花嫁は何も考えずに白に染まれ
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ディルックがなまえに結婚を申し込み、ようやく彼女がそれを受け入れた時、なまえは彼にひとつの条件を出した。
結婚式は左手を差し出して、と。
それは古い廃れた慣習であり、かつての貴族の忌まわしい伝統だった。
ローレンス家は旧貴族と呼ばれる悪名高いがその歴史は現在の格式高いラグヴィンド家やグンヒルド家と同じように古い一族だ。
彼らはかつての栄光にすがるのと同時に古い伝統にも造詣が深かった。
だから幼い頃よりその教育を受けてきたなまえ・ローレンスがそれを知っていたのは偶然ではない。
それはある意味で忌むべき慣習であった。
だからこそなまえはディルックがそのことを知らないと思ってわざとそのような遠回しな表現をしたのだった。
ところで身分違いの恋、というものは多くの物語で語られるように刺激的なものであり人々の憧れを形にしたものである。
現在の西風騎士団の蒲公英騎士であるジン・グンヒルドの母が冒険者であったサイモン・ペッチと結婚したように今のモンドでは身分違いの恋というものは許されている。
だからこそ廃れた習慣がある。
そのひとつが左手による結婚。
それが行われればいくら結婚したとしても妻となる女とその子には決められた財産以外の一切の遺産、相続に関するものからは除外されるというもの。
つまり、子が産まれても庶子であるということだ。
早い話が一族を継ぐ資格がないというものである。
それは一族の財産が分散しないという点ではとても良い案であることは確かだ。
――結論から言おう。
なまえははじめからディルックの求婚に答えるつもりはなかった。
彼ほどの人物ならきっともっと素晴らしい人がいるとなまえは考えていた。
ディルックはなまえよりも年上ではあるがまだ若い。
この先きっと彼には今までと同じように多くの人と出会うはずだ。
ラグヴィンド家の当主としての彼とお近づきになりたい人もいるだろう。
それ以外にも彼の人柄に惚れる者もいるだろう。
いずれ出会うかもしれないそんな多くの人々の中に彼の家柄に釣り合うような優しく聡明で、彼の家にとってプラスになるような人がいるかもしれない。
だからこそなまえは諦めさせるために結婚を受け入れることにした。
ローレンス家の人間として生きてきたなまえにとって一族を存続させることは重要なことである。
ましてや、ディルックはあのラグヴィンド家の嫡男であり、ただひとりの後継者でもあるのだから。
そのローレンス家の思想と相いれずともなまえがなまえを形成する主軸はローレンス家の教育だった。
たとえ、ローレンスがモンドの人々に悪だと認識されていたとしても家の教育が100パーセント悪ではないことを知っていた。
なまえなりの判断で彼女にとって嫁ぎ先の家を守ることは何よりも重視するべき事柄として認識されていた。
結婚というものは当人同士のものだけではないということは当然のことである。
だからもし、いつかディルックにそのような素敵な人が現れたらなまえは身を引くつもりでいた。
ラグヴィンド家に相応しい人がどこかにいるはずだと信じて疑わなかった。
その中にさみしさも含まれていたがそれは仕方のないことだとなまえは自分に言い聞かせていた。
すべてはディルックを愛してしまった自分が悪いのだと。
その考えがディルックの思いを無視した自分勝手な考えだとこの時のなまえは気づいてすらいなかった。
それこそ、彼の葛藤や周りの後押しなどなまえは知る由もなかった。
そしてそれを知るのはずっと後のことである。
内心はどうであれなまえはディルックとの結婚を了承したのであった。
―――
――
「わあ……! なまえさん、素敵!」
バーバラの可愛らしい声が花嫁の控室として使われている大聖堂の一角に響いていた。
本来であれば花嫁はその穢れのない純白の衣装で実家を出るはずだが事情が事情である。
この結婚は秘密結婚のようなものである。
たとえ西風教会から正式の認可が下りていたとしても少なくともこの式が終わり、2人が誓いを立てるまでは秘密にしておかなければならないものだ。
それほど危険なものだった。
直接縁を切られたローレンス家だって、もしかしたら乗り込んでくるかもしれない。
これからはじまる誓いの儀が終わるまではなまえは一応ローレンスの一員なのだから。
「すごい……。なまえさん本当に綺麗……」
祈祷牧師となってまだ日が浅いバーバラは教会に所属こそしているが花嫁を近くで見るのは初めてだった。
白に染まる花嫁の美しさに感極まっているバーバラに花嫁の準備を手伝っていたリサが微笑んだ。
「ふふっ、わたくしにかかればこれぐらい朝飯前よ。それになまえは元がいいもの。モンド1……いえ、テイワット1の花嫁になるわ」
「当たり前よ。この子を可愛くないなんて言ったら、私が許さないんだから」
自信満々のリサの言葉に同意したのは同じく花嫁の準備を手伝っていたエウルアだった。
「もう! エウルア!! 今日ぐらい喧嘩腰にならないの! なまえ、すっごく綺麗で驚いちゃった。これならディルック様もメロメロだよ!」
「「「え? め、めろめろ……?」」」
興奮したアンバーの言葉にそれを聞いていた各々がメロメロになったディルックを思い描こうとしたがどうにも難しく、結局いつも通り冷静な彼しか思い描けなかった。
混乱する一同に囲まれるような位置で鏡に向かって座るなまえはそんな彼女らの戸惑いにくすくす笑った。