破壊者とは往々にして自覚がない
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自分の一番大切な人を堕落させた酒造業を破壊することを目標に定めているディオナにとって尊敬する人物がいる。その人は以前モンドの酒造業を壊滅寸前にまで追い込んだというのだ。それはディオナがモンド城に来る前のことでその方法は今でもわからない。
「久しぶりだね、元気にしてた?」
それがこのなまえという人物だ。彼女はディオナよりも年上でもうお酒が飲める歳ではあるらしい。だがディオナは彼女が飲んでいるところを一度も見たことがない。だからディオナはなまえが好きだ。会えば必ず挨拶してくれるし、いつも優しいからディオナもついつい、いろんなことを話してしまう。
「もちろん! 今日もなまえさんみたいに酒造業を破壊するために作戦を練ってるんだ」
「……そ、そうなの。私は別に酒造業に恨みはないんだけど……」
困ったように笑うなまえにディオナは力強く拳を握る。
「あたしちゃんと知っているんだから! なまえさんが前にモンドの酒造業を壊滅寸前に追い込んだって話!」
「ええー……、そんなの噂だよー」
なまえはディオナの言葉をやんわりと否定した。そんな彼女の態度にディオナはいつも不満を持っていた。
「もう! なまえさんはいつもそう言うんだから! なんで本当のこと教えてくれにゃいの?!」
「えっ? ……うーん、そんなこと言われても……、私は別に何かしたわけじゃないしなあ」
「……本当に? なまえさんが忘れてるわけじゃにゃくて?」
ディオナはなまえがわざと教えてくれないのだと思っていた。この点についてだけはディオナはなまえに不審を抱いている。だがそんな彼女の予想に反してなまえは本気で思い当たることがなかった。
「そう言われてもなあ……。うーん、思い当たることって……」
考え込むなまえにヒントが欲しくて思い出してくれと頼むディオナ。そんな2人を見ていた通りすがりのキャッツテールの店主は思った。
「(なまえちゃんモンドの酒造業破壊しかけたことに自覚がないって本当だったのね)」
ディオナは知らないがなまえは驚くほどお酒に強い。対して彼女の両親は酒に弱く、飲める年になったら自分の限界を知るべきだと自らの娘に説いた。そして両親に従ったなまえは酒場に繰り出して限界を知るために飲酒したのだ。
残念ながらそれも無駄足で彼女の酒豪っぷりを聞きつけた飲兵衛達はなまえに飲み比べの勝負を持ち掛けるようになった。そして周囲を巻き込んだ彼女の酒豪っぷりにつられるようにして飲兵衛たちの飲酒量を驚くほど増やした。モンドの酒造業に壊滅的なピンチに陥れかけただけだった。そして彼女が本当に知りたかった自分の限界を知ることはできなかった。
自分が酔うことのできない体質だと知ると彼女はあっさり酒場通いをやめた。彼女に勝てなかった飲兵衛達のリベンジを望む声は今なお根強いものがあるがなまえはそれを受けようとはしない。酒造業側としても、彼女が飲酒しようものなら飲兵衛たちは歓喜の渦に飲み込まれて酒の量も一気に増えてまた生産ラインが危うくなりそうなので彼女が断酒したという事実は良い話であるだろう。
「(それとも売上が下がったから悲しむことなのかしら……?)」
どちらにせよなまえははもうお酒は飲まないと言っていたし、モンドの酒造業は安定供給を取り戻したのだ。たった1人のザル娘の飲酒量が起点となってモンドの酒造業が大ピンチになったなど、飲兵衛が多いこの国でその理由は少し恥ずかしい。酒造業の沽券に関わると判断した酒造協会は箝口令を引いた。だけど噂はどこからか出てくるもので、「なまえがモンドの酒造業を破壊しかけたことがある」というものだけは消すことができなかった。方法についてはどうにか噂をつぶすことができたらしいが。それも当の本人がこの事実について半信半疑だったおかげでもある。
それなのに破壊などという不穏なワードを口にされては戸惑うばかりでなまえが肯定などできるはずもなかった。噂が出たのは彼女が酒場に通わなくなって、しばらくした頃だったのも良かったのかもしれない。飲兵衛達は自分の飲酒量など見てはいないし、なまえにつられて増えた飲酒量も気にはしない。酒造業のピンチにも目の前に自分の酒があるからと気にしていない呑気な連中である。だから彼らも自分が破壊未遂の一端に関与しているとは思うはずがない。戸惑う彼女と陽気な飲兵衛たちのおかげで理由の方については永遠に憶測のままで終わりそうだ。
――
「うーん……、考えてるんだけどやっぱり思いつかない」
ディオナの催促に必死に考えたなまえだったが、やはり思い当たる節はなかった。
「そ、そんなはずにゃい! 何かないの? 例えばアカツキワイナリーの酒造タンクをダメにしたとか!」
「ええっ!? 従業員ならまだしも部外者がそんなことしたら西風騎士に捕まるよ!」
ディオナの思いつきともいえる発言になまえは思わず声を上げた。さすがにタンクの破壊であれば故意であってもなくても知らないはずがない。当然そんなことはなかったのでなまえはディオナに向かって強く否定した。
「ていうか、ディオナ……。酒造業を破壊したいからってそういう物理的なのは騎士団とマーガレットさん達に迷惑がかかるだけじゃなくて皆が困っちゃうからダメだからね」
「わ、わかってる! あたしはそんなことしないし……!」
なまえはディオナがそんなことしないだろうと思ったが一応注意をしておいた。毎度のことなのでディオナもわかっていたが否定を口にする。物理的に破壊するのであればクレーを連れて行って爆弾を投げれば良いだけなのだから。
「それにあたしはとーってもマズイお酒を作って皆が二度とお酒を飲みたくないって思わせたいの!」
「自分からお酒をやめて欲しいんだね」
「そう! そうにゃの!! だから酒蔵を爆破なんてしないの! ……ちょっと! なんで頭撫でるの?!」
「ディオナがかわいいし、優しくていい子でよかったなって思ったら勝手に撫でちゃってた」
「~~~~っもう!!」
真っ赤な顔になって叫ぶディオナの様子に周りの人々の目がこちらを向いた。それに気づいたディオナは「見世物じゃにゃいんだから!!」と叫んでなまえを置いて走り去って行った。
「……置いてかれちゃった」
走り去ったディオナを見送るなまえの姿に人々はいつものことだと微笑ましそうに見つめていた。ともかく今日もディオナはなまえから酒造業を破壊する方法を聞き出すことはできなかった。
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なまえ
以前モンド中の酒という酒を飲み尽くしかけて、モンドの酒造業を破壊しかけたことがある。本人はどこまで飲めば酔っ払えるのか試したかっただけであって、他意はない。なんなら自分がモンドの酒造業を壊滅寸前に追い込んだことはあまり信じていない。1人でそんなことできるわけがないと思っている。
ちなみに最終的に究極のザルということを飲み友達に指摘されて飲酒はやめた。
ディオナ
なまえが酒造業を破壊しかけたという噂を知って尊敬している(お酒を飲まないいい人だし)。本当のことは本人も教えてくれないし、たった1人の小娘に酒を飲み尽くされたとは聞こえが悪すぎるのでモンドの酒造業のために曖昧な噂になっているので知らないでいる。