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――
雨はまだまだ止む様子はなく、夜にかけて本格的に降り続きそうな様相を見せていた。
傘を広げる前に雲の流れを一瞥していた鍾離はこれからの天気をそう予測していた。
雨だからかいつもは開いている店の何軒かはもう店じまいしていた。
客が少ないから仕方のないことかもしれない。
いつもは屋台が立ち並ぶ区画も屋内へと設備を変えており、側から見ると閑散として人の姿もまばらだ。
しかし屋内はもう少し賑やかかもしれない。
そんなふうに周囲の様子を観察していると隣で同じように傘をさしたなまえが話しかけてきた。
「旦那様、往生堂の皆様は良い方々ばかりですね」
往生堂がある緋雲の丘の大通りをそれぞれ傘をさして鍾離となまえは歩いていた。
あれから胡桃をはじめとした手の空いているその場にいた往生堂の従業員達に総出で見送られて往生堂を出てきた。
往生堂の玄関先にもすでに渡し守と呼ばれる案内人の女性が立っており、彼女にもお気をつけてと業務中にはあまり見られない優しげな笑顔で見送られた。
「そうだな。彼らの生業の特殊さがあのような態度を取らせるのかもしれないな」
いつも通りの落ち着いた雰囲気でなまえの言葉に鍾離はそう答えるから彼女は不思議に思って首を傾げた。
「……? 旦那様が皆様に慕われているからではないのですか?」
「……俺が?」
なまえの言葉に鍾離が立ち止まったので彼女も数歩先で足を止めて振り返る。
どうやらなまえの考えは彼の思うところではなかったようだ。
今度は鍾離がなまえを不思議そうな顔で見つめた。
「ええ、私はそう思いましたけれど……?」
お互いの思いの相違に不思議そうな顔をしながら2人は見つめあっていた。
普段は人通りが多く、通りの真ん中で立ち止まっていたら睨まれたりもするが生憎雨のおかげで人の通りも少なく、そのようなことはない。
「だって、……旦那様。皆様は私が旦那様の妻だと知った時におっしゃっていました。鍾離先生の講義が一番丁寧で間違いもなく、それでいてわかりやすい……と」
立ち止まったままなまえは鍾離に聞こえるように少し大きな声で話し始める。
その声は雨音に混じっていたが、しっかりと鍾離のもとへと届いていた。
それから、なまえとの距離を詰めるために徐に鍾離が歩を進めたので彼を待ってからなまえも一緒に歩きはじめた。
「質問をすればちゃんと的確に答えてくれるし、常に冷静で穏やかな方だからとても話しやすくて素晴らしい先生だとも教えてくださいました」
「ふむ、そうだったのか。……」
なまえから「鍾離先生」の印象を聞いた彼はそれを事実として受け止めた。
彼はある題材についての講義を頼まれた以上、その事実を伝えるのは当然であり、その講義の対価は受け取っているので「鍾離先生」の講義についての聴講者達の感情は気にしていなかった。
だからこそ、なまえの言葉に興味ぶかそうに頷いた。
「はい。私は往生堂での旦那様のお姿は知りませんでしたので、皆様からそのようにお伺いできてとても嬉しかったです。旦那様の良さが皆様の知るところになって、とても心が弾んでしまいました!」
自分のことではないのにまるで自分のことのように喜ぶなまえ。
雨の中でも変わらぬその笑顔にはいつも励まされていた。
多くを知っている鍾離はあまり心を動かされることがない。
それは彼がこの国の誰よりもずっと多くの物事を記憶しているせいである。
知っているということは感動が少ないことでもある。
感情というものを知っていてもそれを持っているかどうかは別の話であるからだ。
だが、彼はなまえが喜んでくれると同じように嬉しく思った。
それがどんな些細なことでも彼女が笑ってくれるのならば心は動かされるような気がした。
なまえはいつも真っ直ぐな言葉を使っている。
彼女は彼女の夫よりもずっと感情というものを正しく理解して用いることができていた。
それがなまえの強みであって、鍾離もそんな彼女から学んだことも多い。
それを話すとなまえは必ず「私の方が旦那様から学んだことの方が多いですよ」と謙遜しながら小さく笑うのだ。
「……あ、」
そんなことを鍾離が考えていると今度はなまえが小さく声をあげてから立ち止まった。
鍾離がなまえに目を向けると彼女の視線は下に向かっていた。
同じように視線を追いかけて、なまえが少し広めの水溜まりを前にして足を止められていたことに気がついた。
だから、彼女が進めるように水溜りを前にして立ち止まったなまえに手を差し伸べた。
迷うことなく、その手を掴んで彼の手を支点としてなまえは水溜りを飛び越える。
舗装路に溜まったわずかな水が着地の拍子で跳ね上がった。
「ありがとうございます」
それからなまえは手を離して再び二つの傘はまた元の距離に戻った。
傘をなまえの手が濡れないように傾けてくれていた夫がこれ以上濡れないようにしたかったからだ。
それからまた二人は雨の中隣り合って道を歩いていった。
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雨はまだまだ止む様子はなく、夜にかけて本格的に降り続きそうな様相を見せていた。
傘を広げる前に雲の流れを一瞥していた鍾離はこれからの天気をそう予測していた。
雨だからかいつもは開いている店の何軒かはもう店じまいしていた。
客が少ないから仕方のないことかもしれない。
いつもは屋台が立ち並ぶ区画も屋内へと設備を変えており、側から見ると閑散として人の姿もまばらだ。
しかし屋内はもう少し賑やかかもしれない。
そんなふうに周囲の様子を観察していると隣で同じように傘をさしたなまえが話しかけてきた。
「旦那様、往生堂の皆様は良い方々ばかりですね」
往生堂がある緋雲の丘の大通りをそれぞれ傘をさして鍾離となまえは歩いていた。
あれから胡桃をはじめとした手の空いているその場にいた往生堂の従業員達に総出で見送られて往生堂を出てきた。
往生堂の玄関先にもすでに渡し守と呼ばれる案内人の女性が立っており、彼女にもお気をつけてと業務中にはあまり見られない優しげな笑顔で見送られた。
「そうだな。彼らの生業の特殊さがあのような態度を取らせるのかもしれないな」
いつも通りの落ち着いた雰囲気でなまえの言葉に鍾離はそう答えるから彼女は不思議に思って首を傾げた。
「……? 旦那様が皆様に慕われているからではないのですか?」
「……俺が?」
なまえの言葉に鍾離が立ち止まったので彼女も数歩先で足を止めて振り返る。
どうやらなまえの考えは彼の思うところではなかったようだ。
今度は鍾離がなまえを不思議そうな顔で見つめた。
「ええ、私はそう思いましたけれど……?」
お互いの思いの相違に不思議そうな顔をしながら2人は見つめあっていた。
普段は人通りが多く、通りの真ん中で立ち止まっていたら睨まれたりもするが生憎雨のおかげで人の通りも少なく、そのようなことはない。
「だって、……旦那様。皆様は私が旦那様の妻だと知った時におっしゃっていました。鍾離先生の講義が一番丁寧で間違いもなく、それでいてわかりやすい……と」
立ち止まったままなまえは鍾離に聞こえるように少し大きな声で話し始める。
その声は雨音に混じっていたが、しっかりと鍾離のもとへと届いていた。
それから、なまえとの距離を詰めるために徐に鍾離が歩を進めたので彼を待ってからなまえも一緒に歩きはじめた。
「質問をすればちゃんと的確に答えてくれるし、常に冷静で穏やかな方だからとても話しやすくて素晴らしい先生だとも教えてくださいました」
「ふむ、そうだったのか。……」
なまえから「鍾離先生」の印象を聞いた彼はそれを事実として受け止めた。
彼はある題材についての講義を頼まれた以上、その事実を伝えるのは当然であり、その講義の対価は受け取っているので「鍾離先生」の講義についての聴講者達の感情は気にしていなかった。
だからこそ、なまえの言葉に興味ぶかそうに頷いた。
「はい。私は往生堂での旦那様のお姿は知りませんでしたので、皆様からそのようにお伺いできてとても嬉しかったです。旦那様の良さが皆様の知るところになって、とても心が弾んでしまいました!」
自分のことではないのにまるで自分のことのように喜ぶなまえ。
雨の中でも変わらぬその笑顔にはいつも励まされていた。
多くを知っている鍾離はあまり心を動かされることがない。
それは彼がこの国の誰よりもずっと多くの物事を記憶しているせいである。
知っているということは感動が少ないことでもある。
感情というものを知っていてもそれを持っているかどうかは別の話であるからだ。
だが、彼はなまえが喜んでくれると同じように嬉しく思った。
それがどんな些細なことでも彼女が笑ってくれるのならば心は動かされるような気がした。
なまえはいつも真っ直ぐな言葉を使っている。
彼女は彼女の夫よりもずっと感情というものを正しく理解して用いることができていた。
それがなまえの強みであって、鍾離もそんな彼女から学んだことも多い。
それを話すとなまえは必ず「私の方が旦那様から学んだことの方が多いですよ」と謙遜しながら小さく笑うのだ。
「……あ、」
そんなことを鍾離が考えていると今度はなまえが小さく声をあげてから立ち止まった。
鍾離がなまえに目を向けると彼女の視線は下に向かっていた。
同じように視線を追いかけて、なまえが少し広めの水溜まりを前にして足を止められていたことに気がついた。
だから、彼女が進めるように水溜りを前にして立ち止まったなまえに手を差し伸べた。
迷うことなく、その手を掴んで彼の手を支点としてなまえは水溜りを飛び越える。
舗装路に溜まったわずかな水が着地の拍子で跳ね上がった。
「ありがとうございます」
それからなまえは手を離して再び二つの傘はまた元の距離に戻った。
傘をなまえの手が濡れないように傾けてくれていた夫がこれ以上濡れないようにしたかったからだ。
それからまた二人は雨の中隣り合って道を歩いていった。