隔たりのある魂
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「……、蛍。また会ったな」
「ど……どういうことなんだ?! ダインが妹さんの名前を知っているぞ?!」
やはりダインスレイヴと蛍は知り合いだったようだ。そんな彼の言葉に蛍は何も答えなかった。
「空、なまえ……2人とも、その人と一緒にいちゃだめ」
ダインスレイヴの呼びかけを無視して蛍はなまえ達に警告する。蛍の声はずっと静かで平坦だった。かつて3人で旅をしていた時と全く異なるその声質は本当に目の前にいるのが蛍本人なのかという疑問をなまえに抱かせた。淡々と話すその声になまえ達は動揺を隠しきれなかった。そんななまえ達の動揺を気にもかけずに蛍は静かに口を開く。
「その人は私の『敵』」
「蛍……」
敵。蛍ははっきりとそう言った。それはどういうことなのか。突然の再会につきつけられる現実の厳しさに夢だと思いたくなる。
「言ってることがわからないよ、蛍!」
今まで共に旅をしたダインスレイヴを敵だなんて蛍の気持ちが空達にはわからなかった。混乱する空のその言葉に少しの同情を見せながら、蛍は空となまえにしっかりと目を合わせる。
「……これは言わなきゃいけないことなの。ダインと一緒に私を、『アビス』を、阻止しないで」
蛍ははっきりと自身がアビス教団側であると明言した。信じがたい発言にもう何も考えたくなくなる。混乱して現実から逃げたくなるような言葉を畳み掛けられる。そんな空となまえにさらに追い討ちをかけるように蛍は彼らの知らないダインスレイヴについて話し始める。淡々と何の感情もこもってないような冷酷なまでに静かな蛍の声がただ静かに響く。
「その人……ダインスレイヴは、最後のカーンルイア宮廷親衛隊『末光の剣』。500年前、彼はカーンルイアの滅亡を阻止できなかった」
蛍の声は静かな水面に石を投げ入れたかのように広がっていく。じわじわと、だが確実になまえ達の中に蛍の言葉が新たな情報となって響き渡る。
「その時に不死の呪いをかけられ、荒野を彷徨った。……彼が守ろうとした民が、アビスの怪物になるのを見ながら……」
思えばダインスレイヴとアビス教団には共通点はあった。アビスのメッセージを読めること。それがテイワットの文字ではなかったこと。神に対しての信仰がないこと。そうなまえは混乱する頭の中で考えていたが、空はそんなことはどうでも良かった。それよりも、蛍と共にいることを優先した。夢の中で蛍にあったなまえとそれを知らない空。2人の決定的な差が現れたのもこの瞬間であった。
「そんなことはいいから俺たちと一緒に家に帰ろう!」
「家……」
その言葉を呟いた蛍の姿はなまえには少し嬉しそうに見えた。
「うん。もちろん、空となまえがいる場所が『家』だよ」
噛みしめるように話す蛍はどこか遠い昔を懐かしむようなそんな儚さを醸し出していた。なまえも空も蛍のそんな顔を望んでいたわけではない。そんな2人の思いを遮るかのように視線をそらし、少し横を向いた蛍。
「でも私は、まだ2人と次の世界に行けない。少なくとも今は……できない」
「できないなんて、そんなことない! そんなこと……、そんなことないよ!」
なまえは蛍の言葉を、その雰囲気を打ち消したくて、叫んだ。けれどそんななまえの声に蛍は静かに首を振る。
「『アビス』が神座を下す前に、まだ『天理』との戦いが残ってる……」
「天……理……?」
「聞いて、空。なまえには……前にも言ったよね」
そう前置きをした蛍。何を話し出すのか空にも、そしてなまえにも見当がつかなかった。そんな2人の顔を見て蛍は語り出す。
「私はすでに一度旅をした。だから、2人も私と同じように終点に辿り着けば、この世界の淀みを見届けることができる」
淀み。淀みを見届ける。
――すべての淀みを見届けたら――なまえもわかるはず……
夢の中で聞いた蛍の言葉がなまえの中で蘇る。
「……あ、あれは……夢じゃ……」
「夢ってどういうことだよなまえ…」
その言葉に動揺して、放心状態で膝つくなまえのそばに寄ったパイモンも混乱している。そんななまえを見ていた蛍が何かを振り払うように1度目を瞑る。だがそれも一瞬のことで彼女のそんな思いに気づく者はいなかった。
そして蛍は空を見つめる。蛍の後ろではアビスの使徒がまた力を使い異空間の扉が開いた。彼女がいることで先程、ダインスレイヴが使った技は使えない。蛍の存在が双方の抑止力となっていた。
「――私たちはいずれ再会する」
未来を知っているように断言する蛍。それは再び別れがあるという言葉の裏返しに他ならない。なまえはそれに気づいてしまった。
「……、蛍……!」
「急ぐことはないよ。待つだけの時間が十分にある」
名前を呼んでも蛍が答えることはない。なまえの呼びかけに返事をすることなく蛍は言葉を続けていく。今の再会まで蛍は長い間待ったのだ。今更何年待とうが彼女には耐えられる。抑揚のない声で伝えられたそれは蛍の別れの言葉だった。
空は一歩、また一歩と歩を進め、気づくと蛍の方へ駆け出していた。走っているはずなのに蛍のもとへはなかなかたどり着けない。焦れば焦るほど、その距離は縮まらない気がして、足を必死に動かしても空は妹のもとへたどりつけない。
「私たちには……十分時間がある」
蛍はアビスの使徒に続いて異空間に入ろうと後ろを向いて歩を進める。彼女がその異空間に足を踏み入れる一歩手前で空達の方へふり返った。肩越しに膝をつくなまえとこちらに向かってくる空に目を向ける。
「……だからそれまで、ちゃんとなまえを守ってあげて」
「ま、……て、……蛍……」
「蛍!!」
「必ず、なまえを守って――お願いね、お兄ちゃん」
消えゆく蛍の姿を空は追いかけた。自分のためにも、なまえのためにも、蛍と離れるわけにはいかない。空が蛍を追いかける。なまえはただ蛍の姿を見ているばかりでもう立ち上がれなかった。
そのなかでパイモンは膝をついて動かないなまえと空の背中を交互に見て、どうするべきか戸惑っていた。そんななまえと空の様子を知りながらも、蛍は空を待とうとしない。アビスの使徒に続いて異空間に入り、そして消えた。