あこがれたのはお互い様
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弦を弾けば音がなる。弦楽器とはそういうものだ。何個も音を重ねればそれが旋律になる。旋律が人々の心に届けば曲になる。
なまえの家は代々芸事に秀でた者がいる家系であった。その家の末子であるなまえもそれに当てはまって、幼少期から様々な楽器を手にしていた。人々はなまえの音を掴む感覚が素晴らしいと褒めそやした。けれどなまえは自分が才能に溢れているとは思わなかった。姉や兄達はなまえの数倍上手だし、祖父なんてもう未熟者のなまえからしたら神の領域と言っていいほどの腕を持っているからだ。
なまえ以外の人に言わせればそれは経験という年月の積み重ねというのも加味されるのだが幼いなまえにはよくわからなかった。ともかく、なまえはずっと自分の才能は人並みだと思っていた。それになまえは芸事に秀でた家に生まれながらあまり芸事に興味を持たなかった。外祖父が昔聞かせてくれた璃月の神様の話の方がよほど興味を持っていた。父母達がなまえに芸事をさせようと璃月の神話についての歌や音楽を教えてくれた。なまえはそればかり練習して結局他の題材は見向きもしなかった。
――
ある日なまえは聴き慣れぬ音を耳にした。自分の耳は人よりも優れていないとなまえは知っている。同じものでも弾く人によって音色が変わるというものがなまえにはあまりよくわからなかったからだ。そんななまえでもまったく違うとはっきりわかる音はなまえの興味をひいた。音源を探して辺りを見回す。人だかりを見つけた。おそらくそこが音源であると目星をつけて足を向ける。
「ロックにいくぜ!!」
なまえがその場所に到着して人混みの後ろに立った時、そんな声が聞こえた。声の主はどうやら少女のようだった。
「(ロック……?)」
ロックという謎の言葉が引っ掛かったが、ここにいても答えは得られそうにない。人だかりの原因が分からなかった。周りの人がなまえよりも背が高くて見えなかったから人混みを掻き分け、謝りながら前に進む。聴き慣れぬ音はその間も鳴り止まない。この音をなんと形容すればいいのかなまえにはわからなかった。擬音にするとギュイーンとかにはなるけれど、擬音だけでは説明できない何かがあると思った。それが何なのかはなまえには分からなかった。視界が開ける。先頭までいけたのだ。キラキラと光るスポットライトの下に1人の少女が楽器らしきものを弾いていた。
「あの子は……」
「辛炎だよ」
「え?」
「今ステージに立ってる子だろ? 辛炎って言うんだ。良かったら覚えてあげてよ」
なまえの言葉に反応したのは隣にいた若者だった。彼は親切にもなまえにステージで歌う少女の名前を教えてくれた。
「辛炎……さん」
名前を呟くとステージに立つ辛炎と目があったような気がした。なまえの気のせいであれ、そうでないにしろ彼女の名前はなまえの心に深く刻まれた。辛炎の奏でるその演奏が終わるまでなまえはその場から離れることができなかった。
――
今日の演奏を終えて家に帰った辛炎はいつもより興奮していた。
「嘘だろ! あれ本物だよな?!」
1人きりの部屋の中で叫ぶほどである。
「あの最前列にいたのってなまえだよな……。アタイの音、気に入ってくれたかな」
はあ、と長く息を吐きながら今日の演奏を思い出していた。途中から最前列に立っていた少女を辛炎は知っていた。話したことは一度もない。昔、それこそ辛炎がロックに出会う前に出会った音の一つだった。彼女の弾く音を辛炎は聞いたことがあった。璃月の神の話を歌っていた彼女の姿に辛炎は自分も音楽がしたいと思ったのだ。結局、辛炎には彼女が弾くような壮大で荘厳な音よりも今の激しい気性を表すような、魂を揺さぶるようなロックな音が性に合ったのだが。それでも辛炎が聞いた彼女の音はずっとひとつの目標のように辛炎の心を掴んでいた。神が本当に傍にいるかのように思えたあんな音を聞いたのはあれが初めてだった。しかも自分とそう変わらない女の子があの音を出しているなんてずいぶん驚いたものだ。
それから辛炎はなまえの演奏を何度か聞いた。年月を追うごとになまえはその腕を上げていき、今ではもう璃月港で人気の演奏者になっている。彼女の公演はかなりの高値で販売されることも多い。ただ彼女は神話以外の演目は頑なに弾かなかった。それがなぜなのか辛炎は知らない。だけど璃月では神の物語は人気の演目だし彼女のその腕は神の物語でこそ、その真価を発揮するのだと思っていたから問題はない。そのはずだ。そんな意見の人が多いのだろう。彼女の公演数は減るどころか増える一方であることからも証明されている。彼女は辛炎の音を気に入ってくれただろうか。できることならまた聞きに来て欲しい。雲菫ほどとは言わないが常連になってくれたらとても嬉しい。そう思いながら磨く琴はいつもよりずっと輝いているように見えた。
設定
なまえ
芸事の家に生まれた子。初めて聞いた辛炎の音楽に興味津々。次も見つけたらまた聞こうと思う。
辛炎
ロックな女の子。なまえのことは以前から知っていてまさか聞きに来てくれるとは思わなかった。少し緊張して音が外れたこともあったが無事に持ち直した。