺のものだ。男と2人きりにさせるわけないだろう。……旅人、俺達はこれで失礼する」
決定権は俺にあると言わんばかりの鍾離の態度は気になったが、それを尋ねることはできなかった。
なぜなら、それだけ言うと鍾離はなまえに一言も声をかけることなく、いきなり彼女を抱え上げたからだ。
「……えっ、きゃあ! ……だ、旦那様?! お、往来ですよ! おやめください! 旦那様!? えっ、ちょ、……おろして~!!」
「「「!!??」」」
残された3人が戸惑う中、平然とそして手慣れたようになまえを横抱きにして抱え上げた鍾離。
足をバタバタさせてなまえが悲鳴をあげたけれど、鍾離が動揺することはない。
暴れるなまえを抱えても落とすことなく安定感を見せるのは流石と言ったところか。
それどころかなまえの耳元で何事か呟くと彼女はハッとしたように周りを見渡して、真っ赤になるとそのまま鍾離の首に手をまわして顔を隠した。
そのまま借りてきた猫のようにおとなしくなったなまえの姿に鍾離は満足気に頷くと、通行人達の視線をものともすることなく人混みの中に消えていった。
しばらくして通行人も何だったのかと首を傾げながら元の用事を思い出して歩きはじめた。
「……なまえさん大丈夫かな」
すっかりもとの喧騒に戻った璃月港で残された空がぽつりと呟いた。
そんな空の様子に消えていった2人をみていたタルタリヤが空達へと顔を向けた。
「……それで。なまえは一体何者なんだい?」
「おい、タルタリヤ。お前璃月から出たほうがいいんじゃないか」
誰もタルタリヤの問いには答えなかった。
その代わりにパイモンが彼に向けて助言を送った。
そんな頭を抱えたパイモンの言葉にタルタリヤは首を傾げた。
「それは……彼女が高い戦闘力を有しているから?」
「えっ!なまえは戦えるのか?!」
「あの身のこなしは相当戦えると思うね。本気で一度お手合わせ願いたいぐらいだ」
タルタリヤは鍾離に抱えられて消えていったなまえの姿を思い出した。
隙のあるように見せかけてまったく隙がなかった。
不自然なほど落ち着いた佇まいは年不相応に思えたとタルタリヤが話す。
それを聞いた2人は呆れた態度を隠そうともしない。
「お前……本当に戦うことが好きだな……」
呆れた様子のパイモンに笑いかけた。
タルタリヤはそれが褒め言葉と言わんばかりに人のいい笑みを浮かべた。
にっこりと爽やかに笑う。
「ねえ相棒、これから一戦手合わせしないかい?」
「それより逃げたほうがいいと思う」
タルタリヤの提案に至極真面目な顔で空は言葉を返す。
「そうだな。タルタリヤ、お前鍾離に殺されるんじゃないか」
殺すとは穏やかな話ではない。
鍾離の正体を知った以上、只事ではないことは理解できる。
そんなになまえにちょっかいを出したことは彼の逆鱗に触れることだったのだろうか。
神妙な様子でタルタリヤに告げる2人にますます正体が気になった。
「まさか。鍾離先生を怒らす理由がわからないな。結局、本当はなまえは何者だったんだ」
「嘘だって知ってたのか?!」
なぜなまえが嘘をついたのかはわからなかったが、嘘だとバレていないと思っていたパイモンは本気で驚いていた。
そんなパイモンにタルタリヤはあれで騙せていたと信じていたのかと逆に驚いた。
「あれだけあからさまな態度をとられたら俺じゃなくても気づくと思うけど……」
「うん、確かにわざとらしかった」
「おい! 空!! 気づいてたなら言ってくれよ!」
そんなタルタリヤの言葉に空もまた同意して、いつものパイモンのツッコミが空に炸裂する。
バレていたなら仕方ないとパイモンは両腕を腰において自分のことではないのに、少し踏ん反り返って正解をタルタリヤに教えることにした。
「仕方ないから教えてやるぞ! なまえは鍾離のお嫁さんだ」
「……え?」
弟子ではないと思っていたがまさか嫁だとは思わなかった。
嫁ならば少しやりすぎたかもしれないと少し反省した。
演技とはいえ夫の前で嫁のことをいかがわしい目で見ていたことは確かに怒られて然るべきである。
家族を大切にしているタルタリヤだからこそ余計に思う。
「それ……本当?」
「本当だ。だから、嫁が他の男に誘われて良い顔をする旦那がいるはずないだろ。鍾離は怒ったらこわいんだからな……!」
何かを思い出すかのように小さく震え出すパイモン。
パイモンの身に何があったのかは知らないが、相当なことがあったに違いない。
「……」
「まあ、いくら怒ってても流石に嫁に酷いことはしないだろ……」
パイモンの言葉は璃月港の喧騒に消えていった。