確信犯は揺るがない
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「――……」
だから、何か言葉を返そうと躍起になった。
けれども口は開けどもそこから何か言葉が出ることはなく、ガイアは意味もなく口を開いただけだった。
なまえの指摘はいつもガイアにとって嫌なところをついてくる。
まともな人生ではないことはガイアが一番よくわかっていた。
故国のために育てられて故国のためにモンドに置き去りされた。
このモンドに住む人々とは絶対的に相容れないことはもう理解していた。
だから、ガイアはいつまで経っても異色で異質だ。
西風騎士団の一員として騎兵隊長の一人に任命されても彼の心はずっとどこか一線を引いている。
自分から暗い方へと行こうとするのは彼の植えつけられた人生観のせいだ。
皆がやりたがらないことを率先してするのも彼がまた異質であることを裏付けていた。
「あの坊ちゃんに感謝するんだな。なんだかんだ言って身内には甘いみたいだから」
だから、『坊ちゃん』なんだろうけど。
そうなまえが吐き捨てた言葉も間違いではない。
なまえのいう『坊ちゃん』は甘いのだ。
結局彼はモンド人であり貴族であることはその性根に刻み込まれている。
彼は生粋の貴族であるのだから仕方ないと言えば仕方がない。
いくら影を見たとしてもその根本が違う人間が染まるにはもっとずっと暗い場所へと長い時間行かなければならない。
なまえが言わなくてもガイアはそれをよく理解していた。
彼はガイアと違って日陰の人間ではないということなのだ。
だからこそ義弟の本性を誰にも告げることはなく、彼だけの秘密としたのだ。
そのおかげでガイアは騎兵隊長として西風騎士団に所属したままだ。
「なまえ……」
「ガイア、お前はいつか後悔するぞ。あの赤毛の坊ちゃんに真実を話したことも。お前があの家に情が湧いてしまったことも。いつか、お前自身の首を締める時がくる」
なまえの告げる言葉をそこまで聞いた時、不意に彼女の瞳が揺れていることに気がついた。
今までの嫌悪に満ち溢れた裏切り者に対する鋭く尖った視線の中に小さく、だがはっきりと心配の色を滲ませていた。
この目をするからガイアはなまえに会うことをやめられない。
彼女だけがいつだってガイアの本心を理解してくれていたから。
「私はお前が心配なんだよ、ガイア。お前は結局のところ裏切り切れていない。戻れとは言わない。裏切りはお前がそう決めたんだから。けど、ちゃんと裏切らないと後悔するのはお前なんだ」
なまえはやはり優しかった。
ガイアの心情をゆっくりと丁寧に考えて心の奥底を掬い取り、心配してくれている。
「なまえ、俺は……そんな繊細じゃないぜ」
だけどガイアは否定した。
そうしなければもうモンドで生きていけないような気がしたから。
本当はなまえの言葉に心を揺さぶられたなんて、そんなことがあるはずがないのだ。
故国を裏切った元スパイ。
ガイア・アルベリヒの立ち位置はもうこれ以上、揺らいではならない。
本来ならば一度だって許されないのにそんな男に二度目が許されようはずもない。
「……それならいいけど」
そう否定したガイアに彼女はもう何も言わなかった。
そしてそれっきりなまえの瞳もまた、ガイアを見ることもなかった。
設定とあとがき