もちもち団子は口の中
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「は? 団子、……牛乳?」
「ええ、なまえは飲んだことがありますか?」
「……いや、飲む飲まない以前にそんなもの初めて聞いたけど」
何だそれと言いたげななまえのわかりやすい表情を見て影は目を見開いた。
「それはいけません。ちょうど将軍の体もあいていることですし、早速行きましょう!」
「え、……嫌なんだけど」
なまえににべもなく否定された影はショックを受けた。
しかし、なまえに否定されたからと言って彼女に団子牛乳のすばらしさを伝えることを諦める影ではない。
「なぜですか? あのように美味しいものは一度味わっておくべきです」
「だって、今は三色団子の気分なんだ。ていうか、串団子食べたい」
団子牛乳とかいうものがどう言ったものかは知らないが、なまえはあの美味しそうで楽しくなる色合いの三色団子が食べたいのだ。
色もかわいいし、味も美味しいから、とにかくたくさん食べたい気分である。
「三色団子ですか……」
なまえに提案された影はお皿に3つ積まれた光景が脳裏によぎる。
たしかにとても美味しそうだ。
お汁粉に、ぜんざい……緋櫻餅に水まんじゅう。
最中に葛湯も良いなあなどと隣で甘味ばかり口に出すなまえに影も大好きな甘味を思い描いた。
「そうですね。三色団子も良いですね……」
なまえの提案に影も頷いた。
そして、結局なまえの提案が採用されたのだった。
――
なまえがおすすめだと言う茶屋に連れてこられた影は目の前に置かれた皿の上にのせられた団子を見て首を傾げた。
「……? これは、三色団子ではありませんね」
あの雷電将軍が注文すると、店員さんが緊張の極みで死んじゃうかもーなどとなまえが言うので注文を任せたのだが、運ばれた団子は想像した三色団子ではなかった。
少し焦げ目のついた白い団子にたっぷりとかけられた茶透明のタレは食欲をそそる以外何物でもない。
そのタレの美味しさを知っていたら尚更である。
「うん、みたらし団子」
「三色団子を食べるのではなかったのですか?」
「ここのみたらしも美味しいんだよー」
平然とみたらし団子であると答えたなまえ。
そして、串にを一つとるとなまえは影に向かってにっこりと笑った。
「ほらほら、ショーグン。ぐだぐだ言ってないで食べてみてよ」
「んぐっ!?」
そういうとなまえは影の口にみたらし団子を突っ込んだ。
遠目で見ていた店員から小さく悲鳴があがる。
稲妻の民にとって、雷電将軍といえば無想の一太刀である。
そして、鎖国と目狩り令も。
雷電将軍の機嫌一つですべてが変わるのだ。
だから、店員はなまえの行った将軍の口に無遠慮に団子を突っ込むなどという不敬を見て、気が遠くなりそうだった。
機嫌を損ねるのではないかと暖簾の向こうで店の崩壊を危惧する。
そんなふうにハラハラと状況を見守っていたが、特に何もおこることはなかった。
「……?」
それどころか、あの雷電将軍が不躾に口に団子を突っ込まれたと言うのにまったくの無表情でもぐもぐと串を握ってその団子を味わっていた。
「……久しぶりに食べますが、やはりおいしいですね」
「でしょー!!」
なんだか話が盛り上がっているようにその店員には見えた。
店員は団子を突っ込んだなまえの正体が気になると同時に、将軍はもしかしたら優しい御方なのかもしれないと密かに思った。
――
もう何度目だろうかなまえの声が店内に響くのは。
聞こえてきた声に店員はまだ食べるのかと内心驚きながら返事をする。
「お姉さーん! 三色団子追加ー!!」
「なまえ……、さすがに食べすぎではありませんか?」
積み上げられた器に影はさすがに引いた。
影も甘味は好物であるが、なまえの食べっぷりをみると自分はまだまだだなと思う。
虫歯になれば歯を取り換えればいいが、なまえに付き合っていれば内臓までとりかえることになりそうである。
「いやあ……久々に影と外に出られたからつい……。あのキツネちゃんもいたら良かったんだけど……」
「八重神子ですか……。まあ、彼女は鳴神神社と八重堂で忙しくしていると言っていましたからね……。たしか、何とかというコンテスト?があると言っていました」
なまえの呼んだキツネちゃんに反応して影はこの間久しぶりにあった八重神子の言葉を思い出した。
知らぬ間に八重堂というものを立ち上げて人間たちに娯楽を提供していることを知った。
「ああ……、あれでしょ? 『この小説はすごい』。私は活字にはあまり興味ないしなあ。影は読んだことある?」
「はい、以前に一度……何かよくわからない『設定』とやらの話を読みました。たしか、題名は……『転生ヒルチャール夕暮れの実を食べ続けたら最強になった件について』だったと思います」
「……? ヒルチャールが夕暮れの実を? ふーん、変なの。人間って変な話よく思いつくよねー」
長すぎる題名になまえは覚えきれなかった。
けれど、その題名はなんだかあらすじのようだと思った。
変な題名に影の話を聞いてなまえはケラケラと笑った。
そして、さきほど店員が運んできた新しい団子をひとつ手に取った。
「そういえば、びっくりしたんじゃない? 引きこもり終えて」
それこそ何か物語にできそうだよねー、などと団子を片手に呑気に影本人に話すのはなまえだけかもしれない。
「影の話もあったりしてねー」
「私の話があれば読んでみたい気もします。この国の人々に私……いえ、将軍がどのように写っているのか知りたいですね」
そんな風に話すけれど、雷電将軍に成り代わった話を例の旅人とその小さな仲間が隠していたなどとは彼女らは想像にすらしていなかった。
「ともかく、影はどう思ったかわからないけれど、私はまた影に会えて嬉しいよ。キツネちゃんだって、あれでいて影を心配していたんだから本当に良かった」
「先程から思っていたのですが、その呼び名で神子は怒りませんか?」
「怒る? そんなことでキツネちゃんは怒らないよ」
なまえの言葉にたしかにあの神子なら笑いはするけど怒ることはないかと思った。
「以前はそのように呼んでいませんでしたよね?」
「うん、だって前はキツネちゃんがいっぱいいたから。キツネちゃんって呼んだら皆集まってきて大変なんだよ~!」
以前、雷神バアルの眷属には狐族の白辰の血をひく娘がいた。
狐斎宮と呼ばれていたその狐族の娘は雷神のもとで稲妻の平和を願い、守り、その祈りを全うした。
「あの子も弟子を使って私を囲むなんてひどいよー!」
なまえは以前、キツネちゃんと呼んだ日のことを思い出した。
キツネちゃんと呼んだら狐斎宮をはじめとして、その弟子達にも「なんじゃなんじゃ」と囲まれたことを思い出す。
そうやって揶揄われた日も今では懐かしい思い出だ。
しかし、影には「あんなもふもふに囲まれたらかわいすぎてぶっ倒れる~!」などと叫ぶなまえの言葉の意味はよくわからなかった。
そして気になった。
だから尋ねてみることにした。
「かわいすぎて……倒れる……? 『かわいすぎて』とは一体どのような攻撃なのですか?」
あの狐斎宮があなたに危害を加えるとは思えませんが、と続いた言葉になまえは居た堪れなくなった。
「うっ!……ごめん。比喩だから……」
なぜかそちらに食いついてきた影の真面目な視線を受けて、冗談の類が引きこもりのせいで通じていないと知ったなまえは目を逸らしつつも素直に謝る。
そこでなまえは改めて影が引きこもりだった事を本当の意味で認識したのであった。
「……それにしても、なまえは彼らの事を普通に話すのですね」
影は突然ぽつりとそれだけを言った。
そんな彼女になまえは素直に頷いてその理由を話す。
「だって、私には忘れずに話すことしかあの人たちに対してできることはないから」
死んだ彼らを祀ることをなまえはしない。
それをするのにふさわしい人が他にいたから。
だから、なまえができることは忘れないことの一点のみだった。
「たとえ、あの人たちがどんな結末を迎えたとしても皆違わず私の友だから」
「……なまえ」
なまえの言葉はどんな時もまっすぐで眞のように今しか見ていないその素直さが影には眩しかった。
影はいつも不確定な先の未来を描かずにはいられなかったから。
だから、肉体を捨てることになったのだ。
過去を嘆き心をすり減らして、不動の永遠を望んだ。
けれど、いくら将軍が望もうとも稲妻の民は変わっていた。
不変ではいられなかった。
それを先の旅人の少年との短い旅で学んだ。
「だから、私はいつか眞のことも影と話せたらいいと思う」
「……私は」
「いいの、影。話さなくていいよ。これはあくまでも私の考えだから」
なまえは影に押し付ける気はなかった。
けれど知っていてほしかった。
――将軍様は実に矛盾したお方だ
狐斎宮がかつて言っていた。
人に理解されようと思わない、と。
けれど、なまえは眞の代わりに雷電将軍にならざるを得なかった影の努力が正しく伝わればいいなと思った。
それは絶対に知られることではないし、誰もが望むことではないけれど、なまえはずっとそう願っている。
設定とあとがき