踏み出せば青い空
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「もっとすごいものをオイラが見せてやるぞ!」
なまえに褒められまくって気を良くしたパイモンが彼女をどんどん連れ回す。パイモンに引っ張られるようにしながらなまえは建物の影へと消えていった。そんな2人を見届けた後、空は魈に話かけた。
「魈、居心地はどう?」
「……悪くはない」
そうして始まった世間話のような雑談。いつもより彼は丁寧に空の問いに答えてくれたように思えた。その後も幾つかの会話をして空が何かやりたいことはあると何気なく聞いた時に魈がひとつの願いを口にした。「時間があるなら、璃月港に来てはくれぬか」と。
「……璃月港って、城内だよね?」
「ああ。時間があれば璃月港を案内してほしい。……ないなら、別に構わない」
璃月港を案内してほしいと切り出した魈に対して空は少し戸惑いながら頷いた。海灯祭の時でも散々人の多いところは好きではないと言われて、明霄の灯を見せるのにもなかなか苦労したのだ。その彼が自分から人混みの中に行きたいと言うなどと空は口には出さなかったがひどく驚いていた。彼が快く案内するよと答えると魈は少し嬉しそうに頷いた。その後、空がなぜ璃月港に行きたいのかと尋ねると魈は凡人の生活には興味はないと前置きしたうえで、空の行動が魈に影響を与えたと話してくれた。
「その中で起きた物語……それら一喜一憂を自ら経験しなければ、お前の気持ちを理解できないと思っただけだ」
理解したいと思ったら何もせずにはいられなかったと少し躊躇いながらも正直に話してくれる魈。そんな彼からの信頼を感じて空はうれしく思った。友達だと思ってくれたらいいな、と。
「それに、なまえに見せてやりたい。なまえは凡人の生活に興味を持っているようだからな」
「そうだったんだ」
魈が大切ななまえのことを空に話すことも彼への信頼のあらわれである。なまえが凡人に興味を持っていたことを魈は知っていた。それを彼女から直接聞いたことはなかったけれど、長年の付き合いの中で言わなくたってわかるものだ。望舒旅館でも興味深そうに階下の凡人たちをよく眺めている所も見ている。多くの人がいる璃月港を間近で見て、その生活を体験できたのならきっと彼女も喜んでくれるだろう。
けれど、魈が人のいる場所に近づかないようにしている理由も知っている。だから、魈にとって空の存在はまたとないチャンスでもあった。璃月港にも詳しい空がいるのなら魈の願いを叶えて、極めて安全になまえと璃月港内を歩くことができるのではないだろうか。それに空がいるならなまえも安心してくれるだろう。
「――あれがモンドの建物なんだね! 隣国なのにあんなに違うものなのね」
「そうだな! 国ごとに家の形も違うから、街並みの印象も違って見えるんだぞ」
パイモンに本当に隅まで案内されたらしいなまえはひどく楽しそうな様子で帰って来た。モンドの建築様式が璃月と全く違うことに興奮気味であった。空と会話をする魈を見つけてなまえは何があったのか興奮冷めやらぬまま彼に話し出す。
そんななまえの話を魈は静かに聞いていた。静かではあったがなまえを見つめる彼の目は穏やかなもので、空は魈にとってのなまえがどういう存在なのかわかったような気がした。魈に話を聞いてもらい、少しして落ち着いたなまえ。そんな彼女に魈は先程の話を切り出すために声をかける。
「なまえ、璃月港を見てまわらぬか?」
魈の提案になまえは驚きを隠すことはなかった。なまえは行きたいと即答しようとしたが躊躇った。それよりも魈自身のことを心配したためである。
「……魈、無理していない?」
「していない。先程旅人に璃月港を案内するよう話をした」
「魈が……?」
「ああ。我から頼んだ」
「そっか。……、じゃあ、行こうかな」
はじめは躊躇ったなまえだったが魈の自発的な行動だと知ると彼女も同意した。その言葉からは先程の興奮した様は鳴りを潜めていた。だけど、なまえの嬉しさを噛み殺し切れていないその小さな笑み。
「空くん。璃月港を案内してくれるの?」
「うん。俺とパイモンで2人を案内するよ」
「……ふたりとも、ありがとう。よろしくお願いします」
なまえは今度こそ嬉しさを隠さずに笑顔になった。
――
璃月港に入るための橋を渡りながらなまえは興味深そうに辺りを見回している。立ち並ぶ店が見えてきて、ひとりで何処かへ行きそうな彼女をつなぎ止めているのは魈と繋がれた片手だけだ。時々駆け出しそうななまえを魈が無言で繋いだ手に力を込めて引き留める。何度か繰り返して、落ち着いたらしいなまえが恥ずかしそうに魈の隣を歩いていた。
「……璃月には空くん達より私たちの方が長くいるのに案内してもらうなんておかしいね」
「璃月港にはなかなか足を踏み入れないからな」
恥ずかしさをごまかすためかなまえはそんなことを口にした。くすくすと小さく笑ってはいるが先ほどの恥ずかしさはまだ抜けてないようでその頬は少し赤い。そんななまえの姿が見られただけで魈は空に頼んで良かったと思っていた。
「そうだね。空くん、パイモンちゃん、いろんなところ案内してね!」
「まかせて。魈もなまえも……2人とも満足できるように計画たてたから」
「おう! オイラたちに任せとけ! 璃月港のことならもうオイラたちの庭みたいなものだからな!」
なまえのお願いに空は自信満々に頷いて、パイモンは自分の胸を軽く叩いた。
設定
なまえ
凡人好きの仙人。凡人が好きと言うよりは凡人の作り出す新しい慣習に興味があるのかもしれない。
魈
凡人はやっぱり遠巻きで見てる方がいい仙人。旅人との出会いによって凡人に対する評価が変わってきたのかもしれない。
空
ハウジングがうまくいって上機嫌な旅人。魈が歩み寄って来てくれて嬉しい。璃月港のどこを案内するかはパイモンと一生懸命計画を練った。なまえのために女の子の好きなものを思い浮かべた時に妹のことを思い出したのかもしれない。
パイモン
知識いっぱいで説明上手な旅人の頼もしい非常食。新しい家ができて野宿をしなくなってとても上機嫌。璃月港観光計画のせいで少し寝不足気味なのかもしれない。