ないしょのはなし
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大聖堂へとたどり着くためにモンド城へと向かう途中の平原の真ん中。空とパイモンが前を歩く中、その少し後ろを歩くなまえはウェンティの服の袖を引っ張って小声で話しかけた。
「ちょっとウェンティ……!」
「ん~? どうしたのなまえ?」
無事に空を仲間に引き入れることができたウェンティは少しばかり上機嫌だった。トワリンを救うためにはあの旅人の力があったほうが事はうまく運べると思ったのだ。トワリンと騎士団、双方の衝突が現実的になってきたいま時間がないのがわかっているため彼の加入は意味の大きいものとなるはずだ。
「どうしたのじゃなくて! さっきの! ……何で黙ってたの!?」
「さっきのって?」
「森でのこと……私のせいで、トワリンを助けられなかったばかりかウェンティにまで……」
とぼけるウェンティになまえは自らしでかしてしまった事をもう一度今度ははっきりと口にする。
「……大丈夫だよ、なまえ。手遅れにはなってない。ボクはもう回復したし、トワリンだって助けられる。ライアーを手にしてボクたちでトワリンを助けるんだ」
ウェンティは決意をこめてなまえの手を握った。思い悩んでいたなまえだったが、ウェンティは気にしてなかった。彼は自分が毒を受けようともなまえを責める気持ちになったことは一度だってない。ウェンティはなまえが生きていてくれるだけで嬉しいのだから。
「ウェンティ、でも……」
「いいかい、なまえ。トワリンが呪いを受けたのはずっと前のことだ。だから君が気にすることじゃない」
そう、悪いのは森でウェンティとトワリンの邪魔をしたなまえではない。魔龍の毒をうけたトワリンを呪ったアビス教団である。だから責任を感じるなまえに責任はないことを伝えて前を向かせなければならない。
「それに空だって自分のせいだと思ってる……」
「それは、まあ彼には悪いけど……。トワリンを助けるためには彼の力がいるような気がするんだ」
なまえの言葉に握った手を離して、気まずそうに頬をかいたウェンティは半ば騙すような真似をしてしまったために少し後ろめたい。でも彼のあの浄化の力、あれがあればどこでも浄化できるということになる。だからこそ、ウェンティは彼を仲間に引き入れたかった。わざとらしくなまえの言葉を封じたのもそのためだった。確実にトワリンを助けるためには彼を仲間に引き入れたかった。
「それよりボク、聞こうと思っていたんだけど……なまえ、君はどこまで知ってるの?」
「……どこまでって?」
「この国のこと。どうせいない間のこと聞いたんでしょ?」
誰に、とは口にはしなかったけれどお互いの頭に浮かぶその誰かは同じだった。
「そうだけど、でもあのひとも他国のことは簡単な歴史しか知らないって本を片手に教えてくれたぐらいだよ? それに……なんだか忙しいみたいだったし……」
「あのじいさん、相変わらずみたいだね。彼が忙しいのはいつものことだよ。迎仙儀式が近いからさ」
なまえが数か月前のことを思い出しながら話すと、ウェンティは呆れたように溜息を吐いた。
「迎仙儀式? ……迎仙、……。えっ、もうそんな時期だったの……? 突然押しかけて悪いことしちゃった……」
そんな忙しい時期だとは思わず……というよりも迎仙儀式のことをすっかり忘れていたなまえは変わらずに出迎えてくれた璃月の彼に対して今更ながら反省した。ちなみに彼のその忙しさが別のものであると知るのはもう少し後のことであるが、それはまた別の話である。
「大丈夫だよ、あのじいさんのことだからなまえが来ても問題ないはずだよ。むしろ会いに来てくれて喜んだんじゃない? ボクと違ってなまえがわざわざ探して会いに行ったんだし~?」
「……うっ!……それは、謝ったじゃない~」
ウェンティの言葉になまえは弱いところを突かれて立つ瀬がない。申し訳ない気持ちではあるが、からかうようなウェンティの態度から見ても彼が本気じゃないのはわかっている。空気を和ますためにそのような態度をとっているのだとも理解していた。けれど、情けない声でしか返事ができなかった。いつの間にか真面目な話から雰囲気も明るいものに変わってしまい、なまえとウェンティは傍目には仲良しにしか見えなかった。後ろからそんな騒がしい声が聞こえてパイモンが空に話しかけた。
「なまえとあいつ……なんか話が盛り上がってるみたいだな」
「……そうだね」
仲良くなったみたいだな、と呑気そうに話すパイモンに空は努めて冷静に返事をした。何も気にすることはないと自分に言い聞かせながら。