その引き金をひかないで
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ベネットとなまえ。2人が出会ったのはモンドの大聖堂だった。いつものようにモンド城内へ帰ってきてシスター達に怪我の治療を頼んでいたベネット。彼がそのようにシスター達のもとへと現れるのは日常茶飯だからシスター達は呆れながらも優しく治療を施してくれる。
「ベネットさん、いくら頑丈な体とはいえちゃんと労ってください!」
「はは、悪い。けど俺は冒険者だから」
「まったく、全然反省してないじゃないですか! ……はあ、もういいです。城内に帰ってきたら必ず大聖堂まで来てくださいね!」
「痛ッ! ……ありがとうシスター!」
包帯を巻いた後、治療が終わった合図としてシスターはベネットの腕を軽く叩く。シスター達に礼を言ってベネットは大聖堂を後にしようと、扉に手をかけようとした。
「……っ!」
だが彼が扉に触れる前に開き、ベネットは顔を打ち付けた。
「い、たた……」
「えっ、あ……ごめんなさい! 大丈夫ですか?!」
まさか扉の先に人がいるとは思わなかったのか扉を開けた少女は痛がるベネットを見てとても焦っていた。騒ぎを聞きつけたシスター達が少女を宥めてベネットはまた彼女らの手当てを受けることになった。
「本当にごめんなさい……」
「いいよいいよ。たぶんお前のせいじゃないと思うから」
ベネットが手当てを受けた後2人は大聖堂の外にいた。神妙な顔をして謝り続ける少女にベネットは気にしてないと笑う。
「俺、不運体質なんだ。だから今回ドアが当たったのだってお前のせいじゃないから本当に気にすんなよ」
「でも……」
それでも引き下がろうとしない思い悩んだ少女の様子にベネットは一つの提案をした。
―――
何か飲み物を奢る。それがベネットが出した提案だった。それなら少女の気も晴れるだろうと思ったから。
「食べ物でもいいですか? 美味しいもの食べたほうがきっと早く治りますから!」
少女はベネットを鹿狩りに連れてきた。鹿狩りの店員であるサラがいらっしゃいと手を振った。
「あら、なまえちゃん! それに、ベネット君……? なんだか珍しい組み合わせね」
「こんにちは。怪我させてしまったのでお詫びなんです」
「そうなの? もベネット君ってしょっちゅう怪我してるよね?」
「え?」
「な? 言っただろ? 不運体質だって。だから本当にお前が気にすることはないんだよ」
サラに指摘されてベネットは少女に向けて苦笑する。謙遜だと思っていた少女は驚いているばかりであった。
「今は席が空いてるから座って食べてもいいわよ。でも申し訳ないけどメニューはテイクアウトのしかできないの」
そうサラに伝えられたので注文を済ませた2人は鹿狩りのテーブル席に着く。モラは支払った後なので後は頼んだ料理が来るのを待つばかりだ。
「悪いな。本当に奢ってもらって…」
「いえ。私が悪かったんですから。気にしないでいっぱい食べてください!」
「そっか。ありがとな!」
頼んだ食事が運ばれてきて、なまえとベネットは食べはじめた。あらかた食べ終わり、なまえがベネットの姿を改めて見つめる。鼻に貼られた絆創膏に腕にみられる傷。これらは彼やサラが言うような不運の先についた傷なのだろうか。気にはなったが初対面の人間にそんなことを聞けなかった。
「(……あれ。私、名前言ったっけ?)」
自己紹介をしていなかったことに気づいたなまえは内心慌てた。たしかにいろいろあったが名前を言わないのはだめだ。サラの言葉にお互いの名前が分かったとはいえ、自己紹介はしなくてはいけないと思いなおしたなまえは改めてベネットに声をかける。
「あ、あの……。お名前ベネットさんって言うんですね」
「おう。そういえば自己紹介するの忘れてたな。俺はベネット! ベニー冒険団の団長だ!」
「冒険者だったんですね! 遅くなりましたが私はなまえ。よろしくお願いしますねベネットさん」
「ベネットでいいよ。同じぐらいの歳だし敬語もいらない」
「そう、ですか? ならベネット改めてよろしくね」
「おう、よろしくななまえ!」
それが2人のはじまりだった。次にベネットがなまえを見たのは大聖堂内だった。ベネットはやはり冒険後の治療のために大聖堂に来ていた。大聖堂内に設置された長椅子に座る後ろ姿を見てベネットはすぐになまえだと思った。近寄って声をかけようとしたが、なまえは熱心に何かを祈っているようでとても声をかけられなかった。代わりに手当てをしてくれるシスターに話を聞いた。
「なあ、あそこに座ってるなまえっていつも来てるのか?」
「え?なまえちゃん?……ああ、この間の件で仲良くなったんですね。なまえちゃんのお父様が騎士団に所属されていてこの間のファルカ大団長の遠征に同行されたんです」
「遠征……」
「ええ。それでなまえちゃんのご家族はお父様だけだから無事に帰ってくるように毎日熱心に祈ってるんですよ」
「じゃあ、もしかしてこの間も……」
シスターの言葉にベネットの顔色が少し青くなる。
「……」
何も答えずに困ったように笑うシスターの顔を見てベネットの予想は当たっていたのだと思い知らされた。シスターから話を聞いてしっかりと治療してもらったベネットは大聖堂の外でなまえが出てくるのを待っていた。外に出てきたなまえを捕まえて頭を下げた。
「ごめん!!」
「え、突然……どうしたの?」
「俺のせいでこの間家族の無事を祈れなかったんじゃないか?」
「え、ああ。大丈夫だよ。あの後もう一度行ったから。それよりも私はベネットに会えて良かったと思ってるもの」
「……へ?」
「? どうかした?」
ベネットという人間は自他とも認める不運が付き纏っている。彼のそばにいれば嫌でもその被害に遭う。ベネットは自らを冒険団の団長だと名乗ったが団員達は彼の不運の犠牲になって団を去っていた。
彼は育てられた親の影響か本質はとても優しい人間だ。だが不運というものはそんな彼の本質を簡単に覆い隠してしまう。彼は初対面の人に会えて良かったと言われたことは少なかった。だからこそベネットの心に彼女の言葉は彼女の想像以上に彼の心に響いた。
それからというものモンド城内で会うたびに2人は様々な話をして次第に距離を詰めていった。だが、それも転機が訪れることになる。その転機はなんてことない日に訪れた。そんな転機とはなんでもない日常に隠れていることが多々あるのだ。