別れに立ち会う人は幸運である
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ジン
「もうお別れだね」
地面へと視線を落としたなまえが辿々しく私に告げた。だから、私も震える手になんとか力を込めてなまえの手を握ったけれど彼女はもう握り返してはくれなかった。弱弱しく頼りない私の力ではなまえの手を握り続けることができずにただ手を添えていたのと同義であった。
なまえは母上様の知り合いの娘だった。それを知っていたから母上様の顔を潰さないように私は彼女に会う時はいつも肩に力を入れていた。だが、なまえもその両親も穏やかな人だった。たから次第に自然体で接するようになっていた。母上様の後に続くように騎士団に入団し、その力を認められて地位が上がるにつれて自分を出せる場所は少なくなっていた。それでもなまえと彼女の両親に会う時はいつだってただのジンであり、友人の娘という立場を違えることはなかった。
騎士団で実力が認められて、周囲の人々が私のことをすごい人だと称えても、あの人たちはいつだって私をただのジンとして持て成し、出迎えてくれた。それはとても有難いことであった。だからこそ、この優しい人たちも含めてモンドを守りたいという決意は一層固くなった。獅牙騎士として、守るべきものはモンドの全てだとそう信じて、それが私の幸福にもつながるのだとそう信じていた。
信じていたのだ。母上様はモンドを守ることがグンヒルドに生まれた者の定めだとそう話していた。それが騎士の務めでありこの上ない喜びなのだと。それなのに、なぜ私はこんなにも悲しいのだろうか。かつて理想を掲げたはずの剣先はいまや血に塗れて私の理想とは全く別の場所を向いていた。
もし、なまえが本当に……それこそ小説や絵に描いたような悪であれば……。モンドに害のなす者であったならこんなにも心を乱されることもなかったのだろうか。
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