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嵐の中、押し寄せる波が璃月港に迫る。魔神の圧倒的な力は力のない凡人達に害を成す。そのために璃月港にいる人々が避難し、閑散とした璃月港の埠頭。その場所でなまえは1人平然と荒れ狂う海を眺めていた。嵐が渦巻く中でも傘の一つもさしていないのになまえの体は一粒の水滴もついていない。風だけが彼女の体に打ち付け、髪や服を揺らす。
「なまえ」
鍾離が彼女を見つけた時、なまえは鍾離の方へ振り向くわけでもなく、ただ海の向こうの魔神の姿を見ていた。
「ファデュイは魔神を復活させる方法を生み出していたのですね」
なまえが孤雲閣の上空に現れた渦の魔神を見つめながらぽつりと呟いた。彼女の後ろまで来た鍾離が言葉を返す。
「そのようだな。想定外ではあるが、これはむしろ見極める材料としては最適だろう」
「……そうですね。ですがオセルを召喚するとはファデュイもなかなか良い魔神を選びますね」
「魔神を選んで復活できるかどうかは疑問だが、海と渦は切っても切り離せないものだからこの選択は悪くないだろうな」
なまえの言葉に鍾離は頷いた。鍾離の思惑とファデュイの思惑が一致したわけではないが、それでも凡人がどこまでできるのかを測るには最適なものだ。
「これだけの嵐を呼び込むとはまだまだ渦の魔神の力は健在のようですね」
「ああ。だが危険なことには変わりない。なまえ、あまり前に出すぎないように」
荒波が打ちつけて、なまえの華奢な体を連れ去りそうに感じた鍾離は思わずそう言った。彼女の能力を考えるとそれはありえないということはわかっていた。だが鍾離は言わずにはいられなかった。たとえなまえの機嫌を損ねることになっても。
「旦那様。……旦那様は渦の魔神如き力で私がどうなるとでも?」
「いや、そうは思わない。だが……」
鍾離の言葉にムッとしたなまえはようやく彼の方を見た。やはり不満そうな顔をしていた彼女とようやく目が合った鍾離は苦笑する。そんな鍾離の答えになまえは決まりの悪そうな顔を見せた。鍾離がただなまえを心配しての言葉だと分かったから。そしてずぶ濡れの鍾離の姿も認めて申し訳なさそうにおずおずと手を差し出してきた。
「すみません。口が過ぎました。……旦那様、御手を」
差し出された手を鍾離は掴む。そしてなまえを自分のそばに引き寄せた。なまえもされるがままに近くに寄って彼の手を握り返す。
「……濡れてしまいましたね。もっと早く旦那様のそばに行けば良かったのに申し訳ありません」
「かまわない。凡人になると決めたのだから、多少濡れたってかまわないさ」
「ふふっ、それならもう少し濡れますか?」
なまえは持っていた手巾で鍾離の顔を拭いた。ぽたぽたと髪から雫が伝う。水滴が手巾を濡らしていく。
「思ってもいないことを言うものではないぞ」
「ふふ、ごめんなさい」
手を繋いで寄り添ったまま2人は並んで空を見上げる。渦の魔神の力の影響で空が暗い。雨はまだ降り続いているがもう2人が濡れることはない。上空の群玉閣では仙人達が帰終機のようだが、どこか見慣れぬ機械に乗り込み迎撃しているのが見える。あれはおそらく留雲真君が作ったものだろう。詳細はまた後で聞けば良い。
「凡人達はここを乗り越えられるのでしょうか」
「どうだろうな。だがこれを乗り越えなければ人の時代は来ない」
今はまだ一応は神の手にある璃月がこれから凡人達の手に委ねることができるのか。鍾離は彼らを試しているのだ。なまえはちらりと鍾離をみたが彼は静かに戦いを見ていた。なまえもまた戦いの行方を見守るために目線を戻す。やがて群玉閣が移動を始めた。璃月港上空から孤雲閣の方角へ向かっていく。
「旦那様……凝光は群玉閣を落とす決断をしたのでしょうか」
「そのようだな」
「彼女はしっかりと自分の天秤を持っているのですね」
昔のあの凝光の姿を知っているだけになまえは彼女のことを思った。この決断は彼女の中でどれほど葛藤があったのだろうかと思いを馳せた。しかしそんなことを考えても仕方のないことである。どうであろうと彼女の群玉閣はなくなるのだから。孤雲閣に迫る凝光の至宝を見ながらなまえはオセルについて考えを切り替える。
「これで渦の魔神はまた孤雲閣に戻らざるを得ませんね」
「それがあの魔神の宿命だろう。……何にせよ決着はついた」
群玉閣を落とすことで渦の魔神を封印するのだろう。仙人達の攻撃で弱ったオセルならその衝撃で問題なく封印されるはずだ。
「群玉閣が落ちたらおそらくここに仙人達も来るだろうな。今、旅人達に正体を知られるわけにはいかない。離れよう」
「はい、旦那様」
2人は少し弱くなった暴風雨の中、誰もいない道を歩き出した。
――そして閃光が辺りを包む。群玉閣が落ちたのだ。群玉閣が落ちた衝撃の余波は2人の元まで届く。その爆風でよろけるなまえを支えながら鍾離は神の時代の終わりを感じた。しばらくして日の光が雲間から射し込んで強風が止みはじめる。渦の魔神は再び孤雲閣の下で眠りにつく。海の方から旅人をはじめとする仙人や凡人達が戻ってくる複数の気配を感じたがもう気にすることはなかった。
「旦那様……晴れましたね」
力を解除したなまえが空を見上げる。
「(これで、氷神との契約は履行できそうだ)」
鍾離は自分に向かって嬉しそうに笑いかけるなまえの肩を抱く。雨に濡れたはずの鍾離の服はもうすっかり乾いていた。
設定
なまえ
鍾離の嫁。この時点では旅人とも公子とも面識はない。旅人とはこの後の送仙儀式で会う予定。水を操る力を持っているために濡れることがなかった。風は操れないからバシバシ煽られてよろけたりしてた。けど旦那様が支えてくれるからひと安心。
鍾離
往生堂でいろいろ片付けた後、魔神の封印が解かれた。胡桃にこっちは大丈夫だから嫁の安否確認して来いと言われて有り難く探しにきた。水は操れないから濡れた。そのまま嫁発見。だけどなまえにくっついてたら濡れないし水飛ばしてくれるし風の力も相まってオセルが封印される頃には服も乾いた。風邪はひかないと思う。