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人は寝ると夢を見る。夢とは願いの賜物なのか。そうであるならば、あの子も私を望んでくれているということなのか。そうだったなら、どれほど嬉しいことなんだろう。私は今日も夢を見る。またあの子に会えることを願って。たとえ、あの子が私を覚えていなくても……かまわなかった。
「――姫様!」
蛍がなまえがいることに気づくと彼女もまた蛍に気づく。
「(……なまえ)」
蛍の登場に笑顔をみせるなまえに蛍は複雑な思いを抱えながらも嬉しさを隠すことはできなかった。
「姫様! 今日も来てくれたんだ!」
「うん。なまえが心配だったから」
「嬉しい。姫様、今日は何のお話をしてくれるの?」
「今日はね、」
そんなふうにして蛍はなまえととりとめのない話をする。なまえに違和感を抱かせないように慎重に慎重を重ねてこの時間を楽しむ。それが蛍にとっては今の数少ない楽しみのひとつだ。
「姫様、いつもありがとう!」
一通り、話すとなまえはいつものように蛍に礼を言う。その時蛍はいつも思うのだ。姫様ではなく、本当は名前で呼んで欲しい。
「(なまえまで私を姫様と呼ばないで)」
あの組織は蛍のことを姫様と呼び、彼女を崇めていた。それと関係あるのだろうか。なぜここでのなまえが蛍のことをそう呼ぶのかはわからない。やはり、これはただの夢なのだろうか。
「……蛍でいいのに」
姫様、姫様と呼ばれて思わず口にしてしまった。夢とは都合の良いものだ。なまえには蛍と言う名は届かない。それが私への罰だと言われているような気がして。なまえが私の名前を思い出したらこの夢は終わる。そう暗に告げられている気がした。夢を終わらせたくなかった。現実では一緒に歩めない。たとえ虚像であっても、名前を告げられなくても、蛍は幸せだった。
「なまえ、大好きだよ。だから、ここから動かないでね」
「私も姫様のこと大好きだよ。でもどうして外に出てはいけないの?」
当然の疑問だ。蛍がなまえの立場だとしても同じことを言うだろう。
「あのね、なまえ。よく聞いて。外は危ないの」
この部屋を出ると外に繋がる。外には思い出が眠っている。蛍が歩んできた道。なまえと空と、三人で冒険した世界。これまで出会った多くの人々との思い出。すべてを見ることができる。
「危険なものがいっぱいなの。危ないからここから出てはダメ」
そうやって騙して、引き止めてここが現実ではないと悟られないようにしている。気づかれなければ蛍はずっとなまえに会える。夢でなければなまえとこんな普通の会話なんて許されない。この世界に閉じ込めているわけではない。このくらい許されるだろう。ずっと一緒にいられたらどんなに幸せか。なまえと空と蛍。三人で一緒にいられるだけで幸せだったのに。今は許されない。だから、夢の中で、夢の中だけでも幸せを味わいたい。目覚めた時にこみ上げる虚しさをわかっていながら蛍は真実を告げることはとてもできそうになかった。
あとがき
お読みいただきありがとうございます。
夢を覚えている蛍と忘れているなまえのお話でした。『ふたりっきりの世界の中で(Traveler/Lumine )』の蛍視点で書こうと思いましたが、前日譚のような話になってしまいました。この時点ではまだ蛍は夢で会うなまえが本物かは半信半疑です。
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