先の見えない長い長い階段の向こうに
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事前計画は単純でかまわないの続きみたいなもの
長い長い階段を手を引かれながら登っていく。
外に出て初めて私はずいぶん体力が落ちてしまっていたことに気がついた。
前は山を越えるのも苦労はなかったのに今はこんな階段でさえ手を借りなければ登れない体たらくだ。
息を切らす私の横を私よりずっと幼い子が追い越していく。
子どもの後ろ姿を見つめながら吐く息をため息に変えた私に目ざとく気づいたのは手を引いてくれる旦那様だ。
わざわざ立ち止まって振り返ってくれた。
「少し休むか?」
「……いえ、……だ、だいじょーぶ、です……」
平気だと伝えるが息も絶え絶えな私の言葉に信憑性がないのは誰にだって理解できる。
「すみませ、ん……やっぱ、り……やすみ、たい……で、す」
旦那様は基本的に私に無理をさせない。
だから彼はすぐさま私の要望を聞いてくれた。
ところで璃月の領民……ではなく人間達は皆健脚なのだろうか。
これほど長い階段なのに、途中に休憩用の椅子一つ置いていない。
私はふらふらと壁際に歩いていく。
へろへろになっている私は一体どこで一息着けばいいのかと思いながら端っこに寄って息を整えた。
床にへたり込みそうになる前に旦那様が寄りかかれるように支えてくださったおかげでへたりこむような事態は避けることができた。
凡人達は皆健脚なのだろうか。
こんなに長い階段だというのに休憩するための椅子が置かれていないなんて本当に信じられない。
そんなふうに何度も休憩を挟み、途中で見知らぬ優しい人や千岩軍の方に心配されながらも私は旦那様の手を借りてなんとか自力で階段を登り切った。
ちなみに登りきった時にはなぜか拍手をされた。
そして、ようやくたどり着いたのは玉京台とよばれる場所。
モラをたくさん所有する富豪と呼ばれる人たちが住むところらしい。
旦那様と一緒に長い階段を登った後、懐かしい人に会った。
私の知る見た目とは変わっていたけれど、たしかに彼女は私の知り合いだ。
その人にお茶を飲みに来たと彼が話しかける。
「おや、……まあ、なんと久しぶりに見る顔じゃ。生きているといいことがあると聞いたけれど懐かしい友人達にまた会えるなんて嬉しいものだねえ」
ばあやにとってこんなに嬉しいことはないよ。
そう言ってばあやと自らを呼ぶその人は私と彼の姿に目を丸くした後、嬉しそうに微笑んだ。
つられて私も笑顔になった。
旦那様は相変わらずの表情だけど喜んでいることは私にはわかる。
「お久しぶりです」
「本当に久しぶりじゃな。この間の気配はお前さんのものだったのかい?」
「……やっぱり、わかった?」
「ああ。お前さんの力は……まあ前よりも弱いがそれでも我々にとっては強い力だからねえ。それにしても疲れた顔をしているようだけど何かあったのかい?」
「……階段が多くて」
私が小声で言ったのを聞き逃さなかった彼女は一瞬、目を丸くしてからまた優しく笑った。
「ああ、なるほど。そうじゃろう、そうじゃろう。大変だったかもしれないが、また会えてばあやはとても嬉しいよ」
そうやってニコニコと笑ってもらえたら私も頑張った甲斐があったというものだ。
ばあや、と自らをそう名乗る彼女は今はピンばあやと名乗り、私の恩人となった旅人さんをはじめとした多くの人に慕われているようだ。
だから私も彼女のことはとりあえずピンと呼ばせてもらおう。
そう言うと彼女は朗らかに笑い、かまわないと頷いてくれた。
「そういえば他の仙人たちにはもう会ったのかい?」
私達に歓迎の意味も込めてお茶を淹れるための湯を用意し始めた彼女が尋ねてきた。
私は首を振って否定した。
彼女こそが私が目覚めてから最初にあった仙人である。
「いや。まず今の生活について学んでからと思っていたからな。まだ璃月港以外には連れていっていないんだ」
「おや、そうなのかい……。他の者……特に留雲は首を長くして待っているだろうね」
首を振っただけの私に旦那様が代わりに答えてくれた。
旦那様と話し合って時勢が落ち着いた今だからこそ、懐かしき友に会うよりも先に新しい生活になじむことを優先させた。
「いま旦那様と郊外旅行に行こうって話をしているの。だからきっともうすぐ会えるはず……」
「だったら、あやつも喜ぶだろうね」
彼女が話題にした留雲借風真君はかつて私にとてもよくしてくれた仙人だった。
私がずっと眠っていた場所を守るためにいろいろ施してくれたことも旦那様達から聞いた。
留雲借風真君はずっと私を支えてくれていた。
私が帰終ちゃんとまだ一緒にいたころからずっと、多くのことで彼女はいつも手を貸してくれていた。
悪夢の中でも、留雲ちゃんや帰終ちゃんをはじめとした友人たちや旦那様との思い出が私をずっと支えていたのと同じように。
だからこそ万全な状態で彼女に会いたかった。
ずっと心配してくれていた優しい彼女だからこそ元気な姿を見せたい。
それでちゃんと感謝を伝えたい。
留雲ちゃんがどんな思いであの場所に入ったなんて想像しかできないけれど、だからこそ今は無事で元気だと胸を張って彼女に会いたい。
「なまえがそう決めたならきっと留雲もわかってくれるじゃろうな」
そう言いながらお茶の用意を続けるピンの後ろで琉璃百合が咲いている。
何気なく目に入っていたが、私はようやくそれがおかしなことだと気がついた。
この間の旦那様の話では琉璃百合は荻花州にのみ咲いてるんじゃなかったっけ?
そう思った私が旦那様の服の袖を軽く引っ張る。
彼はすぐさま反応を返してくれる。
どうしたとこちらを見つめてくれた旦那様に私は尋ねてみた。
「旦那様、琉璃百合が……こんなところに」
「ん?……ああ、琉璃百合か。玉京台では琉璃百合の人工栽培もしているんだ。野生の琉璃百合はこの前話した通り、荻花州にしか咲いていない。数も少ないからな」
「そうなのですね……」
旦那様の言葉を聞いて残念に思ったけれどあの戦火の中、生き延びただけでも十分である。
人工的に栽培できるのならばこの花が人々に忘れられていない証でもあるのだから喜ぶべきことである。
そんなことを思っていると微笑ましそうに見つめるピンの顔が目に入った。
首を傾げて、どうかしたのかと尋ねると思いもかけない言葉が返ってきた。
「お2人が並んでいるところを見られて嬉しいなと思っていただけじゃ」
「!」
まさかそんなことを思っていたとは思わず驚いていると、横からさらに追い討ちをかけるような言葉が聞こえてきた。
「ああ。俺もなまえと一緒にいられてとても嬉しく思う」
「おやおや……。相変わらず仲が良くてばあやも自分のことのように嬉しいよ」
にこにこと笑うピンと表情は変わらないながらも嬉しそうな雰囲気を隠そうとしない旦那様の姿に気恥ずかしくなる。
「……お二人とも、恥ずかしいのでそれ以上は……」
「ははっ、すまない。だが俺が言ってることは嘘じゃないぞ?」
尻すぼみになる言葉に旦那様が笑った。
旦那様のお言葉を疑っていないからこそ恥ずかしい。
彼の言葉に何も答えられるはずもなく、私は彼女から受け取ったお茶をただ飲むことしかできなかった。
ニコニコと笑うピンと優しく見つめる旦那様の視線に何も言葉にできなかった。
当然ながら、お茶の味は全く覚えていない。
あとがき
長い長い階段を手を引かれながら登っていく。
外に出て初めて私はずいぶん体力が落ちてしまっていたことに気がついた。
前は山を越えるのも苦労はなかったのに今はこんな階段でさえ手を借りなければ登れない体たらくだ。
息を切らす私の横を私よりずっと幼い子が追い越していく。
子どもの後ろ姿を見つめながら吐く息をため息に変えた私に目ざとく気づいたのは手を引いてくれる旦那様だ。
わざわざ立ち止まって振り返ってくれた。
「少し休むか?」
「……いえ、……だ、だいじょーぶ、です……」
平気だと伝えるが息も絶え絶えな私の言葉に信憑性がないのは誰にだって理解できる。
「すみませ、ん……やっぱ、り……やすみ、たい……で、す」
旦那様は基本的に私に無理をさせない。
だから彼はすぐさま私の要望を聞いてくれた。
ところで璃月の領民……ではなく人間達は皆健脚なのだろうか。
これほど長い階段なのに、途中に休憩用の椅子一つ置いていない。
私はふらふらと壁際に歩いていく。
へろへろになっている私は一体どこで一息着けばいいのかと思いながら端っこに寄って息を整えた。
床にへたり込みそうになる前に旦那様が寄りかかれるように支えてくださったおかげでへたりこむような事態は避けることができた。
凡人達は皆健脚なのだろうか。
こんなに長い階段だというのに休憩するための椅子が置かれていないなんて本当に信じられない。
そんなふうに何度も休憩を挟み、途中で見知らぬ優しい人や千岩軍の方に心配されながらも私は旦那様の手を借りてなんとか自力で階段を登り切った。
ちなみに登りきった時にはなぜか拍手をされた。
そして、ようやくたどり着いたのは玉京台とよばれる場所。
モラをたくさん所有する富豪と呼ばれる人たちが住むところらしい。
旦那様と一緒に長い階段を登った後、懐かしい人に会った。
私の知る見た目とは変わっていたけれど、たしかに彼女は私の知り合いだ。
その人にお茶を飲みに来たと彼が話しかける。
「おや、……まあ、なんと久しぶりに見る顔じゃ。生きているといいことがあると聞いたけれど懐かしい友人達にまた会えるなんて嬉しいものだねえ」
ばあやにとってこんなに嬉しいことはないよ。
そう言ってばあやと自らを呼ぶその人は私と彼の姿に目を丸くした後、嬉しそうに微笑んだ。
つられて私も笑顔になった。
旦那様は相変わらずの表情だけど喜んでいることは私にはわかる。
「お久しぶりです」
「本当に久しぶりじゃな。この間の気配はお前さんのものだったのかい?」
「……やっぱり、わかった?」
「ああ。お前さんの力は……まあ前よりも弱いがそれでも我々にとっては強い力だからねえ。それにしても疲れた顔をしているようだけど何かあったのかい?」
「……階段が多くて」
私が小声で言ったのを聞き逃さなかった彼女は一瞬、目を丸くしてからまた優しく笑った。
「ああ、なるほど。そうじゃろう、そうじゃろう。大変だったかもしれないが、また会えてばあやはとても嬉しいよ」
そうやってニコニコと笑ってもらえたら私も頑張った甲斐があったというものだ。
ばあや、と自らをそう名乗る彼女は今はピンばあやと名乗り、私の恩人となった旅人さんをはじめとした多くの人に慕われているようだ。
だから私も彼女のことはとりあえずピンと呼ばせてもらおう。
そう言うと彼女は朗らかに笑い、かまわないと頷いてくれた。
「そういえば他の仙人たちにはもう会ったのかい?」
私達に歓迎の意味も込めてお茶を淹れるための湯を用意し始めた彼女が尋ねてきた。
私は首を振って否定した。
彼女こそが私が目覚めてから最初にあった仙人である。
「いや。まず今の生活について学んでからと思っていたからな。まだ璃月港以外には連れていっていないんだ」
「おや、そうなのかい……。他の者……特に留雲は首を長くして待っているだろうね」
首を振っただけの私に旦那様が代わりに答えてくれた。
旦那様と話し合って時勢が落ち着いた今だからこそ、懐かしき友に会うよりも先に新しい生活になじむことを優先させた。
「いま旦那様と郊外旅行に行こうって話をしているの。だからきっともうすぐ会えるはず……」
「だったら、あやつも喜ぶだろうね」
彼女が話題にした留雲借風真君はかつて私にとてもよくしてくれた仙人だった。
私がずっと眠っていた場所を守るためにいろいろ施してくれたことも旦那様達から聞いた。
留雲借風真君はずっと私を支えてくれていた。
私が帰終ちゃんとまだ一緒にいたころからずっと、多くのことで彼女はいつも手を貸してくれていた。
悪夢の中でも、留雲ちゃんや帰終ちゃんをはじめとした友人たちや旦那様との思い出が私をずっと支えていたのと同じように。
だからこそ万全な状態で彼女に会いたかった。
ずっと心配してくれていた優しい彼女だからこそ元気な姿を見せたい。
それでちゃんと感謝を伝えたい。
留雲ちゃんがどんな思いであの場所に入ったなんて想像しかできないけれど、だからこそ今は無事で元気だと胸を張って彼女に会いたい。
「なまえがそう決めたならきっと留雲もわかってくれるじゃろうな」
そう言いながらお茶の用意を続けるピンの後ろで琉璃百合が咲いている。
何気なく目に入っていたが、私はようやくそれがおかしなことだと気がついた。
この間の旦那様の話では琉璃百合は荻花州にのみ咲いてるんじゃなかったっけ?
そう思った私が旦那様の服の袖を軽く引っ張る。
彼はすぐさま反応を返してくれる。
どうしたとこちらを見つめてくれた旦那様に私は尋ねてみた。
「旦那様、琉璃百合が……こんなところに」
「ん?……ああ、琉璃百合か。玉京台では琉璃百合の人工栽培もしているんだ。野生の琉璃百合はこの前話した通り、荻花州にしか咲いていない。数も少ないからな」
「そうなのですね……」
旦那様の言葉を聞いて残念に思ったけれどあの戦火の中、生き延びただけでも十分である。
人工的に栽培できるのならばこの花が人々に忘れられていない証でもあるのだから喜ぶべきことである。
そんなことを思っていると微笑ましそうに見つめるピンの顔が目に入った。
首を傾げて、どうかしたのかと尋ねると思いもかけない言葉が返ってきた。
「お2人が並んでいるところを見られて嬉しいなと思っていただけじゃ」
「!」
まさかそんなことを思っていたとは思わず驚いていると、横からさらに追い討ちをかけるような言葉が聞こえてきた。
「ああ。俺もなまえと一緒にいられてとても嬉しく思う」
「おやおや……。相変わらず仲が良くてばあやも自分のことのように嬉しいよ」
にこにこと笑うピンと表情は変わらないながらも嬉しそうな雰囲気を隠そうとしない旦那様の姿に気恥ずかしくなる。
「……お二人とも、恥ずかしいのでそれ以上は……」
「ははっ、すまない。だが俺が言ってることは嘘じゃないぞ?」
尻すぼみになる言葉に旦那様が笑った。
旦那様のお言葉を疑っていないからこそ恥ずかしい。
彼の言葉に何も答えられるはずもなく、私は彼女から受け取ったお茶をただ飲むことしかできなかった。
ニコニコと笑うピンと優しく見つめる旦那様の視線に何も言葉にできなかった。
当然ながら、お茶の味は全く覚えていない。
設定
なまえ
足腰よわよわな嫁。首を長くして待っている友がいることが簡単に想像できるのに会いに行かないのは体力の問題である。
鍾離
最近凡人になった往生堂の客卿。手が空いたらピンばあやに鈴のお礼がてら会いに行こうと思っていた。とりあえず嫁が隣にいる幸せを毎日噛み締めているところ。
ピンばあや
いつもニコニコみんな大好きおばあちゃんな仙人。2人が一緒に会いに来てくれてとても嬉しく思っている。お茶の味がわからないほど混乱したなまえのためにもう一度お茶を淹れなおしてくれた。