有限なる我が友よ
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「凝光ちゃんの髪型って可愛いよね」
「ありがとう。でも待ったはなしよ?」
「あは。バレたか」
凝光は突然目の前の友人に髪型について褒められた。そんな友人の言葉を当然の様に受け入れて微笑みながら返事をした。
盤上を挟んで向かい合う2人は今、璃月千年を対局中だ。煩雑なルールで、ルール改定の頻度も高いそれは発案者の凝光以外にそのルールを完全把握しているものはいないと言われている。勝てるはずないゲームなのに凝光の友人であるなまえは、たびたびこのゲームを彼女と遊んでいた。しかもゲームに誘うのはなまえの方が多かった。だから待ったの代わりに髪型を褒めるのはいつものことで、はじめは素直に礼を言っていた凝光も今は待ったの代わりなのだと認識している。
「こんな複雑なルールよく考えつくよねー」
「あら、遊んでいると抜け穴を見つけてしまうのよ」
「だからって、こんなに細かくしないでもいいんじゃないの? 複雑なルールじゃ遊んでもらえなくなっちゃうよ?」
待ったが採用されなかったなまえが盤面を睨みながら凝光に話しかける。なまえが止まったマスは商店。先程茶館で大損してチップを失ってしまったために、物を売るか買うかで悩んでいるようだ。
「別に構わないわ。私は自分の暇つぶしにこのゲームを作ったんだもの。それに盤上自体の売り上げは上がっているわ」
「そういうもの? ゲームって開発したらやっぱり遊んでもらいたいものじゃないの?」
「ええ、そうね。普通の人はそうでしょうね。だけど私はそうじゃない。それだけよ」
凝光にとって、大切なことはゲームをしてもらう事ではない。ゲームをやるのは自分でいい。大切なことはモラを増やすこと。ゲームは分からなくても璃月千年の盤上、駒の美しさに魅了されて手に入れてくれても凝光は気にしない。だがなまえはそうではないらしい。
「んー、やっぱり何も買わずにおこうかな……」
「好きにしなさい。でも、あと1分で決めて頂戴ね」
「えーっ! 1分?? またルールの追加ですかあ? ぎょーこーさま!」
「ふふ。ええ、そうよ。新ルール追加ね。紙に書いているからその間に進めてね」
そう言って凝光は少し離れたところにいる秘書を呼び、紙を貰う。筆で制限時間の項目を追記しながらなまえの様子を見る。
「(この子はいつも私に会いにきてくれるけど、楽しいのかしら?)」
凝光にとってなまえは数少ない友人だ。ビジネス間での知り合いや、凝光の璃月での「耳」である巷のかわいい子供たちとは違う。ただの友人だった。何か巷の噂や変わったことを聞くわけでもない。ただふらりと凝光の元へやってきて璃月千年をしたり、ただお茶を飲んで話をしたりする。そんな時間が凝光は殊の外好んでいた。「有限」は好まないと決めたのに、なぜ凝光はこの時間を楽しんでいるのだろう。
「(追い払っても彼女が忘れたように会いに来るからよ)」
もう来るなと遠回しに言っても、出入禁止にしても来るのだから仕方ない。次入れてくれないなら風スライムを集めて、飛んでいくと案内人から困ったように伝言をもらった時には流石の凝光だって焦った。誤って璃月港内に落下されては彼女だって気分が良い話ではない。だから仕方なく、来ることを許しているのだ。友人という存在はいつまでもいるわけではない。友人は「有限」なものだ。
「よし! 何もしないことにする! 凝光ちゃんの番だよ!」
「……」
そう。この目の前にいる彼女は無限ではない。いつか凝光から離れていくかもしれない。ビジネスだって破綻すれば一気に情勢が変わる。人間同士の関係とはそんな危ういものだ。
「? 凝光ちゃん?」
それを凝光は経験から知っていた。だから「有限」を愛したりしない。目の前の彼女を好ましいとは思ってなどいないのだ。
「凝光ちゃん!」
「!」
「……凝光様大丈夫ですか?」
「……えっ、あ、ごめんなさい。少し考え事をしていたわ。本当にごめんなさいね、2人とも」
返事をしない凝光に不信感を抱いたのはなまえだけではない。離れた場所で見ていた秘書も凝光のそばにいた。そのことに気づかないほど凝光は思考の海に沈んでいた。心配そうに見つめる2人に謝り、盤上に視線を動かした。彼女らの視線がいまだに向けられていることを感じながらも凝光は知らぬふりをした。
―――
「あー! やっぱり負けたあー!」
「ふふ、でも惜しかったわ。今までで一番点差がなかったんじゃないかしら」
ゲームは無事に終わり、やはりというべきか勝利したのは凝光だった。
「やっぱり凝光ちゃんは強いね」
「……そうね。負けたら全部ダメになっちゃうもの」
彼女の前では凝光はふと本音が漏れる時がある。ビジネスにおいて本音と建前は重要だ。嘘をつくときに本音を混ぜるほうが良いとされているように、凝光は本音と建前を使い分けることは得意だ。
「……なんてね。ふふ、今日は疲れているのかしら」「凝光ちゃん…」
だが、なまえを前にすると思いがけないところで本音を口にしてしまうことがあった。
「さあゲームも終わったし、これから纏めなければいけない資料があるの」
そう言って凝光は立ち上がる。凝光の言った本音と嘘をなまえは気づくだろうか。
「凝光ちゃん、まって」
「(あんなにわかりやすいんだもの。気づくに決まってるわ)」
纏めたい資料があるなんて嘘だ。話しかけてきたなまえに凝光はやっぱり逃がしてくれないかと思った。あのなまえが気付かぬふりをするはずがない。そうなるともう腹を括るしかない。もう一度座り直して、なまえを見つめる。いつものように毅然として余裕を崩さないようにする。ここは群玉閣。凝光の自慢の城。
「(ここの主人は私よ。だからこそ揺らいではいけないわ)」
たとえ内心どんなことを思っていようとも顔には出さないようにする。そう思えば思うほど凝光の中で緊張が高まる。なぜならなまえは凝光のビジネス相手ではない。ビジネスでの駆け引きと違って、今の2人の間には何の損得もない。少なくともなまえはそう思っている。机上に美しい璃月千年の駒たちがキラキラと輝いているのが目に映る。欲しいものもあげられるものも2人の盤上にはのっていない。だからこそ、どんな発言が飛び出すのか凝光には測りきれなかった。いつかの玉衡のように凝光の地盤を揺るがすような発言も警戒しなければならないと彼女は思った。
「凝光ちゃん。あのね、」
「なにかしら」
冷静に、そう見えるように返事をした。彼女の言葉は煩わしいこともあるけれど最終的にはいつもありがたく感じるのだ。天権としてでも商人としてでもなく、凝光が凝光としてなんの
「凝光ちゃんはだめになるって言うけどだめになんてならないよ。たとえば……この群玉閣が無くなったとしても何もかもなくなっちゃうわけじゃないよ」
「……」
「なまえ様……!」
群玉閣がなくなるなどいくら凝光の友人として招かれているとしても不敬だ。おもわず咎める秘書を手で制しながらも凝光にはなまえの言葉の意味がわからなかった。群玉閣は凝光にとって、富と力の象徴なのだから。それがなくなることなんて考えられなかった。でも、もしいつか群玉閣と何か大切なものを天秤にかける日が来たら……その時、凝光は最良の決断ができるのだろうか。
「――やっぱりなまえは私とは違うのね」
凝光の口から思わず言葉がこぼれた。人間が有限であるように、この群玉閣も有限なのかもしれない。凝光は目の前の友人の言葉に少し考えさせられた。
「(やはり彼女は私にとって有用だわ)」
そう。自分と全く異なる視点というのは新しい価値観を教えてくれる。ビジネスでは知り得ない新しい視点をこの友人は提供してくれる。友人だって損得勘定でしか測れない。ただ彼女と共にいることが楽しいからってわけではない。「有限」の友人は有用だからこそ、そばにいることを許すのだと凝光は自分に言い聞かせていた。
言い聞かせるということ自体が彼女にとってどう言う意味をもたらすのか。それはなまえという存在が損得勘定の外にいるのだという証に他ならない。そんな簡単なことが頭の良い凝光がわからないはずはないのに。
結局、凝光は今日も友人との勝負に勝てなかった。
設定
なまえ
凝光の友人。髪型は本当に可愛いと思っている。押せ押せタイプで暇になったら群玉閣にやってくる。来すぎて専用合言葉有り。商談中だったり七星来てたりしたら案内人に断られてる。その時は見るからにしょんぼりするので案内人のお兄さんはいつも申し訳ない気持ちになる。実は凝光が天権になる前からの友達である。内心いつも会ってくれるかドキドキしながら凝光に会いに来てたりすると良い。仕事ばかりの凝光に息抜きして欲しいと思っているだけで試合に負けて勝負に勝っていることに気づいていない。考えてすらいない。
凝光
なまえの友人。「有限」なものは愛さないと決めている。モラ命の天権様。だけど、なぜか昔からの友人を放って置けない。完全になまえに絆されていることに本人は気づきながら気づいてないふりをしている。本当はいつもなまえが来るのを楽しみにしているけど絶対に顔には出さない。
何を言い出すのか本当にわからないので次からは秘書も下がらせることにした。
秘書
凝光の優秀なる秘書達。なまえに対してはじめは何なのだこの人と思っていたが今は貴重な友人としての凝光の姿が見られるので楽しみにしている。なまえが来た時にお側担当だと内心ガッツポーズしてる。凝光の変化は長年仕えているだけあって彼女の機微に敏感だからこそわかるのであって他人が見てもわからない。凝光の空き時間を時々なまえに伝えてたり…?