しあわせを願って
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それから何度かディルックはなまえをモンド城外で見かけた。何もせずにフラフラしていることもあれば、魔物に苦戦していることや火をつけるのに苦戦していることもあったりした。その度にディルックはなまえと魔物の間に立ち塞がったり、火をつけるのを手伝ったりしてなまえを助けた。そうするとだんだん話す回数も増えてきて2人は自然と仲良くなっていた。
「なまえは自分のことを罪人だというのをやめたほうがいい」
モンドの人々はローレンス家の人間に対して冷たい。周知の事実であるそれはなまえをモンド城外へと追いやる原因となる。そのせいもあってかなまえはよく自らを罪人だと言った。その度にディルックは彼女を諭していた。
「どうしてディルック様は私のことを気にかけてくださるのですか?」
なまえには不思議だった。彼は騎士団で期待されている人間だと聞いたような覚えがあったからだ。そんなディルックがこう何度もなまえの前に現れてその都度手助けしてくれるのはありがたかった。それと同時に申し訳ない気持ちになる。だがディルックとってなまえを助けることは何ものにも変えがたい価値のあることであった。騎士という人を助けるものという使命感を得られると言うことはもちろんある。それ以上になまえは彼にとって大切な人になっていた。
彼女に降りかかる災いを彼が振り払うことができるのは彼にとってとても価値のあることであった。だけどディルックはそれをなまえに押し付けたりしないし、悟らせない。
「僕は騎士だからね。それにあの時言ったように君が困っているなら必ず助ける。そう約束しただろう?」
「……ディルック様は、誠実な方ですね」
なまえから目をそらさずにまっすぐ見つめてくるディルック。彼のその態度と言葉になまえはディルックが本当にローレンスに対して嫌悪感を抱いていないのだと思った。なまえがこれまで出会ったモンドの人々とディルックの差異に気づき、理解してなまえがディルックに対して特別な思いを抱くのも無理はない。
「僕は君が思うほど誠実ではないかもしれないよ」
「いいえ。ディルック様はいつも私を助けてくださるのです。困った人を助けるのは騎士として当然だとディルック様はおっしゃいますが皆様ができることではないと知っています」
ディルックは自分がなまえの言うような誠実な人物ではないと思っている。助けを求める人がいれば助ける。たしかにそのような人物になることはディルックが騎士になる前から目指すものではある。それでもなまえに対してはきっとただの純粋な気持ちだけではない。
「……」
それが彼女に対する愛だと気づくのは早かった。そして同時に彼は気づいていた。ラグヴィンドとローレンスは決して交わる家系ではないことに。けれどディルックはなまえを好きになった。
最初はローレンスという名のせいでモンド城外に追いやられている彼女に対する同情を抱いただけなのに、次第になまえの懸命さや不器用な中に光る努力を知ってしまった。そして、なまえ・ローレンスがディルック・ラグヴィンドに好意を抱いていることにも彼は気づいていた。それでもなまえはディルックを拒んだ。
家名の壁は厚く、彼女の心の氷を解かせはしない。たとえなまえがディルックを愛していたとしても、なまえはディルックの思いに応えることはないだろう。それがなまえのできる唯一のディルックに対する愛だと思っているのだから。結局今日までなまえはディルックの愛に応えることはなかった。その後、彼はある出来事により父を亡くした。その出来事により、彼の人生は大きく変化した。騎士の称号と神の目といったかつて父がディルックに期待したものをはじめとした今まで得た全てを捨て去って彼はこの風の国から姿を消した。
なまえがディルックが騎士団をやめて国を出たと聞いたのは彼と会えなくなって少し後のことだった。
何があったのかはなまえにはわからない。ローレンスの娘であるなまえに話しかけるモンド人など存在しない。なまえに唯一と言っていいほど話しかけてくれたディルックがいなくなったとなれば尚更そうである。だから家で恨み言ついでに聞かされる僅かな情報だけがなまえの情報源だった。
それから数年。その間に一門の希望だと言われていたエウルアが西風騎士団で頭角を表してついに遊撃小隊の隊長にまで登り詰めた。一族の者はそれを情けないとか嘆かわしいとか忌々しいと口にして悔しがったがなまえは彼女の好きなようにすればいいと思っていた。
ローレンスに生まれたものであろうともエウルアが騎士になりたいと思うなら彼女は信念を貫くべきだ。モンドの人々はローレンスに冷たかったけれどディルックはずっとなまえに誠実で紳士だったから。
彼の特徴である赤髪から彷彿されるように何事にも熱心で優しく素敵な人だった。だからこそ何年会えずともなまえは彼の姿をずっと忘れなかった。そんな彼が所属していた騎士団というのはきっと悪くない場所なのだろうとなまえは思っていた。