その感情はどちらのもの?
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注意
・このお話は2021年に書いたものであり、まだスメールの魔神任務実装前でした。作中違和感があるかと思いますが目をつぶっていただけると助かります
思えば一目惚れだったのかもしれない。
明るいその声はずっと耳に残っていて、いつまでも離れなかった。
その時に見たあの笑顔もずっと脳裏で輝いていて、考えれば考えるほど何も手につかなくなりそうだった。
――
「こんにちは。冒険者協会へようこそ!」
元気の良いその声にベネットは面食らった。
「え、あれ?……キャサリンは?」
いつものように冒険者協会の窓口へと今日の依頼の確認に来たベネット。いつもと変わりなく始まるはずだった。しかし、冒険者協会の窓口係であるキャサリンがいなかった。その代わりにいたのは見たこともない少女。
「キャサリンは今は別の用事で離席中ですので代わりに私がお受けしているんです」
愛想良く笑う緑色の冒険者協会の制服を着た少女に見覚えはなかった。慣れない業務に緊張しているのかその少女の頬はほのかに赤く染まっていた。
「そうだったのか。俺はベネット。よろしくな!」
「ベネットさん……。私はなまえです。こちらこそよろしくお願いしますね」
それが2人の出会いだった。
――
数日後。
「ベネットさん!」
「おう!ってあれ?」
「こんにちは!」
「なまえ……? 今日は冒険者協会の制服じゃないんだな」
なまえに声をかけられて振り返ったベネット。以前見た冒険者協会支給の緑色の制服を着ていると思ったが今日の彼女は全く違う服装であった。それをベネットに指摘されて明らかに動揺していた。
「あ、……えーっと、その……私、情報部じゃなくて冒険者なんです」
「……え?」
「あの日は、えっと……その、代役だったのでカウンターにいただけで、」
もごもごと言い辛そうに話すなまえの顔は真っ赤になっている。別に咎めているわけではないから緊張しないでほしい。そう伝えると頬を赤く染めたままなまえは嬉しそうに笑った。
「私はこれからクエスト受注しようかなって思っているんですが、ベネットさんも……その、一緒に行きませんか?」
「いいのか? 本当に!?」
なまえの提案にベネットは喜んだ。なぜなら彼は冒険団を作ってはいるがそれは名ばかりのもので、ずっと一人で冒険をしていたからだ。
「ベネットさんがよければ、ですけど」
「俺はかまわない! ありがとうな!!」
「!!? べ、ベネットさん、っ?!」
ベネットは誘ってもらえてとても嬉しくて思わずなまえの手を握ってしまった。なまえはまさか手を握られるとは思っておらず、恥ずかしさのあまり気を失いそうになったがベネットの名を呼ぶことでなんとか堪えることができた。ここで気を失ってはせっかくの努力が無駄になるかもしれないと思った。
「じ、じゃあ、さっそくキャサリンのところへ行きましょう」
「おう!」
なまえの心臓が破裂しそうなほど音を立てているなんて気づかないベネットは誰かと行ける冒険への楽しみしか頭になかった。2人でキャサリンの元へ向かい、依頼の確認をする。
「あら、なまえ! ……ふふっ、今日の依頼はこんな感じです」
キャサリンは2人の姿を認めてなまえの名前を呼んだかと思うと嬉しそうに笑った。そして、何も聞かずとも受注可能な依頼リストを見せてくれた。2人は実力に見合った依頼を話し合って決めてそれを受注することにした。
「おふたり共! 頑張ってくださいね!」
「ありがとうキャサリン」
にっこりと笑ったキャサリンにベネットもまた元気よく礼を言って先に歩き出した。それを見てキャサリンはなまえにだけ見えるように片手で握り拳をつくると彼女だけに聞こえる声で「が・ん・ば・れ」と小さく呟いた。
――
依頼をこなすのためにモンド城外を移動中、思い出したかのようにベネットは名前に話しかける。
「今日のキャサリン、なんかやけに嬉しそうだったな」
ベネットが何気なく呟いた一言。彼は、ただそう思っただけで軽い世間話のようなものだった。だがその言葉を聞いて隣を歩いていたなまえが立ち止まった。
「なまえ?」
「……」
立ち止まったなまえの様子にベネットもまた立ち止まって彼女に顔を向けた。でも彼女は何も言わずに俯いて黙り込んだ。まさか黙り込むなんて思わなかったベネット。言ってはいけないことだったのかと焦りながら、新しい話題を提供しようと頭を回転させる。けれどもそんなにすぐ良いものが思い浮かぶはずもない。ベネットが新たな話題を思いつくより先になまえが言葉を発した。
「き、キャサリンが……、……だったのは、」
「え?」
下を向いていたせいかなまえの声はよく聞こえなかった。ベネットが聞き返すとなまえは自分の服をギュッと握り締めて顔を上げた。
「っ、キャサリンは知っていたんです。私の、こと……!」
なまえの顔を見たベネットは驚いた。赤く染まった頬を隠すことなくなまえがベネットを見ていた。感情の高ぶりのせいか涙目になっている。そんな彼女の潤んだ瞳と目があって訳もわからずベネットの顔もなまえにつられて赤くなる。
「「……」」
どちらも言葉を発しないまま、しばらく見つめあっていたが、なまえが視線を逸らしたことでそれは終わりを迎えた。また下を向いたなまえは服を握りしめた拳を開いたり開いたりしている。どれぐらいの時間が経ったのか。それが短いのか長いのかわからないほどベネットは今の状況に馴染めていない。彼はなまえが何をいうのかまったくわからずに彼女の言葉を待つしかなかった。なまえはベネットには言わなかったあの日の本当のことを彼に伝えようとしていた。
「実は、……無理言ってキャサリンさんに変わってもらったんです…」
「……へ?」
「あの時、ベネットさんと初めてお会いしたあの冒険者協会の受付……。だって私……わたしはずっと、……」
それはベネットにとっては思ってもみない言葉だった。ベネットはなまえがあの日受付にいた謎を考えてもみなかった。
「(なまえはどうしてキャサリンと受付を代わってもらったんだ? ……わざわざ頼むなんてよっぽどのことなんだろうな)」
不運という体質はあれど元来優しい人間であるベネットはまさかそこにキャサリンの用事以外の代理になる理由など思うことすらなかった。そんなことをベネットが考えている間になまえの決心がついたのか彼女がようやく顔を上げた。
なまえはベネットの目を真っ直ぐに見つめる。少し潤んだ目は何かを決意したかのように見えるが、それでも少し不安があるのか揺れていた。その不安をかき消すかのようにギュッと服を握りしめる。そしてなまえは1度、目を閉じて浅く息を吐いた。
ベネットはなまえのただならぬ様子にどうすればいいかわからず、ただ彼女を見つめるばかりだ。2人の間に会話はない。木々のゆらめきや鳥の囀る音だけが辺りを包む。なまえは口を開きかけてはまた閉じるを2、3度繰り返した後、ようやく言葉にすることができた。聞く人によればそれは躊躇う言葉とは思えないようなものだった。けれど、なまえにとっては、なによりも勇気のいる言葉であった。
「あなたと……ずっと、話がしてみたかったから」
ようやく声にのせることができたなまえ。彼女にとっては一世一代の告白のようなものだった。恥ずかしそうになまえがまた目を逸らした。そんな彼女の姿をベネットはじっと見つめていた。じわじわとなまえの言葉を飲み込んで、染み込んでいく言葉にベネットはさらに混乱するしかなかった。こんなふうに好意を向けられるなんて不運な彼には一度もなかったから。遠回しの告白と言えるなまえの言葉に何も言えずにいるベネットであった。
あとがき
・このお話は2021年に書いたものであり、まだスメールの魔神任務実装前でした。作中違和感があるかと思いますが目をつぶっていただけると助かります
思えば一目惚れだったのかもしれない。
明るいその声はずっと耳に残っていて、いつまでも離れなかった。
その時に見たあの笑顔もずっと脳裏で輝いていて、考えれば考えるほど何も手につかなくなりそうだった。
――
「こんにちは。冒険者協会へようこそ!」
元気の良いその声にベネットは面食らった。
「え、あれ?……キャサリンは?」
いつものように冒険者協会の窓口へと今日の依頼の確認に来たベネット。いつもと変わりなく始まるはずだった。しかし、冒険者協会の窓口係であるキャサリンがいなかった。その代わりにいたのは見たこともない少女。
「キャサリンは今は別の用事で離席中ですので代わりに私がお受けしているんです」
愛想良く笑う緑色の冒険者協会の制服を着た少女に見覚えはなかった。慣れない業務に緊張しているのかその少女の頬はほのかに赤く染まっていた。
「そうだったのか。俺はベネット。よろしくな!」
「ベネットさん……。私はなまえです。こちらこそよろしくお願いしますね」
それが2人の出会いだった。
――
数日後。
「ベネットさん!」
「おう!ってあれ?」
「こんにちは!」
「なまえ……? 今日は冒険者協会の制服じゃないんだな」
なまえに声をかけられて振り返ったベネット。以前見た冒険者協会支給の緑色の制服を着ていると思ったが今日の彼女は全く違う服装であった。それをベネットに指摘されて明らかに動揺していた。
「あ、……えーっと、その……私、情報部じゃなくて冒険者なんです」
「……え?」
「あの日は、えっと……その、代役だったのでカウンターにいただけで、」
もごもごと言い辛そうに話すなまえの顔は真っ赤になっている。別に咎めているわけではないから緊張しないでほしい。そう伝えると頬を赤く染めたままなまえは嬉しそうに笑った。
「私はこれからクエスト受注しようかなって思っているんですが、ベネットさんも……その、一緒に行きませんか?」
「いいのか? 本当に!?」
なまえの提案にベネットは喜んだ。なぜなら彼は冒険団を作ってはいるがそれは名ばかりのもので、ずっと一人で冒険をしていたからだ。
「ベネットさんがよければ、ですけど」
「俺はかまわない! ありがとうな!!」
「!!? べ、ベネットさん、っ?!」
ベネットは誘ってもらえてとても嬉しくて思わずなまえの手を握ってしまった。なまえはまさか手を握られるとは思っておらず、恥ずかしさのあまり気を失いそうになったがベネットの名を呼ぶことでなんとか堪えることができた。ここで気を失ってはせっかくの努力が無駄になるかもしれないと思った。
「じ、じゃあ、さっそくキャサリンのところへ行きましょう」
「おう!」
なまえの心臓が破裂しそうなほど音を立てているなんて気づかないベネットは誰かと行ける冒険への楽しみしか頭になかった。2人でキャサリンの元へ向かい、依頼の確認をする。
「あら、なまえ! ……ふふっ、今日の依頼はこんな感じです」
キャサリンは2人の姿を認めてなまえの名前を呼んだかと思うと嬉しそうに笑った。そして、何も聞かずとも受注可能な依頼リストを見せてくれた。2人は実力に見合った依頼を話し合って決めてそれを受注することにした。
「おふたり共! 頑張ってくださいね!」
「ありがとうキャサリン」
にっこりと笑ったキャサリンにベネットもまた元気よく礼を言って先に歩き出した。それを見てキャサリンはなまえにだけ見えるように片手で握り拳をつくると彼女だけに聞こえる声で「が・ん・ば・れ」と小さく呟いた。
――
依頼をこなすのためにモンド城外を移動中、思い出したかのようにベネットは名前に話しかける。
「今日のキャサリン、なんかやけに嬉しそうだったな」
ベネットが何気なく呟いた一言。彼は、ただそう思っただけで軽い世間話のようなものだった。だがその言葉を聞いて隣を歩いていたなまえが立ち止まった。
「なまえ?」
「……」
立ち止まったなまえの様子にベネットもまた立ち止まって彼女に顔を向けた。でも彼女は何も言わずに俯いて黙り込んだ。まさか黙り込むなんて思わなかったベネット。言ってはいけないことだったのかと焦りながら、新しい話題を提供しようと頭を回転させる。けれどもそんなにすぐ良いものが思い浮かぶはずもない。ベネットが新たな話題を思いつくより先になまえが言葉を発した。
「き、キャサリンが……、……だったのは、」
「え?」
下を向いていたせいかなまえの声はよく聞こえなかった。ベネットが聞き返すとなまえは自分の服をギュッと握り締めて顔を上げた。
「っ、キャサリンは知っていたんです。私の、こと……!」
なまえの顔を見たベネットは驚いた。赤く染まった頬を隠すことなくなまえがベネットを見ていた。感情の高ぶりのせいか涙目になっている。そんな彼女の潤んだ瞳と目があって訳もわからずベネットの顔もなまえにつられて赤くなる。
「「……」」
どちらも言葉を発しないまま、しばらく見つめあっていたが、なまえが視線を逸らしたことでそれは終わりを迎えた。また下を向いたなまえは服を握りしめた拳を開いたり開いたりしている。どれぐらいの時間が経ったのか。それが短いのか長いのかわからないほどベネットは今の状況に馴染めていない。彼はなまえが何をいうのかまったくわからずに彼女の言葉を待つしかなかった。なまえはベネットには言わなかったあの日の本当のことを彼に伝えようとしていた。
「実は、……無理言ってキャサリンさんに変わってもらったんです…」
「……へ?」
「あの時、ベネットさんと初めてお会いしたあの冒険者協会の受付……。だって私……わたしはずっと、……」
それはベネットにとっては思ってもみない言葉だった。ベネットはなまえがあの日受付にいた謎を考えてもみなかった。
「(なまえはどうしてキャサリンと受付を代わってもらったんだ? ……わざわざ頼むなんてよっぽどのことなんだろうな)」
不運という体質はあれど元来優しい人間であるベネットはまさかそこにキャサリンの用事以外の代理になる理由など思うことすらなかった。そんなことをベネットが考えている間になまえの決心がついたのか彼女がようやく顔を上げた。
なまえはベネットの目を真っ直ぐに見つめる。少し潤んだ目は何かを決意したかのように見えるが、それでも少し不安があるのか揺れていた。その不安をかき消すかのようにギュッと服を握りしめる。そしてなまえは1度、目を閉じて浅く息を吐いた。
ベネットはなまえのただならぬ様子にどうすればいいかわからず、ただ彼女を見つめるばかりだ。2人の間に会話はない。木々のゆらめきや鳥の囀る音だけが辺りを包む。なまえは口を開きかけてはまた閉じるを2、3度繰り返した後、ようやく言葉にすることができた。聞く人によればそれは躊躇う言葉とは思えないようなものだった。けれど、なまえにとっては、なによりも勇気のいる言葉であった。
「あなたと……ずっと、話がしてみたかったから」
ようやく声にのせることができたなまえ。彼女にとっては一世一代の告白のようなものだった。恥ずかしそうになまえがまた目を逸らした。そんな彼女の姿をベネットはじっと見つめていた。じわじわとなまえの言葉を飲み込んで、染み込んでいく言葉にベネットはさらに混乱するしかなかった。こんなふうに好意を向けられるなんて不運な彼には一度もなかったから。遠回しの告白と言えるなまえの言葉に何も言えずにいるベネットであった。
設定
なまえ
冒険者協会所属の冒険者。一目惚れしたのは彼女の方。だけど、なかなか話しかけられずにキャサリンに話したら一肌脱いでくれた。
ベネット
冒険者。一目惚れされた方。でも好意を向けられるのに慣れていない。
キャサリン
冒険者協会の受付。なまえの心を見抜いて受付を代わってあげた。もちろん支部長であるサイリュスにも許可とってある。なまえが無事にベネットに話しかけられたのでにっこり。