からかい上手の少女達
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トーマが稲妻にやってきてしばらくして、彼は稲妻の三奉行のひとつである社奉行を務める神里家に助けられた。
それからさらに月日が経ち、苦境に立たされていたトーマ自身の心境が彼らのおかげで上向きになってきた頃のことだった。
「明日、この場所に来てください! その紙も忘れないようお願いします!」
そう言ってトーマに謎の封書を渡してきたのは彼が大変世話になっている神里家の娘である綾華であった。
トーマよりも年下の少女はいつも年相応の明るさを持ちながら彼に会いに来ていた。
まだ白鷺の姫君と呼ばれる前の彼女はおてんばで後年そのように呼ばれることなど考えてすらいない元気な少女であった。
「待っていますから来てくださいね!!」
用件を詳しく話すことはなく、それだけを言って綾華は足早にトーマのもとから去っていった。
だがその声はどこか楽し気でその予定というのが相当楽しみなんだろうとその態度だけで簡単に理解できた。
しかし、考えても手にあるその紙の所以も、綾華がいうその場所もトーマにはわからないものであった。
考えても仕方がないとトーマは明日の予定を頭に入れながら自らがするべき仕事に戻った。
そして、――翌日。
示された場所は町中の園庭の広がる一軒の建物。
少しばかり緊張したトーマが入口のところに立っていた女性にその紙を見せる。
「……あっ、あなたがトーマさん。綾華様となまえ様のお客人ですね」
「なまえ……様?」
聞き慣れぬ名前が出てトーマの頭に疑問符が宿る。
女性の言う綾華とは神里綾華のことだろう。
しかしもう一人のなまえという人物は思い当たる節がなかった。
だがオウム返しのように聞き返したトーマの疑問にその女性が答えることはなかった。
「あなたのことは神里様から伺っております。木漏茶屋へようこそ」
そして木漏茶屋の中に入るように言われた。
トーマが中の見えぬ引き戸を恐る恐る開く。
少し緊張しながらも中に入ると最初に見えたのは犬だった。
モンド風にいうとカウンターの上にちょこんと座る小さな可愛い犬。
「い、犬……??」
まさかカウンターの上に犬がいるとは思わず本物なのかと疑った。
まじまじと犬を見つめるが犬はトーマのそんな様子を気にした様子はない。
しかしトーマが思わずつぶやいた言葉に呼応するようにどこからか声が聞こえてきた。
「――ふむ。おまえが綾人と綾華が連れてきたと言う他国の男だな」
「――えっ!?」
誰かいるのかと思い辺りを見回すが人の気配は感じられずに目の前の犬だけがじっとトーマを見つめている。
まさかこの犬が……と彼が信じられないような心持ちでその犬を見つめるとまた同じ声が聞こえてきた。
「綾華から聞いておるぞ、我が名は太郎丸。おまえには特別に太郎丸様と呼ばせてやろう」
「ええ……?」
そのやけに可愛らしい姿と声とは裏腹にその犬はトーマにとても偉そうな態度を見せていた。
犬なのにやけに偉そうだなと戸惑うトーマに太郎丸と名乗るその犬はさらに言葉を続ける。
「不満か、小僧。だがこの太郎丸の名を呼べるのはとても名誉な事だぞ」
犬、もとい太郎丸は戸惑うトーマにさらに言葉を重ねた。
この犬が一体何だと言うのだろうか。
戸惑いと混乱の中まともな判断ができるはずもなく、言われた言葉に素直に従うことしかできない。
犬の名を呼べることの何が名誉なのか。
なにが名誉なのかもわからぬままトーマは犬の言葉に従った。
「えっと、……えっ? た、太郎丸さま……?」
「どうした小僧」
「俺……、えっと……人と待ち合わせをしているんだ……ですが、その……」
太郎丸様と呼ぶのなら敬語も使うべきかと話し始めてから思い立ち、なんだか中途半端な敬語になってしまった。
怒られるのではと犬をそっと見つめるがその犬は相変わらずの無表情であった。
感情は全く読み取ることができない。
「小僧。これでも……ここはしゃぶぎょ……」
「……?」
突然、太郎丸と名乗る犬の言葉が詰まり、トーマは首を傾げた。
「ゴホン。社奉行の、……っか、神里家ご、ごよ、うたつの由緒正しい……ちゃ、茶屋で、あるぞ……」
「? たろうまる……さま……?」
「ぶふ……っ!」
「えっ!?」
「ふふ……あははっ! も、もうだめ……っ! ふふっ……!」
突然太郎丸が表情を変えずに吹き出したかと思えば、こちらが戸惑ってしまうほど笑い出した。
犬だからなのだろうか表情になんの変化もなく、笑い声だけ響く。
その姿はとても奇妙で不気味だ。
トーマが混乱の中に少しずつ恐怖が混ざってきて、やはり帰ろうかと思い始めた時だった。
「ごめん綾華……やっぱり無理だった……ふふっ」
「うふふ、私も耐えられません……ふふっ、なまえ……っ! ふふ……っ」
するともう一つ新たな声が聞こえて、その声もまた笑い出す。
一体何が始まったのかと混乱していればカウンターの壁の向こうから見慣れた少女である神里綾華が見たこともない楽しそうな笑みを携えたまま姿を現した。
「えっ!?」
「うふふ、……っふふ、ごめ、なさいトーマ……!」
「えっ……?」
驚くトーマを尻目に綾華は未だに口に手を当てて上品にではあるが楽しそうに笑っていた。