八十の灯だけが知っている
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羅小妹の言葉を信じて竹林へ足を踏み入れた2人。竹林をしばらく進むとヒルチャールがいた。空ほどの実力者であれば難なく倒せると思ったがなぜかいつもよりも凶暴に感じた。
「ここのヒルチャール前来た時よりも強くないか?」
パイモンも同じように思ったようでその言葉に空も肯定した。思った強さと違ったためか少し苦戦したが、そこは実力のある空のこと。ヒルチャールをきっちり倒してさらに先へ進む。少し薄暗い竹林は人がいないせいか陰鬱な雰囲気が醸し出されているような気がした。先ほどのヒルチャールといい、なんだかおかしな感じだ。
「なんか少し変な感じしないか?」
「パイモンもそう思った? 俺もなんか妙な違和感が……」
などと話しながら先へ進むとパイモンが声を上げた。
「あ! 空、あれ! なまえじゃないか?!」
そう言ってパイモンは上の方を指差した。空がつられて視線を移すと屋根のついた円形ベンチの一角に座るなまえの姿を見つけた。それと同時にパイモンが空を置いてなまえの方へと飛んでいってしまった。
「おーい! なまえ~!」
「……あれ? あなたはたしか……パイモンさん? 久しぶりね。こんなところでどうしたの?」
「久しぶり! オイラ達なまえを探してたんだ」
なまえがパイモンの声に気付いて顔を上げる。のんびりと返事をする彼女にパイモンが笑いかけた。パイモンの言葉が意外だったようでなまえは驚いたように瞬きを何度かしていた。
「……私を? ごめんね。大変だったでしょう」
「そうだな。でも見つかったから大丈夫だ」
謝る彼女にパイモンが返事をしているとようやく空がパイモンが来た方向とは反対側からやってきた。飛べるパイモンとは違い、飛べない空は崖を登るより遠回りをした方が早いと判断して歩いてくる道を選んだ。
「空さんまで……」
「久しぶり」
「お久しぶりです。パイモンさんから話は聞いたのだけど、私を探していたの?」
挨拶もそこそこになまえは疑問を口にした。空は彼女の疑問に応えるべく彼らがわざわざなまえを探しにきた訳を話しだす。
「海灯祭一緒に行かない?」
「……海灯祭?」
「海灯祭ってすごいんだろう! オイラ達まだ見たことないから宿屋のオーナーから勧められたんだ! なまえも一緒に行こう!!」
空とパイモンの言葉になまえは即答しなかった。少し黙ってから考えるようにして最後には申し訳そうに笑った。その表情はどこか暗く、なまえの憂いの原因が空は気になった。
「ごめんなさい。私は少し……その、用事があって一緒には行けないの」
「……そうなのか。残念だな」
断られて落ち込んだ様子のパイモンになまえはもう一度ごめんねと謝った。そして少し迷ったようにお願いがあるのだけどと少し躊躇した様子で再び口を開いた。
「……あの、もしあなた達がよければ彼を……魈を海灯祭に連れて行ってあげてくれないかな?」
「魈?」
「でも、興味ないって断られたぞ……」
2人は再三誘っても断られたことをなまえに話す。彼らの言葉になまえは心当たりがあったのか「やっぱり……」と小さく呟いた。
「ごめんなさい。無理なお願いっていうのはわかっているんだけど……。明霄の灯の時だけでも構わないから、彼を連れて行ってあげてほしいの」
私は行けないから代わりに一緒に行ってほしいと言うなまえの言葉。そこに彼女の強い思いが見てとれた気がした。空はなぜ彼女がこれほど強い思いを持っていたのかはわからない。
「彼が守る璃月の凡人達の感謝の気持ちを見てもらいたいの。どういう事実があっても彼らの仙人達への感謝の気持ちは本物だもの」
だから、お願いできないかな?と申し訳なさそうにするなまえ。その言葉の中にどこか浮かない彼女の様子の原因があると思ったが空には踏み込める領域ではない。空はそれ以上深く聞くことはできずに、ただ気にしないでと返事をした。
「……なまえは来ないのか? 用事が大変ならオイラ達も手伝おうか?」
「ありがとう。……でも大丈夫。魈のことお願いね」
パイモンの気遣いになまえは首を振った。やんわりと断りながらもそれ以上立ち入らせない雰囲気が醸し出されていてパイモンもまたそれ以上踏み込むことはできなかった。
「……それじゃあ、空さん、パイモンさん。ふたりとも海灯祭を楽しんでね」
なまえがそう言って話を終わらせた。空はその用事について気になったが、なまえの前とは異なる様子に何も言えなかった。だけどこのまま別れることはできずになまえを引きとめた。
「……これ。俺とパイモンで作ったんだ。用事があって行けないなら、せめて受け取って欲しいんだ」
「オイラたち、がんばって作ったから受け取ってほしいぞ!」
空はなまえに霄灯を差し出した。少しでも海灯祭を味わってほしいとそう思った。助けを求めていない彼女を手助けすることはできない。けれど、せめて彼女の憂いが晴れるようにそう願った。「これは……霄灯? こんなに近くで見るのははじめて」
「これに願いを書いて灯りを灯すと良いらしいぞ!」
「願いを……、そうなんだ。ありがとう」
彼女はそれを受け取るとまじまじと観察する。なまえは空の行動に驚いていたが最後には笑顔で受け取ってくれた。その笑顔もやはりどこか陰りが見えたが空は何も言わなかった。手を振る彼女に見送られながら2人はその場を離れた。