私はあなたを知らないけれど
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「――いや、それじゃあ私が望んでいるみたいじゃない!!」
がばっ!という擬音を当てても問題はないような勢いで私は起き上がった。
起き上がるという行動をしたことに気づいて私は首を傾げた。
起き上がって目に着いたのは見覚えのある扉。
白い壁紙に調度品の置かれていない質素な部屋。
「……あれ?」
見覚えのある室内に首を傾げていると静かな部屋に小さく笑い声が聞こえてきた。
そちらに顔を向けると私の寝ていた寝台の横に置かれている椅子に座った鍾離さんがこちらを見ていた。
「……それほど大きな声も出せるんだな」
「鍾離さん!?」
先程の夢と同じように鍾離さんがいた。
現実か夢か分からなくなった私は前に誰かから聞いたように自分のほっぺを両手で勢いよく叩いた。
「……いたい」
「それは、そうだろうな」
ばちん、と思ったよりも大きな音が響き渡る。
熱を持ち赤くなっているほっぺを押さえた私が素直に感情を言葉にすると、なんとも言えない顔をした鍾離さんが静かに同意してくれた。
「夢じゃ、ない……?」
「夢? 夢とは、」
私の呟いた言葉に鍾離さんが何かを言おうとした時、勢いよく扉が開いた。
「大きな音がしたけど、何かあったのかい!?」
そうして聞こえた声も、扉の向こうから現れたそのご婦人の姿も先程夢で見た通りの姿形であった。
夢で見た場所。
同じ位置に座る鍾離さん。
家人のご婦人。
私には同じように見えた。
ということは、つまりアレだ。
そう、私が先程夢だと思って見ていたものは、ただの夢じゃなかったということだ。
つまり、……うん。
間違いない。
「――私、予知夢が見られるのか」
なんということだ。
私にそんな才能があったとは気づかなかった。
長いこと生きていると思ったけれど私にはこんな秘めた力があったなんて……。
でも、話している言葉は違うから半分しか当たってないということになる。
つまり、まだまだ精度は低そうだ。
煙緋に自慢しようかと思ったけどやめておこう。
そんな感じで私が考えに没頭しているときにその横で
「……あんたの奥さんまだ寝ぼけてるのかい?」
「いや、先ほども説明したがまだ妻ではないんだが」
「まだってことはこれから奥さんになるってことだろ?」
などど鍾離さんがご婦人の勢いに押されていることには全く気づかなかった。
そして私が夢だと思っていたものは現実で、予知夢だと勘違いしていたこともまた気づくことはなかった。
その後、当然のことではあるが私は目覚めたはずの新たな才能を伸ばすことはできなかった。
そして(自称)予知夢を見たのもこれっきりでこの先、二度と見ることはない。
さらに鍾離さんを帝君の側近だと思い込んだまま私は現在、鍾離さんと共に璃月港に住んでいる。
引越しの際、会いにいったお父様がなぜか動揺して友達だと言っていた鍾離さんを様付けで呼ぶというよくわからないこともあったが、それはまた別の話である。
そして私が鍾離さんの本当の姿を知るのも、もう少し後のことである。
今はまだ鍾離さんを帝君の側近だと信じて疑わずにただ彼の帰りを待つなんの取り柄もないちっぽけな仙人の1人なのだ。
これでは煙緋に新しい才能のことは話すことはできなさそうだ。
そう気づいて私は人知れずため息をついた。
設定とあとがき