璃月で起こったとある不運で幸運な1日のこと
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「雨が降ってなくて良かったでござる」
「はい。晴れ続きで道がぬかるんでいなくて良かったです」
これ以上無理をするよりも一度休んで体制を整えた方が万葉様のご負担にならないと思ったのでその提案に甘えさせてもらいました。
人気のない場所でしたから万葉様はそのまま私の隣に座って、今は並んでお話をしています。
「なまえ……前にも鼻緒が切れたことがあったな」
「はい……。私も同じことを考えておりました。あの時は万葉様が私を支えてくれましたね」
「そうだったな」
そうように話す万葉様のお手には私の下駄。
鼻緒が切れてしまったそれを万葉様が治してくださっていた。
それを見ながら私も以前鼻緒が切れた時もこうして万葉様が直して下さったことを思い出していました。
そうして私は思いました。
「万葉様。私はいつも万葉様に助けられているのですね」
ポツリ、と呟いた私の言葉に万葉様は喜ぶのではなく顔を顰められました。
鼻緒の切れた私の下駄に向いていた視線は私自身に向けられました。
そして苦虫を潰したようなお顔のまま、彼は私に言うというよりは自身を叱責するように言葉を口にされました。
「……そんなことはない。拙者はなまえに長らく寂しい思いをさせた。あやつを助けられずに……、泣いたお主を置いて拙者はひとりで逃げたのだ」
「万葉さま……」
それは違うと言う代わりに私は万葉様の手をとりました。
武人という肩書に相応しく、かたい手のひらは万葉様が今までどれほどの苦難を乗り越えられてきたかという証でもございました。
万葉様の好きなところのひとつでございます。
万葉様は下駄から手を放し、私の手をもう片方の手で握りしめてくれました。
しかし、万葉様の表情は険しいままでございます。
「何も言うななまえ」
「……っ」
「拙者が稲妻を出たのは事実だ。そして、なまえの兄を助けられなかったこともまごう事なく真実でござる」
「……」
万葉様のその言葉に彼はずっと兄上の存在を背負っていると思いました。
私はそんな万葉様に気の利いた言葉一つもかけられずにただお名前を呼ぶことしかできませんでした。
それを万葉様が望んでいないことも知っておりましたから。
「だからなまえのことは必ず守ると決めた。あやつの墓の前で誓った言葉は偽りはないでござるよ」
少しだけしんみりとした雰囲気を吹き飛ばすように万葉様は笑いかけてこられました。
手は握り合ったまま、万葉様は私を安心させるように大丈夫だとおっしゃいました。
「万葉様……。万葉様は私のことを守ると兄上に誓って下さり、とても嬉しく思いました。けれど私たちはもう……、」
私たち、そう私たちの関係は……もう他人ではございません。
万葉様が私のことを大切に想ってくださるのは知っております。
万葉様は素直に言葉をお伝えしてくださる方でございますから。
ですが、私も同じように万葉様を大切に想っているのでございます。
だって、だって……私たちは、
「その、め……夫婦なのでございます」
「……!」
私がちらりと万葉様を見るとぽかんとした顔をなされていました。
そのせいでますます恥ずかしくなって、万葉様と握り合った手も熱くなって手をはなそうとしたけれどどうにもままなりません。
私が手をはなそうとしたのを察して、万葉様が強く握りしめてきたからでございます。
それに恥ずかしさは尚更に増長させられて身を捩って、はなしてほしいと態度で示しましたが万葉様はおはなしてくださいませんでした。
はなしてほしくて少し無言の攻防をしたけれど勝てるはずもなく、少し湿ってきた手のひらにまた別の恥ずかしさを覚えながら結局そのまま続きを話すことになってしまいました。
「あの、で、ですから……、私も万葉様を守りとうございます」
でも私は万葉様のように戦えません。
だからこそ万葉様はずっと私のために気を張っていてくださっているのです。
だけど万葉様の傍にいて、その身を守りたいのは同じなのだと一生懸命お伝えいたしました。
それにしても、あつい。
璃月はこんなにあついものなのでしょうか。
そんなふうに現実逃避じみたことをしてみるのは万葉様が何も話さないせいでございます。
その時の私は自分のことに必死でした。
必死だったからこそ私は自分のことしか見えていませんでした。
「なまえ、……――」
そして突然思いがけずに与えられた熱に驚きのあまり、その瞬間考えていたことも、はなしてほしかったと思っていたことも忘れてしまいました。
だから気づきませんでした。
お互いの熱がつながった手を熱くしていたことに。
結局、私のもとに直された下駄が返ってきたのはそれからしばらく経った後のこととなったのは言うまでもないことなのでございます。
あとがき
「はい。晴れ続きで道がぬかるんでいなくて良かったです」
これ以上無理をするよりも一度休んで体制を整えた方が万葉様のご負担にならないと思ったのでその提案に甘えさせてもらいました。
人気のない場所でしたから万葉様はそのまま私の隣に座って、今は並んでお話をしています。
「なまえ……前にも鼻緒が切れたことがあったな」
「はい……。私も同じことを考えておりました。あの時は万葉様が私を支えてくれましたね」
「そうだったな」
そうように話す万葉様のお手には私の下駄。
鼻緒が切れてしまったそれを万葉様が治してくださっていた。
それを見ながら私も以前鼻緒が切れた時もこうして万葉様が直して下さったことを思い出していました。
そうして私は思いました。
「万葉様。私はいつも万葉様に助けられているのですね」
ポツリ、と呟いた私の言葉に万葉様は喜ぶのではなく顔を顰められました。
鼻緒の切れた私の下駄に向いていた視線は私自身に向けられました。
そして苦虫を潰したようなお顔のまま、彼は私に言うというよりは自身を叱責するように言葉を口にされました。
「……そんなことはない。拙者はなまえに長らく寂しい思いをさせた。あやつを助けられずに……、泣いたお主を置いて拙者はひとりで逃げたのだ」
「万葉さま……」
それは違うと言う代わりに私は万葉様の手をとりました。
武人という肩書に相応しく、かたい手のひらは万葉様が今までどれほどの苦難を乗り越えられてきたかという証でもございました。
万葉様の好きなところのひとつでございます。
万葉様は下駄から手を放し、私の手をもう片方の手で握りしめてくれました。
しかし、万葉様の表情は険しいままでございます。
「何も言うななまえ」
「……っ」
「拙者が稲妻を出たのは事実だ。そして、なまえの兄を助けられなかったこともまごう事なく真実でござる」
「……」
万葉様のその言葉に彼はずっと兄上の存在を背負っていると思いました。
私はそんな万葉様に気の利いた言葉一つもかけられずにただお名前を呼ぶことしかできませんでした。
それを万葉様が望んでいないことも知っておりましたから。
「だからなまえのことは必ず守ると決めた。あやつの墓の前で誓った言葉は偽りはないでござるよ」
少しだけしんみりとした雰囲気を吹き飛ばすように万葉様は笑いかけてこられました。
手は握り合ったまま、万葉様は私を安心させるように大丈夫だとおっしゃいました。
「万葉様……。万葉様は私のことを守ると兄上に誓って下さり、とても嬉しく思いました。けれど私たちはもう……、」
私たち、そう私たちの関係は……もう他人ではございません。
万葉様が私のことを大切に想ってくださるのは知っております。
万葉様は素直に言葉をお伝えしてくださる方でございますから。
ですが、私も同じように万葉様を大切に想っているのでございます。
だって、だって……私たちは、
「その、め……夫婦なのでございます」
「……!」
私がちらりと万葉様を見るとぽかんとした顔をなされていました。
そのせいでますます恥ずかしくなって、万葉様と握り合った手も熱くなって手をはなそうとしたけれどどうにもままなりません。
私が手をはなそうとしたのを察して、万葉様が強く握りしめてきたからでございます。
それに恥ずかしさは尚更に増長させられて身を捩って、はなしてほしいと態度で示しましたが万葉様はおはなしてくださいませんでした。
はなしてほしくて少し無言の攻防をしたけれど勝てるはずもなく、少し湿ってきた手のひらにまた別の恥ずかしさを覚えながら結局そのまま続きを話すことになってしまいました。
「あの、で、ですから……、私も万葉様を守りとうございます」
でも私は万葉様のように戦えません。
だからこそ万葉様はずっと私のために気を張っていてくださっているのです。
だけど万葉様の傍にいて、その身を守りたいのは同じなのだと一生懸命お伝えいたしました。
それにしても、あつい。
璃月はこんなにあついものなのでしょうか。
そんなふうに現実逃避じみたことをしてみるのは万葉様が何も話さないせいでございます。
その時の私は自分のことに必死でした。
必死だったからこそ私は自分のことしか見えていませんでした。
「なまえ、……――」
そして突然思いがけずに与えられた熱に驚きのあまり、その瞬間考えていたことも、はなしてほしかったと思っていたことも忘れてしまいました。
だから気づきませんでした。
お互いの熱がつながった手を熱くしていたことに。
結局、私のもとに直された下駄が返ってきたのはそれからしばらく経った後のこととなったのは言うまでもないことなのでございます。
設定
楓原なまえ
旅人初心者な万葉の嫁。稲妻が鎖国終了に伴い、万葉と共に国を出た。二人とも、故郷に待つ人もないので旅をすることにした。今は死兆星号と共にいる。
楓原万葉
流浪人。璃月に来たのではじめて他国に来たなまえのために璃月を周ることに。このあと偶然秘境で鏡花の琴を見つける。