あなたを好く理由がない
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ロサリアにしては珍しく少し自信のなさそうな声色だった。なまえはそのことに少し驚く。ロサリアという人間になまえが持っていた認識は自信のない発言はしないというものだった。それともうひとつ。
「(……思ったより遅かったな)」
なまえはもっと早い段階で問い詰められると思っていた。それもこんな曖昧な問いかけではなく、もっと直接的な方法で。ロサリアがシスターになる以前の経歴は知らない。だけど、彼女とは見習いの頃からの知り合いであった。だからなまえは彼女の持つある種の異常性に気づいていた。それはきっとロサリアだって同じだろう。お互いがお互いに察知していた違和感を隠しておくにはそろそろ限界であった。思い直せばこのタイミングはもうギリギリのラインであったのだろう。仕方ないといえば仕方ない。むしろ、ロサリアにしてはなまえの思った通り遅すぎるぐらいだ。
「ロサリアは……私がただのシスターじゃないと思うの?」
「……」
なまえの返す答えにロサリアは何も答えなかった。何も答えないロサリアになまえは彼女が返答をしない理由がわからなかった。ただ、ひとつの仮説は思いついたけれど、それが当たっているという確信には至らなかった。
「風神バルバトス。……神はいつ私たちに、信仰に対する礼を返してくれるのかな?」
結局なまえは先ほどのロサリアの曖昧な問いに曖昧な答えで返した。でもロサリアには伝わるだろう。
「このノート、見せてあげようか?」
なまえはロサリアには手に持ったノートを差し出した。ロサリアはなまえの行動の意図がわからず戸惑いを覚えたが顔には出さなかった。感情を表に出さないのは慣れたものだ。ノートを受け取ったロサリアはパラパラとノートをめくる。一見すると何も問題のない文字と絵の羅列。
「……日記ね。ただの、日記」
ロサリアは誰に言うまでもなく呟いた。そう声に出しながらも、日記だというこのノートの内容の不自然さに気づいていた。日付と天気があっていない。天気と内容がずれている。そんな不自然なものが日記だと呼べるはずがない。
「そうだよ。これは日記。私の、私だけの日記」
「そう……、返すわ」
別になまえの正体をロサリアが気づいていようとどうでも良かった。ノートが日記ではないと気づいたってそれは証拠にはならない。だって、それは暗号であるけれど解読したって、ただのモンド料理のレシピが書かれているだけなのだから。なまえの得た情報は全て自身の脳内にある。この日記だってただの記憶を引き出す引き金でしかない。証拠なんて何もないのだ。それこそロサリアがなまえの心を読めなければ証拠は見つけられない。それでも。一度気づいた疑惑はもう取り消せない。土に種を撒くと芽が出るようにその疑惑は怪しいノートという肥料によって育ち、収穫されるまで疑惑は広がる。いや、ノートの暗号が解けてもきっと他にあるはずだと探索の手を緩めないかもしれない。そこまで考えたらなまえはなんだか笑えてきた。自分の疑惑を確信へと変えようとするなんておかしな話だ。
「ふふ……。ねえロサリア」
そこまで考えてなまえは自分が思っているよりずっとこの不真面目なシスターを気に入っていたことにようやく気がついた。証拠が見つかる日なんてこない。それをわかっているからこその行動だとしても、餌をばら撒くなんて本当に笑える話だ。
「私って、……怪しいかな?」
首を傾げてわざとらしくなまえはロサリアに尋ねた。
「……どうかしら」
しばらくして絞り出すように声を出したロサリアの答えはひどく曖昧だ。彼女はモンドの闇で動く人間である。多くの怪しい人間を見ている。
「――でも、放ってはおけないわ」
気づいてしまったら後には戻れない。知らなかった頃にも戻れない。
「……そっか。じゃあ、もしも私がロサリアの
なまえは何でもないようにロサリアにそう笑いかけた。いつか彼女がなまえの決定的な証拠をつかんだら、その時は大人しく観念してもいいのかもしれないとぼんやりと思った。(そんな日が来ることなんてないのに)
だからそれまでモンドを満喫しよう。どんな形であろうとずっとモンドにはいないのだから。なまえはわざとらしく息を吸った。そして、静かにゆっくりと息を吐いてから口を開いた。
「……だから、ねえ、ロサリア」
「……」
「ロサリアは、ずっと、……ずっと、私を嫌いでいてね」
人の感情とは気まぐれである。昨日の敵は今日の友。どこかで聞いたそんな言葉のようにいつまでも同じ心でいられるはずがない。けれど変化を受け入れてはいけない。ロサリアとなまえは友人ではない。ずっと、何があっても2人の道は平行線をゆく。なまえもロサリアも好き好んで選んだ道ではないがその道を進んだ今の自分を責めることはないだろう。殉教ともいえるそれはきっと2人がモンドに住む誰よりもシスターという職に相応しいものであるといえるはずだ。その道が明るいものではないとしても、顔を上げて外を歩ける。自分の行動が
「ええ、わかった。なまえ。いざとなれば私が……、殺してあげる。だからそれまではずっとモンドにいればいい」
好きにならなければ迷いなく断罪できる。モンドに仇なすものをきっとこの手で切ることができる。だから、なまえもロサリアもお互いを好ましく思わない。きっと、いつかロサリアが悔いなくその手でモンドを守れるように、なまえはロサリアにそういう呪いをかけ続けるのだろう。
「うん、約束よ。シスター・ロサリア」
なまえはまたにっこりと笑った。彼女はロサリアにとって疑わしい人間である。モンドに害をなしているかもしれないのに、その笑顔はどこまでも明るくてロサリアを見つめる瞳に何の揺らぎも見えなかった。もし、その時が来たら本当に彼女に手をかけることができるのだろうか。
その答えがわかっていながらロサリアはなまえに対して肯定するように頷いた。
設定
なまえ
シスター。見習いの頃からロサリアと一緒にいる。ロサリアと違って敬虔なシスターである。しかし、その裏では……?
ロサリア
シスター。表向きは風神ブットバースだかバルバトスだかに仕えるシスター。疑惑の同僚を様子見しているのは一体どういう意図を持っているのかはロサリアにしかわからない。