どうか凡人らしくしてくださいね
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「あれ?」
往生堂の客卿鍾離先生による講義が終わった。
丁度その時、往生堂に入ってきたなまえの姿を最初に見つけたのは入り口近くに立っていた堂主である胡桃であった。
そして時同じくしてなまえもまた胡桃の姿を見つけた。
「胡桃さん、こんにちは」
「あれ、あれれ? なまえちゃん? どうしたの? 鍾離先生に急ぎの用?」
胡桃はなまえを認めて驚きながら彼女に近寄っていく。
「いえ、えっとその……雨が降ってきたので傘を届けに……」
濡れた傘と未だ濡れていない傘の二本を持ったなまえが迫り来る胡桃に少し逃げ腰になりながら返事をしていた。
そんななまえの話を聞いて胡桃は扉を開けて外を見た。
「えっ? 本当に? ……うわー、本当だ。全然気づかなかった……雨降ってるじゃない。これから外で宣伝しようと思ってたのにいー」
そんな堂主の残念そうな声が響き渡って、ようやく外がいつもより暗く、雨が降っていることに他の者も気がついた。
往生堂は昼間でも扉を閉めていることと講義中ということもあったので、堂内を閉めきっていた。
隣の商家との距離も近く、外の様子はほとんどわからないのだ。
だから、なまえの持っていたその濡れた傘と彼女の言葉を聞いて初めて外の様子を知ったのだった。
「でも、そっかあ。わざわざ往生堂まで傘を持って迎えに来るなんて……いつも思っていたけど仲良いよね」
「えっ! ……いえ、……そ、そんな……」
仲が良い。
胡桃の指摘になまえは恥ずかしそうに顔を赤らめて俯いた。
胡桃としては単に思ったことを言っただけなのだが、頰を染めて俯くなまえの態度は年上のはずなのに可愛らしい。
そうなると思わず揶揄うようになまえに対して言葉を告げてしまう。
「うわわ、なまえちゃん、顔赤くなってかわいいー!」
「……っ」
それになまえは素直に反応して居心地が悪そうに縮こまる。
講義を終えて通り過ぎる往生堂の従業員たちもそんな堂主のからかい癖に苦笑いをしながらも、我らが客卿殿の奥方のまるで少女のような純粋な態度に微笑ましく思っていた。
「ふ、胡桃さん……」
なまえが力なく胡桃の名を呼んだちょうどその時、彼女の夫が珍しくざわめくこの場所に姿を現した。
そして人々の視線の先で恥ずかしそうに顔を赤らめた妻と楽しそうな姿の堂主を見つけて歩み寄っていく。
「なまえ、来ていたのか」
「あ、……だんなさま……」
鍾離の姿を認めたなまえが安心したように息を吐いた。
少し眉を下げている妻の顔を見てから彼女と対峙していた堂主に視線を移した。
相変わらず彼女は祖父の形見だという帽子を被って目が合えば何も知らないと言わんばかりの態度でにんまりと笑っていた。
「講義お疲れ様。鍾離さん、なまえちゃんは雨が降ってるからわざわざお迎えに来てくれたみたいだよ」
そして、なまえがここにきた理由を鍾離に伝えたのだった。