迷子は時として人助けになり得る
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なまえは今日も楽しく璃月郊外で迷子になっていた。
何度も歩いた道なのにどうしても覚えられない。
似たような山や岩が連なって今どこにいるのかよくわからない。
まあいわゆる方向音痴というものである。
しっかりと本人も自覚しているがコンパスを持とうとはしない。
それは彼女が冒険者という職であり、さして時間に追われるものではないからだ。
しかし、今回は違った。
とある大切な友人が大事を任されたので応援に行きたかったのだが、璃月港に戻れない。
助けてもらおうにも璃月郊外は人がほぼいない。
いたとしても問答無用で襲いかかってくる宝盗団ぐらいだ。
「うーん、……どうにも戻れないや。……どうするかな」
なす術もなく困ったなまえが空を見上げた時、不思議なものを見た。
「――え? ……鍋?」
「うん、私にもよくわからなかったんだけど……」
それから数日後、刻晴のもとに頭に大きなたんこぶを作ったなまえがやって来たのは月逐祭が終わった後だった。
「というか、なまえ。月逐祭もう終わったのだけど」
「……あは。私も刻晴に美味しいもの食べてもらおうと思って郊外に出たんだけど、迷っちゃった」
悪びれもなくいうなまえは方向音痴だ。
刻晴が今年の月逐祭の中心として動くと聞いた時、なまえは「じゃあ、刻晴の勇姿見に行くからね!」と嬉しそうに言っていた。
送仙儀式の時も、刻晴がはじめて帝君に直接対峙した迎仙儀式の時もなまえは見に来てくれた。
それなのに、今回は姿すら見かけなかったのだ。
刻晴自身も竈神の石のことでバタバタしてはいたが、料理大会でも姿を現さないなまえのことを密かに心配していた。
それなのに当の本人は頭に大きなたんこぶを作りながらもへらへらと呑気にしているではないか。
それでは流石の刻晴も心配し損かと思ってしまう。
「見に行けなくてごめんね。でも、美味しいものはちゃんと作ってきたよ!」
そう言ってなまえが差し出したのは見慣れぬ料理だった。
「これは……何かしら?」
「えっと、なんだったかなあ。私も言われるままに作って、そのお礼にもらったものだから」
「誰かの手伝いでもしていたの?」
「うん! なんかよくわからないけど喋る鳥さんの手伝い!」
「喋る……鳥? それってさっき話していたその空飛ぶ鍋の話と関係あるのかしら?」
刻晴の頭に何かが引っかかったような気がしたが思い当たるものは何も浮かばなかった。
鍋が空を飛ぶということは誰かが喧嘩か何かをしていたのだろうか。
「そうなんだよ! 道に迷ったー!って思って歩いてたら前から鍋が飛んできて」
「鍋が、飛んできた……?」
「そう! こーんなでっかい鍋が宙に浮いてたんだ!!」
なまえが自分の両腕をめいいっぱい伸ばしてその鍋の大きさを表しているが刻晴には言っている意味がよくわからなかった。
「それが、なんと! ひとりでに移動してて!! ぶつかったら中身が溢れちゃった……!」
「それで……その頭ってわけね。って、ちょっと待って。なまえ……君今ひとりでに鍋が移動してきたって言った……?」
刻晴はなまえがどうしてこんなに目立つたんこぶを作ってきたのか納得がいった。
しかし、よくよく聞けば鍋の謎が深まるばかりである。
鍋がひとりでに動くなどまったく想像していなかった。
それに鍋の大きさも想像以上に大きい。
刻晴は想像の斜め上をいく現実的ではない話に自身が持っていたなまえに対する不満も忘れて、なまえの話にのめり込む。
「そしたら、鳥が飛んできて……『何をしている!』って、喋ったんだよ!」
「……なんだか演劇みたいな話」
「私も実際に会ってなかったらそう思うよ……」
刻晴の素直な感想になまえは疲れたように答えた。
「それで、なんかその鳥さんが……というか、その鳥さんは仙人様だったんだけど……。料理を作るための材料を勝手に探しに行くっていう鍋だったみたいで……」
「ちょ、ちょっと待って」
「なあに?」
「その鳥の仙人って……まさか、」
「刻晴の知り合いなの? あ、そっか。刻晴、七星だったもんね……あの方なかなか楽しい仙人様だったよー」
「……楽しい?」
刻晴の頭にひとりの仙人の姿が思い浮かぶがなまえの感想とイメージがどうも合わない。
別の仙人なのだろうか。
「うん! そのあとー、仙人様と一緒にこぼれた材料の代わりを一緒に集めなおして、料理を作ったんだ!」
「それがこれってわけね」
刻晴はなまえに渡された手の中にある謎の料理を見つめた。
見た目は美味しそうではあるが、これが一体何なのか知りたい。
「そういえば、お手伝いの途中で旅人の空くんとパイモンちゃんっていう小さな精霊さんとも仲良くなったよ!」
「……彼らなら私も知っているわ」
「へー、刻晴の知り合いだったんだ。あの2人も息が合っていてとてもおもしろいよね」
まさか刻晴も空達を知っているとは思わず、感心するなまえに刻晴は再び頭を抱えた。
「ねえ、なまえ……君はちゃんと送仙儀式みていたわよね?」
「うん」
彼女の問いかけになまえは不思議そうに頷いた。
それを見て刻晴は頭が痛くなりそうだった。
「だったら、知ってるんじゃないの? 彼は私たち七星とそして、なまえが話したその仙人たちと一緒に魔神を退けたあの旅人よ」
「……?」
刻晴の言葉の意味を飲み込めずなまえは彼女を見つめたまま瞬きをひとつ。
ふたつ、……それから、大袈裟なほど目を見開いて刻晴を逆に驚かせた。
「……ええっ!? そ、そうなの?!」
「……。なぜかしら、なまえと話していると時々白昼夢でも見ているような気分になるわ」
初めて知ったと言わんばかりのなまえの驚きように刻晴はまたしても頭を抱えたくなった。
設定とあとがき