敬愛的対象への疑問
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岩の国の七天神像は当然ながらなまえが見慣れた人の姿をしていた。
本人はいつも見ているが石像として目の前にするとなんだか変な気分である。
しかも、今のかっちりとした服装とは違う姿であるから尚更だ。
そんなふうになまえが七天神像に見惚れている間にもパイモンと空は本来の目的である琉璃百合を探すようにキョロキョロと辺りを見回していた。
「えっと、たしか前はここじゃなくて、この先の場所で鍾離と待ち合わせしたんだよな」
「うん、それでトリックフラワーが……、」
パイモンの話す「前」というのはタルタリヤの紹介によって鍾離と出会った時の話だ。
送仙儀式の手伝いをしてほしいと頼まれた内容のひとつだった。
あの頃は何も知らずにただ言われるがままだったが今思うと変な話だったと思う。
そういえば歌も披露したのに結局トリックフラワーと戦っただけだったな……とそんなことを考えながら空が呟いた時、後ろから声をかけられた。
「――こんにちは」
その声はどこかで聞いたもので振り返ると見慣れた姿があった。
水色のふわふわとした髪に少しのんびりと穏やかな雰囲気を纏いながらこちらを見るその人はその雰囲気からしてどうやら職務中ではないようだ。
「甘雨!久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです。……あの時はご迷惑をおかけいたしました」
3人に声をかけてきたのは半仙の七星の秘書、甘雨であった。
勤務時であればしっかりとしている甘雨であるが勤務外の彼女は麒麟の気質だろうか穏やかな雰囲気を纏っていた。
ちなみに彼女の言うあの時というのは彼女が自分の出自について悩み、七星の秘書の仕事を一方的な勘違いからやめてしまい、仙人に戻ると言った時のことである。
空とパイモンは彼女を秘書に戻すためにいろいろと尽力して最終的には彼女も納得の上、秘書としての仕事を続けることとなったのだった。
そんなことがあり、甘雨は彼ら二人には恩がある。
そんな彼らを見かけたからこそ甘雨は声をかけた。
そして、彼らの他にもう一人見かけたことのない人物を見つけて誰だろうと疑問を抱いた。
「それで……えっと、あの……そちらの方は……?」
「……彼女はなまえ」
「鍾離の……えっと前に会っただろ? 往生堂の客卿で、その……」
なんだかモゴモゴと躊躇うパイモンの話し方をなまえは不思議に思った。
会ってからそれほど時間は経っていないがそんなふうに言い繕おうとする姿は初めて見たからだった。
そんなパイモンの様子に助け舟を出すように答えたのは甘雨だった。
「鍾離先生のことは存じています。往生堂の客卿の方ですよね。……凝光様をはじめとした七星の皆さんも、彼のことは一目置いています」
「……?」
そんな甘雨の言葉にまたなまえは引っかかった。
その甘雨の他人行儀な言動になまえは首を傾げた。
頭にあるツノといい、なまえから見ても彼女は仙家の者だと思ったのだが夫とは知り合いではないのだろうか?
彼女の応対からそのような疑問が頭に浮かび、そして彼女には何らかの違和感が生じていることにも気づいた。
だからなまえは甘雨のことを“見る”ことにした。
「(……? あ、……、この子……)」
不躾だとは思ったが彼女の本質を見るためにじっと見つめさせてもらった。
それで理解した。
この仙獣は半仙の獣だ。
答えを得ることができたが、結局なぜ彼女が夫を知らないのかはわからない。
半仙だからなのか。
でも半仙とはいえ仙獣が七星の秘書ということは帝君と契約を交わしたからではないのだろうか。
「??」
なまえはますますわからなくなって混乱してしまった。
なまえの不思議そうな表情にいち早く気がついたのは空だった。
だから彼はすすす、と静かになまえに歩み寄る。
「……甘雨は鍾離先生の正体を知らないんだ」
そして、こっそりと耳打ちした。
それを聞いて驚きながらもなまえはそういうことかと、疑問の答えを得てようやく納得した。
どういう事情かは知らないが彼女はどうも帝君が同じ璃月港内にいる事を知らないらしい。
「なまえ、甘雨は帝君と契約を交わした仙人の1人でいまは璃月七星の秘書なんだ」
「なまえです。よろしくお願いします」
なまえと空が内緒話をしている間にパイモンはなまえと鍾離の関係を告げたようだ。
それから彼女と話していたパイモンがそのままの流れでなまえに甘雨を紹介した。
そこで甘雨はあらためてなまえを見て、不思議そうに何度か瞬きを繰り返した。
そして躊躇いがちに口を開いた。
「あの、不躾な質問で申し訳ないのですがなまえさんは仙人でしょうか?」
甘雨はなまえの内にある人間には持ち得ない能力に気づいたからこその問いかけだった。
人智を超えた力というのはいくら隠そうとしてもわかるものにはわかるのだ。
特になまえは力を隠すことは下手だったのでわかりやすかった。
そんな甘雨の言葉になまえは悩むことなく頷いた。
鍾離に魔神である彼も仙祖と呼ばれていることを聞いていたからだ。
つまり、彼と同じ魔神であるなまえも仙人の括りに入れても大丈夫だろうと言う考えのもと出した答えである。
そして一応告げておこうと口を開いたそのひと言こそ甘雨を勘違いさせる決定打となった。
「ですが帝君と契約を交わしてないのです」
そう付け足したなまえの言葉に甘雨は彼女が若い仙獣だと勘違いをした。
なまえが岩王帝君こと岩神と契約を交わしてないのは事実だ。
だってなまえは神であった頃の彼を何一つ知らないのだから。
そうやって間違った形で疑問の答えを得て甘雨は納得した。
だから彼女は話を進めることにした。
「それで、皆さんはどうしてここに?」
「あ、そうだった。なまえが花束を作るための花を探してるんだ」
「花、ですか……? ではこれから琉璃百合を見に行こうかと思っていたので一緒にいかがですか?」
甘雨がここにいた理由は瑠璃百合を見に来るためだったのだ。
人工のものではなく自然物を見たい。
そう思ったからこそ甘雨は忙しい合間を縫ってわざわざ璃月港から出て来たのだった。
そんなふうに、にこやかに誘ってくれる甘雨になまえはありがたく頷いた。
「そういや、オイラたちは前にも甘雨に琉璃百合をもらったよな」
「はい。送仙儀式の時でしたね……。あの時は鍾離先生もいらしてましたね。あの方のおかげで儀式も滞りなく進めることができました」
「お、……おう、そうだな」
噂通りのお方でしたと感心したように話す甘雨にパイモンは曖昧に頷いた。
思わずそいつが岩神だと告げてしまいそうになりながらなんとか耐えた。
それから皆で琉璃百合の咲く地へと向かうこととなった。
設定
なまえ
甘雨に嘘をついてはないが結果的に色々勘違いしてくれたのでややこしい事態になることは避けられた。他人のことを正しく見通せる特殊な目を持っている。それがなぜ自分にあるのか、そして本来の使い方など大事なことはすべて忘れてしまっている。そのことを本人は知らない。
空
甘雨がなぜ帝君の正体を知らないのかはわからないが、なまえのことが魔神だとバレていないかハラハラしながら成り行きを見守っていた。
パイモン
旅人にあらかじめ止められていたから甘雨に帝君の正体を告げずに済んだ。でもちょっと言いたくなっているかもしれない。
甘雨
七星の秘書として璃月の民に幸福を与えるという帝君との契約を忠実に守っている。仙人ではなく半仙だからこそ今も璃月港で関わり続けているのかもしれない。なぜか帝君の正体は知らない。