誇りのない試練
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空とパイモンが大聖堂に足を踏み入れた頃、なまえはダインスレイヴに感謝を述べていた。彼女にとっても正直このダインスレイヴの提案はありがたかった。もちろん神像については気になるが、先ほどの戦いにほとんど参加できなかったことの方がなまえにとってはかなり気がかりだった。
「ダイン。ありがとう」
「……礼などいらん。俺はここで貴様を休ませた方が今後円滑に進むと思っただけだ」
なまえが礼を言うと返ってきたダインスレイヴの言葉。それは一見突き放すように聞こえるが彼女にとって、彼のやさしさのように思えた。
石のベンチに腰掛けてなまえは隣に立つダインスレイヴに話しかけた。隣に座ればいいと言ったが彼は頑なに座ろうとはしなかった。無理に座らすこともないかと声をかけることを早々にやめてダインスレイヴを見た。ダインスレイヴと旅をして、なまえは彼を悪い人ではないと評価している。たしかに今まで出会ったテイワットの人々とは異なるその雰囲気は謎めいた印象を抱かせる。
けれど彼は冷たいように見えて、質問したら答えてくれるし、先ほどもなまえに休む時間をとってくれたように気遣いもできる。ダインスレイヴと旅した時間は短い。彼が良い人かどうかはまだわからない。けれど少なくとも悪い人ではないとなまえは思っている。
「貴様はいつもこんな調子なのか?」
「……ううん。いつもはもっと元気だよ。最近あまり眠れてなくて、それで……、」
ダインスレイヴの問いかけになまえは首を振って否定した。なまえの体調不良の原因はあの夢である。原因を理解していても続けざまに答えられなかったのは、夢の話をしても良いのかなまえは悩んでいたからだ。言い淀んだなまえにダインスレイヴは何も言わなかった。それがなまえにとっては話そうと思った決定打となった。
「……」
「夢を、見たの……。蛍の夢。さっき空が話したよね。空の妹。私たちの……旅の目的」
思えば誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。あの夢をひとりで抱えきれずに眠れなかったのだから。でも空には言えなかった。双子である空を差し置いて蛍の夢を見たなんて。それで眠れなくなったなどと空にはとても言えなかった。
「蛍が、夢の中にずっといて……何度か会っていたのに、わたし……ぜんぜん覚えてなくて……。その夢の中で、蛍が言ったの。……外はあぶないって、淀みが蠢いているから。だから……ひめさまが……」
そこまで言ってなまえは一度息を吐いた。脳裏に残る映像を言葉に変換するのはなかなか難しい。そのせいか少し頭がぼんやりしてきたような気がした。ダインスレイヴに話していたのにそんなことは頭の中になかった。脳裏に浮かぶ言葉をただ口にしているだけのなまえの姿はうわ言を言っているような不安定な様子だった。皆に休んでいいと言われて少し気が抜けたのかもしれない。しばらくして、そんな自身に気づいたのかなまえはもう一度息を吐いた。深呼吸をして何かを追い出すように頭をふった。息を吐いて気を持ち直す。
「あれは本物の蛍だったのかな……」
なまえの小さな呟きに答える声はなかった。彼女もそれでよかった。誰かに聞いてほしいだけで返事がほしいわけではなかったから。
本当はあの蛍が本物であろうと夢の産物であろうとどちらでもよかったのかもしれない。ただあの言葉。
「――淀みを見届けたら……」
この言葉だけが頭から離れない。アビス教団。逆さ吊りの神像。神によって滅びたカーンルイア。あの見知らぬ神。アビスの計画。運命の織機。そして、最古の耕運機。わからない言葉が多すぎる。なまえにはその知らない何かの中にあの淀みの答えがあるように思えた。言葉にできない言いようのない不安が駆け巡る。
「すべての淀みを見届けたら……。その時は……きっと」
夢の中の蛍の言葉を口にした。口にすれば何かわかるような気がしたけれどそんなことはあるはずもない。それどころか、ただ不安と底知れない恐怖が渦巻くだけで何も考えが浮かばず気持ちも沈んでいくだけだった。
「……」
そんな中、なまえの考えを断ち切るようにダインスレイヴが静かに息を吐いた。
「今の貴様が考えても出せる答えなどたかがしれている。何も考えずに休んでおくべきだ」
「……うん。そうだね。今の私じゃ答えなんて出ない……ダインの言う通りだね」
答えのない問いの答えは出ない。でも、夢の中の彼女が言ったように、いつかわかる時が来るのだろうか。
「でも、話せて楽になれた気がする。……ありがとう、話を聞いてくれて」
それでも一方的ではあったがダインスレイヴに夢の話をしてなまえの心は確かに軽くなった。
「(……蛍、か)」
その時、ダインスレイヴが何を思っているかなんてなまえはこれっぽっちも気づかなかった。考えてすらいなかった。