とある女に対する見解の不一致
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ぽつり、ぽつりと呟くように話す一斗くんの言葉を私は黙って聞いていた。
けれど、最後に耳に届いたその一言で驚きのあまり黙っていることに耐えられなかった。
「……えっ! ええーーっ!!?? ほ、本当に?? い、 一斗くん神の目とられちゃったの??」
「……」
私の驚きに一斗くんは不貞腐れた表情をして黙ったままだった。
けれど、顔を顰めることで返事の代わりにしていたから彼の不機嫌さは手に取るようにわかる。
昨日、いつものように楽しそうに荒瀧派と名乗る一斗くんのお友達と一緒に出て行ったかと思えば丸一日帰ってこなかった。
そのことに心配していると、えらく機嫌の悪い様子で家に帰ってきたのはつい四半刻ほど前だった。
連れ戻してくれたのは久岐忍さん。
帰りの遅い一斗くんを私が心配していると一緒にお茶を飲んでいた忍さんが変わりに様子を探りに行ってくれた。
そして、先ほど一斗くんや他の皆と一緒に帰ってきた忍さんは私にあまり問い詰めないようにとよくわからない助言をくれた。
そして、それ以上は何も言わずにどことなく疲れた様子で自分の部屋に帰っていった。
他の皆もそれぞれ疲れたーなどと言いながらも機嫌の悪い一斗くんをチラチラと気にしながらもそれぞれの部屋に帰っていった。
それからずっと機嫌悪そうに黙ったままの一斗くんのそばにいたけれど、ようやく少しだけ落ち着いたのを見計らって、話を聞き出したのだった。
帰ってきた時から気にはなっていた。
どうやら一斗くんは天領奉行に神の目を押収されてしまったらしい。
いつもこっそりとではあるが自慢げに磨いてピカピカ光っている神の目がない事はすぐに気がついた。
けれど、忍さんが問い詰めるなと助言してくれたので一斗くんが落ち着くまで何も言わずに待っていたのだ。
「くっそー! 天領奉行の役人どもめ、俺様が疲れたところを一網打尽にしやがって……」
そんなふうにぶつぶつと悪態をつきながら一斗くんはいつもなら櫛でとかして綺麗にしてる髪をぐしゃぐしゃと掻いていた。
「もう、せっかく綺麗にしてるのにボサボサになっちゃってる……。落ち着いて一斗くん」
ボサボサになってしまった髪を見つめながら私がそう言うと怒りがまた込み上げてきたようだ。
「特に大将のあの女……!」
またイライラとしはじめた機嫌の悪い一斗くんに落ち着いてもらおうとお茶を淹れることにした。
沸かしていたお湯を急須に淹れて少し待ってから湯呑みに注ぐ。
それを一斗くんの前に置いて、落ち着くように言いながら、彼にお茶を飲むように勧めた。
素直に従って湯呑みを掴んだ一斗くん。
そんな一斗くんを見ながら私は彼が大将と言った人のことを考えた。
目狩り令の管轄といえば天領奉行だ。
天領奉行といえば九条家である。
九条家の跡取りはたしか前線に立っているから、次男坊かと思ったけれど彼は戦闘はからっきしだ。
戦えない人にいくら戦闘を重ねて疲れていたとは言え一斗くんが負けるはずはない。
あ、女だって言ってたからもしかして……。
「大将って九条家の……サラちゃん?」
サラちゃんこと、九条裟羅は私の友人である。
一斗くんが何度も何度もそれこそびっくりするぐらい天領奉行に捕まるからその度に私は忍さんと一緒に身柄引き受け人として天領奉行に通ってきた。
最初はあの一斗くんの嫁だって言うとびっくりされたけど今はもう「奥さんも大変ですね」などと逆に労われている。
サラちゃんとの出会いのきっかけもそんな感じ……ではなく、彼女とはとある山中でたぬきさん達と遊んでる時に出会った。
それから、何度か見かけて少しずつ話すようになった。
天領奉行内でサラちゃんと会った時はびっくりしてしまった。
「なまえ! 馴れ馴れしく呼ぶんじゃねえ! 俺様の嫁なら俺様の仇をとるとか……」
「……え? かたき?」
いつもと変わらぬ様子の一斗くんに安心しながらも思わず間抜けな声が出た。
たしかにあれだけ大事にしていた神の目だもの。
一斗くんの怒りは当然だと思う。
でも、私は一斗くんが元気で帰ってきてくれたからそれで良かった。
もしいつかの神子の時みたいに一斗くんが寝込むようなことがあったら許してはおけないけれど、特に体調に変化もなさそうだし、少しある傷もいつものこと。
だから怒ると言うよりちゃんと帰ってきてくれたと言う安堵の気持ちの方が大きかった。
「仇って……一斗くん死んでないじゃない」
「当たり前ぇだ! 俺様がお前や荒瀧派の連中を置いて死ぬわけねぇだろ!!」
「!」
私の言葉に間髪入れずにそう返した一斗くんに不覚にもドキドキしてしまった。
今はそういう場面じゃないのに……うう。
ドキドキと高鳴る胸に熱くなる顔を誤魔化すように私は話題を変えた。
「……さ、サラちゃんは真面目だけどとても優しい子だよ」
「ハァ!? 優しい!? あの女が優しいわけねぇだろ!!」
遊びに行くと、忙しいから時間はとれないと前置きしながらもいつも私の好きなお菓子をあらかじめ用意してくれるサラちゃんを思い出す。
真面目な態度は始終崩さないけれど彼女はいつも優しいのだ。
それは初めて会ったあの山の中でも変わらなかった。
「なまえ! あの女に騙されんじゃねぇぞ!!」
私がそんなふうにサラちゃんを思い出しているその目の前で、一斗くんの脳裏には天狗面を頭につけたふてぶてしい態度をとる九条裟羅の姿が過ぎっていたとは思いもしなかった。
ちなみに途中から一斗くんの怒りを一心に受けていた彼の手にあった湯呑みにはひびが入っていた。
設定
なまえ
一斗の嫁。旦那が捕まるのはいつものことなので心配しつつもあまり気にしていない。今回は一斗が元気に帰ってきたので良かったと思っているだけだったが、狐耳のお姉さんとの大食い対決で一斗が寝込んだ時は狐耳のお姉さんに文句を言いに行っていたりする。ちなみに荒瀧派についての認識は鬼婆婆とほぼ同じである。
荒瀧一斗
不機嫌ななまえの旦那。目狩り令で大事な神の目がとられて御立腹。捕まったことについては多分気にしてない。それよりも負けたことの方が悔しい。没収されてしまった神の目をどうやって取り戻そうか考え中。千手百目神像の目立つところに嵌め込まれているから奪還も難しそうだと考えている。