千金小姐のおやつ攻防戦
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・千金は正体を表さずの後日談
璃月の食といえば誰もがハマる美食である。
それはご飯類だけではなく菓子類も同じである。
だから、この幼女も大好きな母親の作るおやつをいつも楽しみにしていた。
それなのに今日はそのおやつが用意されていなかった。
それというのも昨日その幼女が父親との約束を破ったからである。
幼女の父親は約束を何よりも大切にする男であった。
今は往生堂の客卿をしているが、彼の本性を知っていれば誰もが納得するはずだ。
「うええええん!! おとーしゃまのばかあーー!!」
「はあ……、昨日お父様との約束破ったのは誰だ?」
えぐえぐと泣き喚く幼女を抱き上げてあやしながら鍾離はため息を吐いた。
抱き上げられた幼女は抵抗して胸の辺りをぽかぽかと彼にとっては弱く、幼女にとっては全力で叩いていた。
「だって、だってえ……うっ、うわあーん! おとーしゃまのばかあ~!」
幼女の小さな体では全力を出すことはすぐに疲れることである。
小さい体なので当然その体力も少ない。
すぐに疲れてしまった幼女は叩くのをやめて鍾離に縋りついてまた泣き出した。
そんな娘の姿に鍾離は背中を一定のリズムで叩きながらあやす。
手慣れたその所作は彼にとってそれは慣れたものであるからだ。
「……、公子殿と会う前にお父様と約束しただろう?」
「……」
鍾離の告げたその言葉は昨日の外出前に約束した話であった。
幼女はぐずぐずと泣きながらも顔を上げることなく小さく頷いた。
泣き濡れた顔を鍾離に押し付けたまま顔を上げないのはせめてもの反抗だと鍾離は知っていた。
「約束は守らなければならないとお父様はいつも言っている。そうだな?」
「……」
またもや小さく頷いた。
背中をトン、トンと叩くのを続けながら鍾離は小さな娘に懇々と言い聞かせる。
「約束は何よりも大切なものだ」
そこまで言うとようやく娘は顔を上げた。
涙で潤んだ瞳で父親を見つめながら、「大切」という言葉に反応を示した。
「たいせつ……? おとーしゃまのいちばんは……やくそく?」
自分のことよりもその約束が大切なのかと悲しそうな声で遠回しに聞いてきた娘に鍾離は少しだけ纏う空気を緩めた。
不安そうに揺れる瞳に鍾離は安心させるように頭を撫でる。
「そういうわけじゃないさ。お前のことはもちろん大切だが、だからこそ約束も守らなければならない」
約束と鍾離は話すがそれは彼が他者に言う契約と同じである。
まだ難しい言葉がわからない娘のために彼は約束というわかりやすい言葉を用いている。
「……むう、でもこーしどのは……おとーしゃまのこと、しってたもん……!」
「相手が知っていたとしても、言ってはならないことはあるんだ」
「むう、……わかんにゃい。こーしどのはおとーしゃまが、がんおーてーくんって、しってりゅよ!」
まだ幼く、理解も難しい娘に説明するのは簡単なことではない。
しかし、契約を破ることはやがて自分に返ってくることである。
それをまだ知らないからぶーぶーと頬を膨らませて拗ねている。
「約束を守ることはお前自身も守ることにつながる」
「??」
「……今はわからなくてもいいが、次からは気をつけるように」
「……ぶう」
そう言って、頬を膨らましたまま幼女は再び鍾離に抱きついて顔を押し付けた。
泣きぬれた顔を押しつけるので鍾離先生の自慢の一張羅の胸元は涙やらなんやらででぐちゃぐちゃに濡れている。
はじめて泣きつかれた時はその惨状に驚いたものだが今ではもう見慣れたものである。
だから、彼は気にすることなく幼女に問いかける。
「返事は?」
「……」
そんな娘に返事を促すけれど何も返答はない。
その頑固さは一体誰に似たのかと思いながら彼はため息を一つ。
そして、娘にとって一番効果のあるものを対価に返事をさせるという強硬手段に出た。
「返事をしないならこれからずっとおやつはないぞ」
「むう……、むむ、……。…………うー、……がんば、……る」
長い沈黙の後、むくれながらも同意した幼女はおとうしゃまのばか、と小さく言って鍾離に抱きついてまた顔を隠した。
何にせよ、頷いたら気をつけるという意思表示であることを知っている父親は娘を褒めるようにその小さな頭を撫でた。
それからしばらくして顔を上げた娘の涙を拭い、泣きぬれた顔を拭いてやり、そしてもう一度しっかりと抱きしめてなだめると落ち着きを見せた。
ようやく一息つけると鍾離が思ったちょうどその時、聞き慣れた声が玄関先から聞こえてきた。
「ただいま帰りました~」
聞き慣れた女の声が聞こえて父親に抱きついていた幼女は真っ先に反応を示した。
「おかーしゃま! おかーしゃまだ!! かえってきた!!」
大好きな母親の帰宅に幼女は父親の腕から脱出して、わーいと両手をあげると飛び跳ねるようにして、とてとてと玄関に向かって駆け出した。
その変わり身の速さに相変わらずだと呆れながら鍾離ものんびりと娘を追いかけることにした。
「おかーしゃま~~!」
「あらあら、元気ね~。ちゃんとお父様のいうことを聞いて良い子にしてた?」
「……うん! よいこにしてた!!」
たくさん泣いたせいで腫れて赤くなった目をそのままにいうものだから母親にはこの小さな娘がずっと父親に対してぐずぐず泣いていたことは容易に考えられた。
それでも気づかないふりをしながら後ろ手で隠していたそれを娘に見せた。
「ふふ……、そんな良い子にはご褒美があります! じゃーん! おいしいゼリーで~す!」
ゼリーの入っている紙袋のロゴは幼女が見慣れたものだった。
母親の手作りが一番好きだが、このゼリーも幼女のお気に入りだ。
大好きな母親と大好きなゼリー、その両方が一気にそばに現れて幼女の心は一気に上向きになった。
「わあ……! おかーしゃま、だいすきー!!」
そして楽しそうに笑う母親の足に抱きついて喜びの気持ちを表現した。
「ふふ……買ってくるようにおっしゃったのはお父様よ。晩御飯の後に食べましょうね」
「わーい! おとーしゃまもだいすきー!!」
母親の言葉を受けてそう言って飛び跳ねた幼女は後ろから悠然と歩いてきた父親に走り寄って抱きついた。
設定とあとがき
璃月の食といえば誰もがハマる美食である。
それはご飯類だけではなく菓子類も同じである。
だから、この幼女も大好きな母親の作るおやつをいつも楽しみにしていた。
それなのに今日はそのおやつが用意されていなかった。
それというのも昨日その幼女が父親との約束を破ったからである。
幼女の父親は約束を何よりも大切にする男であった。
今は往生堂の客卿をしているが、彼の本性を知っていれば誰もが納得するはずだ。
「うええええん!! おとーしゃまのばかあーー!!」
「はあ……、昨日お父様との約束破ったのは誰だ?」
えぐえぐと泣き喚く幼女を抱き上げてあやしながら鍾離はため息を吐いた。
抱き上げられた幼女は抵抗して胸の辺りをぽかぽかと彼にとっては弱く、幼女にとっては全力で叩いていた。
「だって、だってえ……うっ、うわあーん! おとーしゃまのばかあ~!」
幼女の小さな体では全力を出すことはすぐに疲れることである。
小さい体なので当然その体力も少ない。
すぐに疲れてしまった幼女は叩くのをやめて鍾離に縋りついてまた泣き出した。
そんな娘の姿に鍾離は背中を一定のリズムで叩きながらあやす。
手慣れたその所作は彼にとってそれは慣れたものであるからだ。
「……、公子殿と会う前にお父様と約束しただろう?」
「……」
鍾離の告げたその言葉は昨日の外出前に約束した話であった。
幼女はぐずぐずと泣きながらも顔を上げることなく小さく頷いた。
泣き濡れた顔を鍾離に押し付けたまま顔を上げないのはせめてもの反抗だと鍾離は知っていた。
「約束は守らなければならないとお父様はいつも言っている。そうだな?」
「……」
またもや小さく頷いた。
背中をトン、トンと叩くのを続けながら鍾離は小さな娘に懇々と言い聞かせる。
「約束は何よりも大切なものだ」
そこまで言うとようやく娘は顔を上げた。
涙で潤んだ瞳で父親を見つめながら、「大切」という言葉に反応を示した。
「たいせつ……? おとーしゃまのいちばんは……やくそく?」
自分のことよりもその約束が大切なのかと悲しそうな声で遠回しに聞いてきた娘に鍾離は少しだけ纏う空気を緩めた。
不安そうに揺れる瞳に鍾離は安心させるように頭を撫でる。
「そういうわけじゃないさ。お前のことはもちろん大切だが、だからこそ約束も守らなければならない」
約束と鍾離は話すがそれは彼が他者に言う契約と同じである。
まだ難しい言葉がわからない娘のために彼は約束というわかりやすい言葉を用いている。
「……むう、でもこーしどのは……おとーしゃまのこと、しってたもん……!」
「相手が知っていたとしても、言ってはならないことはあるんだ」
「むう、……わかんにゃい。こーしどのはおとーしゃまが、がんおーてーくんって、しってりゅよ!」
まだ幼く、理解も難しい娘に説明するのは簡単なことではない。
しかし、契約を破ることはやがて自分に返ってくることである。
それをまだ知らないからぶーぶーと頬を膨らませて拗ねている。
「約束を守ることはお前自身も守ることにつながる」
「??」
「……今はわからなくてもいいが、次からは気をつけるように」
「……ぶう」
そう言って、頬を膨らましたまま幼女は再び鍾離に抱きついて顔を押し付けた。
泣きぬれた顔を押しつけるので鍾離先生の自慢の一張羅の胸元は涙やらなんやらででぐちゃぐちゃに濡れている。
はじめて泣きつかれた時はその惨状に驚いたものだが今ではもう見慣れたものである。
だから、彼は気にすることなく幼女に問いかける。
「返事は?」
「……」
そんな娘に返事を促すけれど何も返答はない。
その頑固さは一体誰に似たのかと思いながら彼はため息を一つ。
そして、娘にとって一番効果のあるものを対価に返事をさせるという強硬手段に出た。
「返事をしないならこれからずっとおやつはないぞ」
「むう……、むむ、……。…………うー、……がんば、……る」
長い沈黙の後、むくれながらも同意した幼女はおとうしゃまのばか、と小さく言って鍾離に抱きついてまた顔を隠した。
何にせよ、頷いたら気をつけるという意思表示であることを知っている父親は娘を褒めるようにその小さな頭を撫でた。
それからしばらくして顔を上げた娘の涙を拭い、泣きぬれた顔を拭いてやり、そしてもう一度しっかりと抱きしめてなだめると落ち着きを見せた。
ようやく一息つけると鍾離が思ったちょうどその時、聞き慣れた声が玄関先から聞こえてきた。
「ただいま帰りました~」
聞き慣れた女の声が聞こえて父親に抱きついていた幼女は真っ先に反応を示した。
「おかーしゃま! おかーしゃまだ!! かえってきた!!」
大好きな母親の帰宅に幼女は父親の腕から脱出して、わーいと両手をあげると飛び跳ねるようにして、とてとてと玄関に向かって駆け出した。
その変わり身の速さに相変わらずだと呆れながら鍾離ものんびりと娘を追いかけることにした。
「おかーしゃま~~!」
「あらあら、元気ね~。ちゃんとお父様のいうことを聞いて良い子にしてた?」
「……うん! よいこにしてた!!」
たくさん泣いたせいで腫れて赤くなった目をそのままにいうものだから母親にはこの小さな娘がずっと父親に対してぐずぐず泣いていたことは容易に考えられた。
それでも気づかないふりをしながら後ろ手で隠していたそれを娘に見せた。
「ふふ……、そんな良い子にはご褒美があります! じゃーん! おいしいゼリーで~す!」
ゼリーの入っている紙袋のロゴは幼女が見慣れたものだった。
母親の手作りが一番好きだが、このゼリーも幼女のお気に入りだ。
大好きな母親と大好きなゼリー、その両方が一気にそばに現れて幼女の心は一気に上向きになった。
「わあ……! おかーしゃま、だいすきー!!」
そして楽しそうに笑う母親の足に抱きついて喜びの気持ちを表現した。
「ふふ……買ってくるようにおっしゃったのはお父様よ。晩御飯の後に食べましょうね」
「わーい! おとーしゃまもだいすきー!!」
母親の言葉を受けてそう言って飛び跳ねた幼女は後ろから悠然と歩いてきた父親に走り寄って抱きついた。
設定とあとがき