砂浜の足跡は君のもの
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行商と言葉にすれば短い単語だが大変な仕事である。
売り上げは不定期だし、凝光が女だということで舐めた態度をとってくる連中もいる。
それでも凝光には夢があった。
だからこそ切り詰められるものは切り詰めて商売を続けている。
「今日の荷物は少ないけど、たくさん売れたの?」
「ええ、まあ。そうね、いつもと違うところに行ったから物珍しさで買ってくれた人が多かったのかもしれないわ」
場所を移動できるというのが行商の特権である。
決まった店舗を持たないから身ひとつで様々な場所に行ける。
璃月は千の商人が集まると言われる商業地であるが、繁栄している璃月港以外のところは閑散としており、行商人は歓迎されることが多い。
だからこそ誰でも成り上がるチャンスがあるのだ。
お金持ちなら人を使えるが一般人はそうはいかない。
実店舗を持たない行商人なら特にそうだ。
だからこそ、商人を志すものが最初に目指すのは実店舗を持つことである。
璃月港で商売ができたら最高であるがなかなか難しい。
「あ、そういえば今年は軽策荘のタケノコが豊作らしいよ」
いつの間にかタケノコを手に持っていたなまえが笑った。
あとで食べようね、と続けられた言葉から一緒に食事をすることも決まっているようだった。
そう言われて、凝光は最近あまり食べられていないことに気がついた。
最近どうも景気が良いようで行く先々の人々がよく買ってくれる。
だから、商品が手元に残りにくいのだ。
「あっちに野営地があったはずだから、そこまで行こう!」
なまえが断りもなくタケノコを凝光に押し付けて先に進む。
彼女はいつもそうだ。
勝手に決めて、凝光を巻き込む。
「(こんな貧乏な女にかまったって何もないのに)」
凝光はいつも思っていた。
なまえは彼女には理解できない人種である。
でも、だからこそ彼女に会えると……少しだけ嬉しい。
ほんの少しだけ。それは絶対になまえには伝えないことだけれど。
「遅いよ、凝光ちゃん! 今日は私が特別に私オリジナルの茹でタケノコのサラダをご馳走するね」
「なまえ……、それよりも煮物にした方がいいんじゃないかしら」
「煮物は時間かかるけどいいの?」
「今日するべきことはもう終えたからあなたの話に付き合ってあげるわ」
了承の返事の代わりに疑光はなまえに言った。
なまえはそんな彼女の態度に苦笑しながらも嬉しさを隠しきれなかった。.
「じゃあそれで決まり! 凝光ちゃんも手伝ってね!」
「その代わりにいい情報頂戴ね」
凝光は損か得かでしか動けない。
無意識のうちに頭の中の天秤が価値について計算をはじめてしまう。
モラがない不便さを知っていたから。
いつか必ず見返すと決めた。
だからこそ、いつか璃月港を覆うほど巨大な浮遊する凝光だけの宝を作るのだと。
空を見上げるとそこに空中に浮かぶ小さな島のようなものが見えた。
あれは仙人の御業だと誰かが言っていた。
だから、あれより大きなものを作れば仙人さえも越えられるはずなのだ。
そうすればその時こそ凝光を見下してきたもの全てを見返すことができるだろう。
だから、必ず成し遂げる。
「(でも、なまえはきっと、……)」
そこまで考えてふと、なまえの頭はどんなふうになっているのだろうかと考えた。
人である限り、損得勘定は必ずあるとは凝光は思っている。
だから、なまえの考えが凝光と異なるように感じるのは凝光とは損得の基準が異なるだけなのだ。
そうに決まっている。
なまえはもしかしたら損得の物差しがおかしいのかもしれない。
そうでなければ不安定な収入である冒険者などという職には就くはずがない。
夢や希望だけでは人は生きていけない。
「(……)」
けれど、夢や希望がなければ生きていけない人もいる。
底の底を知っている凝光はそれも知っていた。
「(なまえも私と同じように……)」
そう思ったけれど、結局考えているだけでは答えは出ない。
踏み込んでならない事のような気がしてとても聞けなかった。
それは凝光自身が触れられたくないところであったから。
「なまえは……どうして私に笑顔を向けてくれるのかしら……?」
疑問の答えはとっくに出ていたのに、凝光は今も自分を信じられないままだった。
凝光の見つめる先で先を行くなまえの背中につけられた神の目がゆらゆらと揺れている。
それが……それこそがすべての答えであると凝光は知っていたのに。
設定とあとがき