君の知らない俗世の凡人のこと
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「なにこれ」
久しぶりに友人の家に来た私が放った一言がこれだった。
今日は友人が息抜きに買い物がしたいと言っていたので待ち合わせの場所で待っていた。
けれど彼女は時間が過ぎても来なかった。
たまにそういうことはあった。
大抵急ぎの仕事が入ったとかそんなところだ。
だから私は焦ることもなく、友人の家の門を叩いた。
いつもならすんなりと通してくれるのに、今日はやたらと彼女は渋っていた。
しびれを切らした私は待たせるなら座らせろと強引に部屋に押し入った。
久々に入った彼女の部屋を見て真っ先に出たのが冒頭の発言である。
「……べ、べつに変なことなんてないでしょ」
「いや、変だろ」
見られているのになお隠そうとする友人に対して、思わず言葉が出た。
動揺しているのが丸わかりのその発言には何ら説得力はない。
そしてちょっと私の口が悪い気もするが気のせいである。
「……う、」
「……」
私の言葉に顔を真っ赤にさせながら必死に誤魔化そうとする友人はなんというか……まあアレである。
ごまかせてない。
私の咄嗟に出た彼女に対する言葉も彼女を追い詰めたようだ。
気まずそうに言葉を飲み込む友人をジト目で見つめる。
ますます肩身が狭そうになる彼女の姿にいつもの自信はどこにいってしまったのか聞きたくなる。
「……刻晴」
「な、なにかしら……」
「あんなに帝君のこと目の敵にしてたのにどうしちゃったの?」
警戒する刻晴の姿を見て、そんな応酬が不毛だと思った私は遠回しに聞くことをやめた。
首振り帝君人形に帝君模様の凧などなど……私の後ろにある棚に丁寧に飾られた帝君グッズを指差す。
前までは彼女の部屋になかったもの達だ。
「ち、違うわ! これは……その、……そう! 自分を律するために買ったのよ! 帝君がいなくなった今、これから様々な変化があるはずだから!」
「……ふーん」
「う、嘘じゃないわよ! それに私は別に帝君のことを嫌ってなんか……」
この間の一件、つまり今年の迎仙儀式から起こったあの一連の事件だ。
孤雲閣に封印されてたという伝説の魔神が召喚されて討伐された。
文字にすれば一瞬だけど、かの魔神が人々に与えた恐怖は計りしれない。
けれど、璃月七星の天権様の所有する群玉閣を落とすことで、かの魔神は再び眠りつくことになった。
そして多くの璃月人の心の拠り所であった岩王帝君が天に還られた。
魔神の復活よりも天権様の群玉閣がなくなったことよりも一番私達に衝撃を与えたのはそれだ。
なにせこの璃月はずっと神がいた国だ。
建国からもう千年以上の歴史があるが我らが岩王帝君はずっと璃月を見守っていてくださったのだから。
「……何かあったの?」
「……」
刻晴は何も答えなかった。
しかし、私がじっと見ていると気まずくなったのかそっぽを向いて一言だけ呟いた。
「……た、たしかに岩王帝君は素晴らしいと思うけど、もう璃月は帝君のものではないんだから」
本当に何かあったらしい。
前までは帝君のことを素晴らしいなんてお世辞でも言わなかったのに……。
というか、私からしてみれば刻晴はすごくわかりやすい人間だ。
璃月七星という座についているだけあって、その才能は説明するまでもなくすごいし、努力もするしっかりとした人間である。
だからこそ、神の統治に疑問を持ってそれを帝君本人の前で口にした。
その時の迎仙儀式は私も見ていた。
だって、友人の初めての七星としての迎仙儀式だったから見に行かない理由がない。
いつも余裕ある表情を崩さない天権様のあの驚いた顔は一生忘れないと思う。
そんなことを思い返していたら、沈黙に耐えかねたのか刻晴がおもむろに口を開く。
そしてぽつり、ぽつりとその本心をようやく口にしてくれた。
「……、本当のことを言うわ。……私、本当はいろいろやりたかったの。帝君の手から璃月が離れたから七星として頑張らなきゃって」
「うん」
「本当にいろいろ考えてたのよ。商業地の整備とか、遺跡の観光地化とか……やりたいことがいっぱいあったの」
刻晴はそこまで言って疲れたように息を吐いた。
彼女が私にここまで仕事の話をしてくるのはとても珍しい。
本当に参っているようだ。
「――でも、まだなにもできていない」
刻晴は自信家だ。
それは彼女が努力してきたという結果からくるものであるし、その才能を否定することはない。
それに見合う実力がもあるとの自負もある。
それは神の目に選ばれたことや、璃月七星の1人であることといった彼女の実力を裏付けるものがあるからだ。
私は商人でもなければ名家の出身でもない。
平凡な人間であり、岩王帝君を敬愛してる一般的な璃月人でただの刻晴の友達だ。
だからこそ、私は客観的に見ることができる。
刻晴は決して平凡な人間の視点に立てない。
彼女が市井の調査をしていることは知っている。
身分を隠し、質素な服を着て、誰にも気づかれることなく平凡な璃月の一市民として動くことができることも私は知っている。
けれど、彼女には欠けているものがある。
考え方の根本が違うのだから仕方ない。
全ての人間が彼女のように努力し続けられる人間ではない。
だから、刻晴は平凡な人間の立場にはなれない。
「帝君ならきっともう全てを整えているわ」
刻晴は凡庸な人間ではない。
彼女は諦めない。
諦めないからこそ七星になった。
諦めないからこそ才能を磨かせることができた。
それはすべての人ができることではない。
それを彼女は知らない。
「その時おもったの。帝君ならどんなことを考えているのかしら、って。そうしたら帝君の御心を知りたくなって……だから、私……いま勉強しなおしているの」
そんな刻晴が挫折を知った。
「私、自惚れていたのかもしれない」
彼女が疑問を抱いた帝君の存在が、彼の功績が、彼女をただの人間であるという事実を真っ向から突きつけたのだ。
だけど、私は知っている。
刻晴なら大丈夫だということも。
刻晴は刻晴自身のためにもこの挫折を味わうべきだったと思っている。
刻晴ならばいつか彼女自身が望むような璃月を作れるはずだと私は信じている。
設定とあとがき