確信犯は揺るがない
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西風騎士団の騎兵隊長のひとりガイア・アルベリヒはモンド城の片隅にある小さなとある商店の前にいた。
そんな彼の姿を見つけて、客だと思った店員は元気よく声をかけてきた。
「いらっしゃいませ!」
しかし、彼女は改めてやってきたその客がガイアだと認めたその瞬間、客用だった笑顔はすぐさま形を潜めた。
「……なんだ、お前か」
そして、吐き捨てるように店員であるなまえはつぶやいた。
そんななまえの態度を不快に思うわけでもなく、呆れたようにガイアは彼女のその態度について軽く文句を言う。
「おいおい……客に向かってその言葉はないだろう?」
「……客? お前が?……はっ、お前のような裏切り者を客扱いしろと?」
しかし、そんな言葉に鼻で笑うなまえの表情は嫌悪感に満ち溢れていて、とても客に対する態度ではないことは明白であった。
「裏切り者とは随分な言い草だぜ」
肩をすくめたガイアであったがその理由を知っていた。
そうやって誤魔化そうとする態度がなまえは気に食わなかった。
だから、今度はもっとはっきりと直接的に言い放つ。
「その神の目。七神に認められてさぞ鼻が高いだろうな」
「……」
神の目。
それはこの七国の人々にとっては神に認められた証として有名である。
願いの強さが極地になると神の視線がその人に注がれると言われている。
七国の多くの人にとっては、それは望むものであるがなまえにとっては嫌悪の塊である。
七国は欺瞞に満ち、淀みを知りながらも放っている国だから。
「……まあいいや。どうせ自壊するのだから別にどちらでもいいわ」
何も言わないガイアを一瞥してなまえは接客しようと手を離した作業を再開させた。
どうせガイアは客ではないのだから接客の必要はない。
先ほどまで行っていた台帳の記入作業を再開して、売上を照合しながらガイアに世間話をするように吐き捨てる。
「お前の好きな神の国。その神とやらが私たちの国にした仕打ちをまさか忘れたとは言わせないぞ」
それは片手間に話すには重すぎる話題であった。
だがそれも束の間、なまえは顔を上げてガイアを見つめた。
そしてひとつ問いかける。
「それで、騎兵隊長さんはこの店に一体何のご用なのでしょうか?」
買い物に来たのならとっとと選んで帰れ。
突然丁寧になったその言葉にはそんな気持ちが隠されていたことにはすぐにわかった。
しかし、なまえのことをよく知っているガイアはそんなことで動揺するはずもない。
全く動揺もなく、むしろ余裕のある態度でやれやれとまた肩をすくめながら首を振った。
「俺か? そりゃ、大切な幼馴染のご機嫌を伺いにきたのさ」
「……、ならもう用は済んだだろ」
「ああ、そうだな……」
冗談混じりのガイアの言葉になまえは興味が失せたようにまた台帳に目を向けた。
そしてガイアを見ることはなく言葉を返す。
早く帰れと言いながら台帳を眺めている。
その様子にガイアはまたため息をついた。
それにも彼女は特に反応を示すことはなく手に持った筆記用具で何かを書き込んでいる。
そんななまえの姿をガイアは品物を見るふりをしながら見ていた。
まるでガイアがいないように帳簿を見ているなまえにガイアは思わず口を開いた。
彼女の名前を呼ぶけれどなまえからは大した反応は得られなかった。
だから、ガイアは彼らしくない言葉を紡いだ。
「なまえ……お前は、ずっとこのまま生きるのか?」
モンドの住民が知るガイア隊長らしくない言葉であることはその言葉を聞いたなまえが顔を上げたその瞬間に気がついた。
彼がその言葉は無意識のものだった。
「……私の生き方なんてどうでもいいだろ。お前は裏切った。裏切ってこの無知な人間どもと共に生きる道を選んだのだから」
お前には関係ないと言外に含ませた彼女の言葉にガイアは何も答えることはできない。
答えられないガイアを知っていたようになまえは気にする様子もなく言葉をつづける。
「神の目の力を借りて、お前の好きなように生きていけばいい。だけどお前の生い立ちが明るみに出れば……」
そこで一旦なまえは言葉を止めた。
ガイアには彼女がその先を言おうか迷っているように見えた。
だがそれもなまえが紡いだ言葉によってその考えは忘れることとなる。
「――その時のお前は、まともでいられるのかな?」
「……っ」
ガイアは思わず息を呑んだ。
彼女の告げたそのただ一言で動揺した。
ドキリと音を立てた心臓が彼の動揺を彼自身に正しく伝えていた。
真っ直ぐに見つめてくるなまえから目が逸らせない。
ガイアは彼が“皆”に印象付けたその騎兵隊長、ガイア・アルベリヒの姿をその瞬間だけは完全に忘れていた。