ただ並んで歩いてみたいだけ(Xiao)
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「Dada ika!」
「Dada!」「Dada!」
「……、なまえ……立てるか?」
魈は叫ぶヒルチャール達に睨みをきかせたまま私にそう問いかけた。座り込んでいる私は、否定することなんてできない。足手纏いになるわけにはいかない。立ち上がれると自分に言い聞かせながら、彼に向かって立てると答えた。
「なまえ、奴らを追い払ったら我に捕まれ」
「……わかった」
本当は迷惑をかけたくないけれど、ここで拒否する方が彼の迷惑になることはわかっていた。だから私は魈の言うことに頷いて、彼の言う通り震える足になんとか力をこめて立ち上がった。それからヒルチャールを追い払って距離をとらせて振り向いた彼に迷うことなく抱き着く。同時に魈も私の腰にそっと手をまわして支えてくれた。触れると彼の業を感じて目の前がぐらぐらと揺れた。
――気持ち悪い
そう思ったけれど、私は込み上げる不快な感情を見ぬふりをしてまわした腕に力をこめる。すぐさま彼は私と共にヒルチャールの群れから離れた茂みの中まで移動して私を下ろすといつものように言い聞かせた。支えを失った私はその場に座り込んだ。そんな私を気にしながらも彼には自分の為すべきことがある。へたり込む私の様子に一瞬だけ逡巡したようだが為すべきことを優先した。それでいい。これ以上、彼の負担になりたくなかった。
「なまえはここにいろ。我は先ほどの奴らを倒してくる。何かあれば必ず我を呼べ。いいな?」
彼はヒルチャール達の動向を探りながらも、いつものように私に言い聞かせるように話す。だが私の返事を聞くこともなく、彼はまたヒルチャールたちへと向かっていった。
「Biadam」
「Mimi movo!」
「Ye gusha ika!!」
それから、しばらくという間もないほど、あっという間にヒルチャールを倒して隠れていたアビスの魔術師もしっかりと倒していた。私はというと、彼に言われたとおりそのまま彼の戦う姿を木の陰からそっと眺めていた。まだ頭が痛いけれど、私のために戦ってくれているのだから目を逸らしてはいけないものだ。
「――なまえ」
周囲の魔物達を撃退して安全を確認した彼は槍をしまって、そこから少し離れた。その後、私を呼んだ。戦いのあと彼が私に近づかないのはいつものことだから、私から彼の方へ行かないといけない。それが彼のできる私に対する最善の行動であると知っていた。木陰から出て一歩、二歩と歩を進める。でも、普通の会話を交わすような距離まで近づくことができない。
「魈……、ありがとう」
少しだけ近づいてから私は彼にお礼を言った。この距離が私と今の血濡れた彼との最大限の近づくことのできる距離だ。私と彼の最短距離はこんなにも遠い。
「かまわぬ。お前を守るのも我の役目だ」
「でも、……」
その事実に何とも思わないはずはないのに、静かな声で彼はいつもそう言う。降魔大聖という名は魔を滅する者であることの証だ。名は体を表すというように彼は魔物との戦いに他の仙人以上に特化している。私とは正反対の存在。私とは違う。ちゃんと璃月に貢献している。
「なまえ、気にしなくていい。魔を滅することが我の役目であり、為すべきことだ」
「……、」
だけど、彼もまたその業を背負いひとりで苦しんでいることも知っている。戦えない私が何を言おうと彼には戯言に聞こえてしまうだろう。でも、私はいつか彼の隣を歩いてみたい。ひとりで背負わなくてもいいと声をかけたい。私みたいな弱くて役に立たない名ばかりの仙人の端くれにそんなこと言われたら彼は不愉快になるかもしれない。彼はその業さえも背負って、進み続けているのだから。哀れみも憐憫も彼に対する冒涜だと私は思っている。
今がどうであろうと彼は彼自身の決意でこの道を歩んで、そして自分を犠牲に他人を救っているのだから。私が麒麟でなければ、せめて普通の人間であったなら……今すぐにでも彼のそばまで駆け寄って、ありがとうって、今までずっと助けてもらっていた感謝の気持ちを存分に伝えることができるのに。
でも、私は自分の立場を嫌というほど理解している。弱い。弱くて役立たずな形だけの仙獣。自分すらも守れない。仁獣だと讃えられてそれに甘えている弱い生き物だ。
仁獣なんて吉兆の証なんて、呼ばないで。私は何もできないただの弱い獣なんだから。魈に守ってもらえる資格なんてないのに。それなのに、魈はいつだって私を助けてくれる。ろくに礼も言えないのに、彼はどこからかあらわれていつも私を助けてくれる。私のこの救いようのない命の代わりにその身を呈して守ってくれるのだ。
――そんな価値があるはずもないのに