二者択一はままならぬ
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「なまえはどう思う?」
「え、ええと、……うーん、……」
私は困っていた。
目の前に置かれた二つの小さなからくりとその図面。
その優劣を判断せよと言う製作者である2人の友。
「やっぱり私にはわかんないよ……」
そう言うと特段怒った様子も、気分を害した様子もなく、いつもの如く2人は丁寧に自身の自信作について説明してくれる。
いつも話を聞いているし、言っていることはわかる。
だって今まで様々なからくりの説明をしてもらっているのだから。
でも、私には判断ができない。
「仕掛けの術には詳しくないんだってばー……」
知ってるくせにー……そう言って嘆いても2人は知らん顔でどちらの方がより優れているか熱弁している。
いつもこの熱意に負けてしまっても変わらず2人のそばにいるのは私が彼女たちを好きだからなのだろう。
ちなみに2人が来る前に一緒にいた歌塵ちゃんなんて琴を弾いてくると2人が来る前に私の前から去っていった。
今思えばあれは2人が来ることを知っていたのだろうか?
今度千里眼でも持っているのか聞いてみよ。
……そんな現実逃避をしたって2人の視線から逃れるはずもなく、私は2人のからくりを改めて見つめることにした。
広い食卓の上に置かれた二つのからくり。
弩のようなものが帰終ちゃんので、もう一方が留雲ちゃんのもの。
しかも2人とも惜しげもなく設計図面まで見せてくれて、ここはこうだとか、この部分が良くてこの部分に新しい技術が使われているとか私に解説しながらも楽しそうに議論を繰り広げている。
いつも2人のような玄人が用意してくれるような簡単なからくりしか作れない私から見れば1から図面を引いてそれを本当に作り出しちゃうどちらもすごいと思うのだけれど2人は度々どちらがすごいかと張り合っていた。
いつもは明るい帰終ちゃんも冷静な留雲ちゃんもこの時ばかりは白熱して私は審判代わりに呼ばれるけどいつもレベルが高すぎてわからないと匙を投げてしまう。
ちなみに何個も持ってこられた時はヤケになって交互に選んでたらあっさりバレて怒られたりもした。
「帰終ちゃんのも、留雲ちゃんのも、すごいと思うけど……それじゃあだめなんだよね?」
「「もちろん」」
重なり合った声に息ピッタリだなと感心した。
それにしても何故こんな時に他の仙人たちはいないのか。
いつもなら我も、我もと自慢の一品を持ってくるのに今日は誰も来ない。
「良いかなまえ。妾も帰終も己のからくりに自信を持っている。だからこそ、どちらがより秀でた物を作っているのか他の者に批評をしてほしいのだ」
「そうね、私も自分のつくったからくりがどう思われているのか知りたいわ!」
留雲ちゃんはともかく、いつもなら宥め役にまわるはずのはずの帰終ちゃんがこんな調子だし。
本当にどうしよう……。
2人から期待に満ちた目で見つめられて困り果てた私は無意識のうちに落ちた髪を耳にかけるために手をやった。
その時、髪に挿した簪が揺れて音が響く。
――あ、そうだ。
丁度いい人がいた。
あの人なら公正で私にとっても一番頼りになる人だから。
彼の今日の予定を思い出しながら私は立ち上がる。
そして私に詰め寄る2人に高らかに宣言することにした。
「旦那様を呼んでくるね!」と。
そう言って、半ば逃げ出すようにその場から走り去った。