寒い夜はそばにいる(?? & Marchosius)
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麒麟のサガゆえにひとりでいる事を好むなまえは今日もまた岩神こと岩王帝君の統治する地、璃月を歩いていた。慣れ親しんだ道だから、ゆっくりと歩いていたがしばらくすると崖の先端まで辿り着いた。そこに座って遠くに見える景色を眺める。なまえの目に映る景色は現在、地中の塩と呼ばれる場所だった。そこにかつて塩の魔神と呼ばれた魔神が封印されていることを知るものは少ない。だがなまえは知っていた。
――遅かれ早かれこうなるものだった
なぜなら塩の魔神が死んだ時もこの場所にいたから。戦いを徹底して避けていた塩の魔神と仁獣であるなまえが出会ったのは果たして偶然だったのだろうか。ともかく彼女の優しい心を知ってなまえは協力したくなった。激化する戦争の中、のちの統治者に言わせればその魔神の行動は魔神にあるまじき弱気な考えであり、ただの弱者の敗走であり、偽善であり欺瞞だという。
――なまえのせいではない
――戦わない道を選んだのは私
だがその行動をなまえは当時の価値観に合わない仁獣ゆえの揺るがぬ優しさと慈愛を持って受け入れ、そして手を貸した。その後のことは誰もが知る通り、その弱い魔神こと塩の魔神へウリアは他の魔神のように地中に埋もれることとなる。なぜなら自らが守るべく領民に殺されるという悲劇的な結末が待っていたからだ。それがどのような理由であれ、へウリアは自らの領民に殺された。そうして塩の魔神の領地は封印されることとなった。地中の塩と呼ばれるその地はそのような経緯でその名がついたのだが、その詳細を知るものは少ない。強さだけが価値の全てを決めていた魔神戦争の時代において、戦わない弱き魔神など誰も気にすることもなかったから。
――なまえは私の意を汲んで十分助けてくれた
――だから、気に病まないで
麒麟の価値を正しく理解していた塩の魔神は自らの死期を悟り、なまえを逃した。仁獣に罪はない。そして、この先きっと仁獣の価値は高まる。
――さよなら、なまえ……
そう確信して争いを厭い、ただ平和を願ったその魔神はなまえの生を望み、数少ない腹心の部下に頼み彼女を秘密裏に外へと連れ出させた。そして彼女自身は人間に討たれることとなる。
塩の魔神へウリアは死んだ。多くの人間を巻き込み、その地を地中の塩と名づけられるほどの災害を引き起こした。彼女は最期に自身が正しく魔神であったということを内外に知らしめたのだった。しかも彼女の一番望まぬ他者を傷つけるという最悪の方法を用いて……。それから1人死から遠ざけられたなまえはあの岩の魔神と出会うこととなったのだ。
だから今でこそなまえはひとりでいることが多いけれど塩の魔神のように長らく一緒に行動していた者もいた。それは塩の魔神をあわせてもたった2人だけ。先程の友であったなまえが導いたために死へと向かわざるを得なくなった塩の魔神、そしていつの間にかそばにいてくれる竈神。竈神こと魔神マルコシアスはその名の通り竈の火を司る魔神だった。
かつて璃月には多くの災害があった。岩王帝君は素晴らしい統治者であるけれど、いくら彼の力が強くても自然災害までコントロールすることはできない。自然災害や魔神戦争の影響を一番受けるのはいつだって弱い立場の者達だ。動物や人間、動けない植物なんて一番の被害者であろう。この璃月で例えるならば琉璃百合が良い例えになるかもしれない。塵の魔神の死に際にも琉璃百合が消えたけれど、現在荻花州と呼ばれるその地域が水に沈んだ時ほどではない。
「――……」
地形の変化は様々のものに変化を及ぼすと同時になまえにも影響があった。なまえの体質は他種族とは大きく異なる。それが麒麟が仁獣として持て囃される所以でもあるのだが、多くのものが犠牲になるたびになまえはそれがまるで自らの身に起こったことのように傷ついた。ひとりで苦しい胸の内を誰にも言えずに過ごしていると決まって現れたのは竈神だった。本来はもっと大きな体なのになまえの前にくる竈神はとても小さく、なまえの半分ぐらいの身長しかなかった。そんな小さな体でうずくまるなまえの頭を暖かな手で撫でてくれた。
「――マルコシアス……」
どこにいてもいつのまにか傍にいる竈神。何を話すこともなく暖かな優しい温もりを感じてなまえは手を伸ばした。そのまま縋るように抱きついて、ただ静かに時を過ごした。なまえの震える肩も、俯いた顔が泣き濡れていたことも知っているのは竈神だけだ。他の誰もそのことを知らない。間違いなく竈神はなまえにとって特別だった。しかし、そんな彼も人々のために力を捧げ使い果たしたのだという。それから彼が長い眠りについたことを聞いた。だから、なまえはもう誰かのそばで泣くことはない。
他の友人たちが信頼できないというわけではない。皆、なまえに優しくしてくれる。帝君を敬愛する彼らが帝君の力になれないなまえを気遣ってくれるのだ。彼らの優しさに甘えてはいけない。そう思った。塩の魔神の死にそばにいられなかったなまえは竈神の眠りの際ですらそばにいられなかった。支えてもらった人たちになんの恩も返せずになまえはただのうのうと生きるしかできない。そんななまえが涙を見せるなどそんなことできるはずがなかった。たとえ、友人達や帝君がなまえを心配してくれたとしても弱さを見せることはできない。助けてもらってばかりのなまえがこれ以上負担になってはいけないのだとそう思った。
……そう思ってしまった。だからこそ、なまえは大切な友人達とずっと共にはいられなかったのだった。
設定
なまえ
麒麟。実はとても長生きな仙人。長く生きているゆえに自身の弱さに気づき、それしか見えなかった。麒麟がいることで救われている人々がいるのにそれすらも知らないまま、一人、郊外を歩いている。そして、……。
マルコシアス
竈神。なまえにとって唯一泣ける場所であった。竈神の名の通り、人々の心を温め、麒麟の心すら慰めた強く優しい魔神。しかし、今はもうその力は残されていない。
へウリア
塩の魔神。争いを嫌った優しい魔神。徹底的に争いを避け、自ら得た情報やなまえの導きによって争いのない土地へと居場所を転々としていた。そのせいで慕われていたはずの領民の手によって殺された。そしてその地は塩に埋もれた。
あとがき
ご覧いただきましてありがとうございます。麒麟の女の子の話でした。タイトルで想像ついた方もいらっしゃるかもしれませんが思いついた1人?というのが竈神(と塩の魔神)でした。予想されていた方は当たりましたでしょうか?塩の魔神については前回の『笑顔はついぞ見ることもなく(Morax)』で帝君と初対面の時に「吹きすさぶ白の中」というわかりにくいヒントを書いておきました。白とはつまり塩の魔神の塩の結晶が空中を舞っていたということでした。
というわけで麒麟の女の子のお話はネタがなくなりましたのでこれにて一旦完結です。月逐祭で魈を見て泣いていた竈神がとても印象的でした。その時はまだ正体分からなかったので、なんで泣いてるんだろうって思っていました。塩の魔神については口調の情報が見つからなかったので口調は適当です。一応注意書きに鍾離の伝説任務第一章ネタバレ?とは書きましたがテキスト読んでいる方ならご存知の内容しか書いてないので「?」と最後につけました。