孤独を愛するあなたへ(Ganyu)
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何千年もの長きに渡り璃月七星の秘書として働く甘雨は時折璃月港から離れ、郊外へと赴くことがある。それは彼女にとって貴重な休憩時間である。甘雨にとってその貴重な休憩時間の一部を昼寝に費やすのはもはや習慣だ。口にすることはなかなか叶わないが本当は大好きなスイートフラワーと美しい琉璃百合の側でうとうと、うたた寝していた甘雨は好きなものに囲まれて幸せだった。そんなある日のこと。
「~♪」
微睡の中で不意に楽しそうな鼻歌が耳に入ってきた。その声に呼応して琉璃百合の芳しい香りが広がった。甘雨はその声に聞き覚えがあって閉じていた目をゆっくりと開いた。
「(この声は……、なまえ……?)」
起き上がってきょろきょろと辺りを見回すと草も生えない道の上を楽しそうに歩くなまえが見えた。彼女は甘雨と同じ麒麟の一族である。しかし彼女は半分人間の血が入っている甘雨とは違い純粋な麒麟であった。だから、彼女は麒麟らしく群れずに単独で行動している。そして、甘雨にはある角も完璧な擬態を心得ているなまえにはなかった。なまえは戦えはしないけれどその力は決して弱いものではないことを甘雨は知っていた。なまえの歌は聞き惚れてしまうような美しい歌とは言えないが、聞くといつも気持ちが穏やかになる。それを抜きにしても甘雨はずっと前からなまえのことが好きだった。
「~♪ ~~♪」
「なまえ……」
「~♪? ……あ、甘雨!」
甘雨が小さく呟いたはずの声に反応したなまえは歌を止めて辺りを探った後、甘雨を見つけた。名前を呼び、手を振る。甘雨は立ち上がり、なまえの方へと向かった。
「こんにちは、なまえ」
「甘雨! こんにちは、今日はお休みなの?」
なまえには凡人達の仕事サイクルというものはよくわからなかったが、甘雨と会う時に理由を尋ねるといつも仕事が休みだとか、休憩時間と言っていた。だから、なまえはわからないなりに納得して、いつものようにそう尋ねたのだった。
「いいえ、休憩時間なんです」
「そっかあ、そうなんだ。うん、休憩は大切だもんね!」
甘雨の返答になまえは邪気の感じられない笑顔を向ける。そんな柔らかい笑顔を見ると普段職場の性質上、気を詰めていることを実感させられる。
「なまえは元気にしていましたか?」
「うん、変わりなく私は元気だよ。甘雨こそ無理していない?」
なまえはいつも甘雨のことを心配してくれる。それが麒麟のサガであると言えばそれまでだが、なまえがいつも本気でそう思っていることを知っていたので甘雨は嬉しかった。甘雨の存在を認めてくれているような気になるから。それを抜きにしても甘雨はなまえのことが好きだ。だから、なまえと出会った時は必ず貴重な休憩時間を彼女との会話にあてた。話題なんて本当に些細なことだ。甘雨がしている仕事を話せる範囲で教えたり、仙人たちの話をしたり、なまえが見た綺麗な景色の話をしたり……。そんな些細なとりとめのないことばかりである。でも、それが甘雨にとってどれほど気持ちを和らげさせるのかなまえはきっと知らないだろう。
話してみると明るい印象を抱くのに、ところどころに見えるなまえの本質はずっと穏やかで、それなのに他人と群れずに一人を好む。それは甘雨の知る麒麟そのものだった。甘雨が郊外に出て一人の時間を過ごすようになまえはほとんどの時間をひとりで過ごしている。それが麒麟の本質なのだ。それを知っていながら甘雨はついなまえにある提案をした。
「なまえ、あの……今度、私と璃月港の朝焼けを見ませんか?」
夕日ではなく、朝日なのは甘雨の仕事がほとんど徹夜明けに終わるせいだ。だから夕日よりも朝日を見ることの多い甘雨は璃月港の朝焼けの美しさをよく知っていた。帝君の威光を示すかのような美しい情景は言葉にできない素晴らしさがある。甘雨はなまえが璃月港にあまり赴かないことを知っていた。それは麒麟だけではなく、他の仙人たちも同じだ。
「――」
彼らはほとんど凡人達に関わらずに彼らを守っている。凡人達の守護はかつて彼らが交わした古い契約の履行の延長であり、それはもはや彼ら自身の意志でもあった。
「……せっかくだけど……ごめんね」
甘雨は知っていた。知っていながらなまえを誘ったのはただ甘雨がなまえに知って欲しかったからだ。
「人の多い所は……少し苦手なの」
それは麒麟の本性なのだろう。それをわかっていたはずなのに彼女がなまえを誘った本当の理由は……。
「……――いえ、私の方こそごめんなさい。なまえが苦手なのに誘ってしまって」
「ううん、誘ってくれて嬉しかった。甘雨が私のことを考えて一緒に見たいと思ってくれたんだよね」
「……」
本当は、……本当、は。優しく話すなまえに甘雨は心の奥にあるこの歪みを話してしまいそうだった。なまえは正しく麒麟であったから、だから帝君もなまえとは何も契約を交わさなかったのだろう。漠然とそんな考えが頭をよぎって甘雨の心はまた揺らいだ。
「そんなこと、……いえ、すみません。そろそろ行かないと。……なまえ、また会ったらお話ししてくれますか?」
「うん。またお話ししよう。……お仕事がんばってね、甘雨。無理しちゃダメだよ」
「ありがとう、なまえ」
そう言って2人は別れた。しばらく進んで甘雨は来た道を振り返った。するとなまえがこちらを向いたまま手を振っていた。笑顔だった。柔らかくて優しくそして暖かい笑顔。麒麟が仁獣だとそう裏付けるような優しさは遠くからでもよくわかる。
「……」
だからこそ余計に考えてしまう。甘雨が半仙だからなのだろうか。どっちつかずの存在だとわかっていながら、人の海に飛び込んだのも、群れることを嫌う麒麟の血が流れているのに孤独に耐えられないのも。その考えを振り払うように甘雨は手を振るなまえに答えるようにもう一度小さく手を振って道を歩き始めた。
「……」
それから少ししてもう一度甘雨が振り向くと遠くになまえの小さな背中が見えた。甘雨とは反対の道を進んで人のいないところへと向かっていくなまえ。
「……なまえ」
甘雨はなまえの背中を見ると、いつも彼女がいつか本当に消えてしまうのではないかと言う理由のない不安に襲われた。それが現実にならないことを祈りながら、ひとり郊外へと消えていくなまえの後ろ姿をいつまでも見つめていた。
設定
なまえ
麒麟。いつも人のいないところをふらふらしている。歌は特別うまいわけではないがなぜか人の心に安らぎを与えられる。それは麒麟故のことなのかもしれない。
甘雨
月海亭の秘書。生きがいが仕事と言っても過言ではないが休憩は必ず入れている。主体性はほとんどなく、そんな自分に気づいていながら流されるままにここまで来た。麒麟として、仙人として、誰にも縛られることなく、ひとりで過ごしているなまえの生き方が少しだけ羨ましく感じている。……ほんの少しだけ。
あとがき
ご覧いただきましてありがとうございます。麒麟の女の子の話でした。以前お知らせしていた通り、タルタリヤ、魈と次いで甘雨です。残すは鍾離のみ。……と言いたいところですがもう1人?いま書いている途中です。書けるがどうかはわからないので、誰かは伏せとくことにします。
基本的に話の時系列はタルタリヤの話が一番最後です。ですが、これから全く異なる分岐が発生するかタルタリヤに落ちるかは好きに考えて下さってかまいません。
このお話の甘雨がなぜ主体性がほとんどないのかというと彼女はずっと帝君の契約に従って民のために生きてきました。だから、それが当たり前であり疑問の余地すらありませんでした。けれど帝君がいなくなり人の時代が始まったことにより否応なく、自身のことを考えなくてはならなくなります。それで伝説任務の流れに進んだと推測しています。このお話はまだ璃月に神様がいた時代の話なのでこのお話の甘雨は主体性がほとんどないというわけです。でもそんな自分に心のどこかでは気づいていて、半仙というどっちつかずの自分にも疑問があるような、ないような…そんな感じです。いろいろと書きましたが好き勝手に考えていますので適当に読み流してくれてかまいません。あとがきまでお読みいただきありがとうございました。