仲良し友達は花である
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「こ、こんなこと……誰も……っ、望まないよっ!」
「いいえ、なまえ。そのように……自分を卑下しないで」
ボロボロと零れ落ちる涙をぬぐいながらそう言ったけれど、背を向ける彼女は間髪入れずに否定した。
自分は弱いからと言っていたはずの彼女に私は守られた。
「もう、目の前で……友を失うわけにはいきま、せんから。それに、誰も望まないことはありえませんよ、なまえ。私が……望んであなたを助けたのだから」
「でも、こんな……わたしなんかより、あなたが……! 眞が生きたほうが、影も……、民も喜ぶよ……っ!」
どうしてとしか言えずに泣くばかりの私をかばった眞から落ちる血の量は魔神でも助かるはずがないほどにあふれていた。
とうとう立っていられなくなった眞を支えて止血を試みるけれど、ぼやける視界に混乱した頭では大した治療ができるはずもなく、圧迫しても血が止まらない。
眞だけではなく私も血まみれになる中、その場にいるはずのない影が姿をあらわした。
「なまえ……これは、……っ!」
「影……! 血が、ちが……とまらないの……えい……どうしよう……わたし、わたし……」
惨状を理解して影が息を飲んだ。
姉の危機に動揺していないはずがないのに、影は私よりもずっと冷静でいて動揺する私を落ち着かせながら影は眞の手当てを試みる。
それから私達はいろいろ手を尽くしたけれど、結局何もできなかった。
そして私と影が見守るなか、眞は死んだ。
守るべきなのに守られて生き残った私を影が責めることはなかった。
2人とも私にとって大切で優しい残された数少ない友だった。
それなのに私はそのことに耐えられなくなって、影を避けた。
本当はそうするべきではなかった。
雷神バアルの残された唯一の眷属として、新しい雷神として表舞台に立たざるを得なかった影の力にならなければならなかった。
けれど、私の心は傷ついていた。
大好きだった多くの友を失って、慕っていた
だから、私は気づかなかった。
私以上に影の心が傷ついていたことに。
友を失い、半身である姉を失った影。
そして、私までも影のそばを離れたせいで影の心はもうどうしようもないほど疲弊していた。
だから、影は動かぬ時を永遠と定めて望んでしまった。
――
それから何年も経った後のこと、傷が癒え始めてようやく影のことを考える余裕ができた私は後ろめたさを感じながらも彼女に会いに行った。
けれど、私の前に現れたのは影と眞に似た影ではない「何か」であった。
呆然とする私にその何かは無感動に淡々と言葉を紡いだ。
「あなたは……なまえ、ですね。はじめまして。雷電将軍です」
「……、え?」
「私がするべきことは彼女に変わって雷電将軍としての務めを果たすことです。あなたが会いに来たら事情を説明するように教えられています」
戸惑う私を気にした様子もなく、その何かは自らを雷電将軍だと嘯いた。
「しかし、私はこれから三奉行との会議があり、将軍としての務めを果たさなければなりません。ですので、鳴神大社の宮司である八重神子を訪ねてください。彼女なら全てを話してくれるでしょう」
自称雷電将軍だというその何かはそう話したあと失礼しますと一言言って足早に立ち去ってしまった。
「八重……神子?」
呆然としながら、言われた名前を呟いた。
天守閣に1人残された私。
あの自称雷電将軍は三奉行と会議だと言っていたが、それなら影は……。
いや、待って。
そもそも八重神子って誰?
鳴神大社の宮司と言っていたが、あの鳴神大社の宮司がどこの誰かもわからぬ馬の骨なはずはないし……。
初対面の人間が私に雷電将軍の事情を話すとはとても思えない。
何度も名前を呟き思い出そうとするがやっぱりそんな名前は聞いたこともない。
一体誰だと思いながら私は混乱したままふらふらと鳴神大社へと向かった。
鳴神大社についた。
謎の鳴神大社の宮司に会うためにやって来たけれど、緊張していた。
初対面の人間に雷電将軍について教えてほしいなんて言って教えてもらえるものなのか。
不敬罪で捕まったりしないよね……?
ドキドキしながらも、そばに立っていた巫女さんに八重宮司の場所を聞くと逆に名前を聞かれた。
それからしばらく待っていると大社内の一室に通される。
「おおっ! 名前を聞いたときはまさかかとは思うたが、本当に汝じゃったか!! 久しぶりじゃなあ!!」
「えっ、誰……!?」
そして今、桃色の髪の女の人に馴れ馴れしく抱きつかれていた。
けれど、交友関係の狭い私にはまったく見覚えのない人物だった。
されるがままの私を不審に思ったのか、その人は首を傾げた。
「なんじゃ……? もしかして、なまえは妾のことを覚えておらぬのか? 前はあんなに妾のことをなでなでしてかわいがって抱きしめてくれたのにのお~」
しかし、それも束の間のことでその人は「ずっと妾がなまえをなでなでしたかったんじゃ~」などと言いながら、また抱きつき嬉しそうに頬ずりされて頭を撫でられた。
けれどやっぱり知らない。
こんな人撫でたこともないし、ましてや抱きついたことだって、ない。
見覚えのない証言に誰かと勘違いをしているのではないかとさえ思った。
ていうか、頬が痛いぐらいすりすりされてるんだけど……この人、頬擦り初めてなの?
「??」
「ほれほれ、思い出さぬのか? ……仕方のないやつじゃな。なまえは相変わらずじゃ……」
初対面にしては過剰すぎる触れ合いに私はもはや為すがままだった。
そんな私の態度に呆れたように溜め息をつかれてしまった。
というか、名前を呼ばれた。
ということはやはり知り合い……?
「仕方ないのお。ほれ、妾のこの柔らかな耳を見よ」
「……耳?」
ようやく離れてくれて、彼女が指を指し示した狐っぽい耳が桃色の髪の中に見えた。
ん? 狐……?
桃色の毛並みの狐……。
なんか覚えがあるぞ。
私の短い交友リストを脳内で照らしあわせる。
……いた。
あの子だ。
あの狐斎宮の可愛がってた……。
「あっ! えっ、まさかあなた……」
「やあっと思い出したのか」
「だって、あなた……えっ?」
私の記憶の中にある姿と今の彼女の姿は違いすぎた。
誰だこれというほど違う。
動揺する私のおでこを小突いて彼女は笑う。
「ばかもの。あれから何年経ったと思っておるんじゃ。妾とて成長しておるからの。この姿に化けることなぞ造作もないわ」
えっへんというように胸を張った彼女をみてどれほど月日が経ったのか実感させられた。
「ほれほれ、なまえもあの時のように妾のことをたくさん抱きしめても良いのじゃぞ?」
にやにやと笑いながら腕を広げて彼女は私に言うけれどあれはあの小さくて可愛い姿だったからしていたのだ。
「そ、そんなことできるわけないでしょ!!」
「そうじゃろうな……こんなに成長してしまった妾では可愛くないからのう……」
私が叫ぶように否定すると彼女はすぐさま落ち込んだように見せた。
「わかっておる……。妾はなまえのことは大好きじゃが……なまえは……妾のことなんて忘れてしまう程度の存在じゃからな……」
そして、しくしくと両手の裾を上手に使い、目元を隠して泣き真似をしていた。
あきらかに演技なのに私は焦った。
「えっ! ちが……っ」
「……じゃあ、抱きしめてくれるのか?」
袖で目元を隠したまま八重神子は私をそっと見ていた。
演技なのは知っていた。
知っていたけれど、私は……。
「……」
なんだかうまく丸め込まれて、結局彼女を抱きしめる羽目になってしまった。
設定とあとがき