誇りのない試練
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レザーは見慣れぬ敵と対峙していた。レザーは狼に育てられた人間の子である。だから彼も奔狼領の出身だ。守護神である北風の狼ボレアスを守るのもレザーのするべきこと……否、したいことである。北風の狼を守ることは奔狼領を守ることに繋がる。
「レザー!」
そんなレザーのもとに複数の足音と彼の名を呼ぶ聞きなれた声が聞こえた。なまえの声だ。空と共に旅をする旅人でパイモンも含めてレザーの友達である。だが、今はこの見慣れぬ敵の脅威から目を離すことも注意を逸らすことができない。だからなまえの呼びかけに答えることはできなかった。なまえと空がレザーの隣に並んだ。彼らもレザーと同じように目の前の外来者を敵と定めているようだ。
「ここは、お前を、歓迎しない」
「フフフ……残魂の狼にも、跡継ぎを守る習性があったとはな。防衛のためか? しかしその実力、魔神の足元にも及ばぬ。我々に服従すれば、神に匹敵する力を得られるだろう、過去のようにな」
レザーが警告するがその敵はそんなレザーを気にした風もなく北風の狼を煽るように言葉を紡ぐ。北風の狼ボレアスはかつての魔神アンドリアスの残魂である。残滓であるのだから魔神の頃の力がだせるはずもない。アビスの使徒の言うことは甘言であった。力を求めるものであれば喉から手が出るほどに欲しいもの。
「戯……言を……」
しかし北風の狼はそのような誘いにつられるほど堕ちてはいない。たとえ残滓であろうと、四風守護になろうとも魔神であった頃の矜持は失われていないのだから。しかし、そうであっても北風の狼は苦痛に苛まれ身動きがとれない。アビスの使徒の力によって拘束されており、危険な状態である。
「なんの儀式だ? 苦しそうだぞ! トワリンの時と同じ『腐食』か?」
「狼は、屈しない。でも、これ以上は……」
北風の狼の苦しそうな状況からみてもアビスの手に堕ちるのは時間の問題だ。北風の狼を助けるためには目の前のアビスの使徒を退けなければならない。トワリンの時のような腐食の状態になることは絶対に防がなければいけない。
「あいつを止める」
空の声を受けてなまえは武器を構えた。アビスの使徒との対峙は二度目になる。相手の手のうちのいくつかはもう知っている。
「何度やろうと、無駄な足掻きだ……」
挑発するようなアビスの使徒の言葉を皮切りになまえがまずアビスの使徒に向かって攻撃を繰り出した。前に戦った時よりもこちら側が有利なのは明らかであった。あの時のなまえは今よりもずっと攻撃に参加しきれていなかったし、いまはレザーがいる。
なまえ達は再びアビスの使徒の攻撃を防ぐことができた。アビスの使徒に北風の狼にかけた縛りを続けられないほどの攻撃を与えて、北風の狼をその呪縛から開放することに成功した。
「フン……儀式が中断されたか、運が良かったな。残魂にも、これほどまでに堅い意志があったとは……」
負け惜しみにしてはその声色は少し称賛の色も含まれているような気がなまえには思えた。アビスの使徒はこの儀式とやらが失敗しても問題ないと考えていたのだろうか。
「しかしこの程度のこと、なんの影響もない」
それだけ吐き捨てて、アビスの使徒はまた異空間に姿を消した。
「また消えた……」
「でも、行動を阻止することはできた」
「うん。ボレアスが無事だったんだし、良かった」
パイモンの呟きから空となまえが北風の狼の無事を喜んでいるとレザーが3人に目を向けた。
「ありがとう、いいところに、来た」
「レザー、大丈夫? 怪我はない?」
なまえがレザーに尋ねるとレザーは大丈夫だと頷いてみせた。そんなレザーの後ろから北風の狼が話しかけてきた。
「こんな無様な姿を……人間の『ルピカ』に見せるとは。しかしアビスの使徒、我も甘く見られたものだ」
「王狼、試練、拒まない。でも、不気味な外来者、掟、守らない。オレも、罠に、気づかなかった……」
「それって、アビス教団は試練を利用して『王狼』を呼び覚まし、腐食しようとしたってことか?」
王狼は手順さえ守れば試練を受けることができる。なまえも空もモンドに来たときは試練を受けることがある。けれどもなまえたちのように純粋な試練として受けるものばかりではないことが今回のことでなまえ達は思い知らされた。
「落ち込まないで、レザー」
「そうだよ。レザーのせいじゃない」
罠だと気づかなかったことに落ち込むレザーになまえと空が順番に声をかけていく。レザーのせいではないことはここにいる皆が知っている。
「ありがとう、ふたりとも。オレの爪、もっと、強くなる」
ふたりの言葉に元気づけられたレザーは次はしっかりと北風の狼を守れるように気合を入れなおした。そして、思い出したようにレザーは3人に向かって危険な匂いをたどって来たのかと尋ねた。3人は匂いを識別できるほど鼻が利くわけではない。パイモンが話を聞いてきたのだと答えた。
「そうだ、助けに来たついでに、質問させてくれ。その……こちらの魔神殿は、『最古の耕運機』を知ってるか?」
パイモンの問いかけに北風の狼は人間の造物に興味はないとしながらも、印象に残っている機械について話してくれた。試練に誤って立ち入ったある機械の話を。戦闘と殺戮のためだけに作られたその機械は王狼の攻撃で損傷し、試練場を離れたという。その機械は回転と跳躍、そして火の玉を放ち、力は魔神には及ばないが「神の目」を持つものより上であったらしい。
「火の玉……? なんか最近どこかで聞いたような……? とにかく、これって『最古の耕運機』はモンドに来たことがあるってことだよな?」
火の玉についてパイモンは引っかかりを覚えたようだが、あまり考えずに最古の耕運機がモンドにいたことがあると結論付けた。そしてその最古の耕運機は量産型よりもずっと強い力を持っているようだ。なまえと空とパイモンの3人で今の話をまとめた。するとレザーが3人に向かって話しかけてきた。
「役に、立った?」
「うん。とっても!」
「大助かりだ、ありがとう!」
レザーが少し確かめるように問いかけてきた。その言葉になまえとパイモンが礼を言う。それに続いて空がレザー達に話しかける。
「俺たちはこれから調べなきゃいけないことがあるんだ」
「だからアビスの使徒が離れたとはいえ、教団の攻撃はまだ止んでないから、おまえたちも気をつけろよ!」
「うん、もっと危険な匂い、ある。おまえたち、気をつけろ」
空達の別れの言葉を聞いてレザーはもっと危険なことがあると忠告をしてくれた。レザーと北風の狼に見送られるようにして3人はダインスレイヴとの合流地点を目指してその場を立ち去った。