彼女のことは何も知らない
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「よく眩しそうにしてるから用意したんだ」
「……」
そう言われて差し出された何の変哲もない笠。目の前の人間に差し出された笠を受け取った。本当はこんな人間の言うことをきくなんてしたくなかったけれど、その時の僕は捨てられたばかりの何も知らない生まれたての無知だったから。そもそも捨てられた事実さえ知らずにいたんだけれど。
「頭にかぶるんだよ。ほら、こうやって」
今でこそ笠が何かはわかるけれどその時は初めて見るそれが何かなんてわかるはずもなく、その人間がその笠を僕の頭にのせて初めてその使い方を理解した。
「うん、とっても似合うわ」
その人間は僕に笠をかぶせて一度頷いてから目を細めた。それが笑顔だというものだとはまだ知らなかった。
「雨も凌げるし、顔を隠すときとかにも役に立つからね」
良かったら使ってねとそんなふうに僕に話していた。その人間がくれた笠はずっと使っているのになかなか壊れる気配を見せない不思議なほど丈夫な笠だった。
「今はわからないことが多くても大丈夫。簡単なことから少しずつ覚えていこうね」
そう言って、その人間は口の端を上げた。その表情は何というのかはわからなかった。けれどその人間の顔を見ていると僕はなんだか少しむず痒く、そしてそわそわと落ち着かなくなってしまった。
「私はあなたのことをずっと見ていられないけれど、あなたが1人で生きていけるまでそばにいる」
ある時、その人間は僕にそんな話をした。そう話したその人間は約束通り、長い間そばにいた。水泡が浮かぶ不思議な島で真珠をとったり、蛇神が眠ると言う地を歩き、その伝説を話してくれたり、各地にある神社でお参りしたり……。その人間とは一緒に稲妻の地を旅した。やけに物知りで人間のくせに昔の話もよく知っているようだった。それがどう言った理由なのか僕には分からなかったけれど、案外興味深い話も多かった。