その引き金をひかないで
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その日、たまたま出会った2人はいつものように話をしながら歩く。昨晩雨だったせいで水たまりが何箇所かできていて、踏まないように避けながらいつものように他愛のない話をしていた。
今思えば浮かれていたのかもしれない。いつもなら大したことないことだった。ベネットにとって何もないはずの空から物がふってくるのなんて日常茶飯事なのだから。たとえそれが木ノ実であれキノコであれ、何かの瓶であろうとも彼には別にどうってことない不運のひとつなのだ。彼にとってはそのはずだった。
「ベネット!」
けれどなまえにとってはそうではない。ベネットと初めて会った日以来、彼はなまえの前では一度も不運に見舞われなかった。それがベネットに油断をもたらした。そしてなまえが咄嗟に人を庇える人間だったことも災いした。
「ッ痛……」
横から衝撃を受けたベネットは肩と背中を地面に打ち付けて小さく声を上げた。しかしその声はそれよりも大きな音にかき消された。
「……ッ」
ベネットはゆっくりと起き上がった。痛みが出た肩を抑える。ここで隣にいたなまえのことを思い出した。いくら痛みに慣れているとはいえ、ベネットだって痛いものは痛い。とっさにきた痛みによる衝撃で少し記憶が飛んでいる。慌てて周りを見渡した。うつ伏せで倒れるなまえの姿を見つけた。
「なまえ……?」
動かないなまえにベネットは駆け寄った。なまえの姿を見て、そこから混乱のせいかベネットの記憶は曖昧だ。ただ、彼女から発せられる弱々しくもベネットを気遣う声だけが脳裏に響いていた。
ベネットにとって、怪我とは日常茶飯事である。そして、彼の周りの人間―冒険者協会の仲間―にとっても遠いものではない。戦闘を嗜む者は大なり小なり怪我をする。だから怪我に耐性ができる。軽い応急処置だってできるようになる。だけど、戦えない者はどうなのだろうか?
あの時ベネットを庇ってなまえは怪我をした。大した怪我じゃないと言ってなまえは謝るベネットに笑ったが、その夜熱を出したことを知っている。
その時に彼は気づいてしまった。戦えない者の弱さを。普段彼のそばにいるのは屈強なオヤジ達に戦える空やフィッシュル……。いままでベネットの側にいた大切な仲間は皆自分を守る術を心得ていた。それは当たり前のことではない。彼らが戦える者の側に位置するからこその特権であって誰しもそうではない。
「(――なまえは戦えないんだ)」
戦えるものにとっての日常は戦えないものにとっては非日常となる。なまえは自分を守る術を持っていない。彼女は普通の戦えない女の子なんだ。その事実を知った瞬間ベネットの中の当たり前が音を立てて崩れた。
「(俺は、忘れてたのか……)」
彼はこの瞬間自分の心の内に蓋をして彼女のために別れを告げると決意した。