涙のない明日のために
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かつてモンドには一人の英雄がいた。その英雄が最後に残したとされる一本の苗木。その木が時の流れと共に成長し、一本の大きな木となった。英雄の象徴。それがこの大木のことである。
なまえとパイモンによってこの場所に案内された空は静かにその場所にたたずむウェンティを見つけた。ウェンティもまた三人の姿を認めて話しかけてきた。
「おや? 来たんだね?」
あんなヒントをわざわざ残しておいて白々しく答えるウェンティの言葉が彼らを迎えた。
「そろそろ来る頃かなって、そう思ってたんだ……」
大木の下でウェンティがそう話した。やはり来ることを予想していたらしい。空、パイモンの顔を見て、最後になまえと目を合わせてにっこりと笑ったウェンティ。ウェンティがなまえをみるとなんだか胸がもやもやとする空はそれを見たくなくて彼に話しかけた。
「風神のことをもっと知りたい」
「風神バルバトス? あいつならもうモンドから消えたよ」
なまえから空へと視線をうつしたウェンティは、空の質問にあっさりと答えた。しかし、風神のことを話す彼はどこか冷たくて風神に対する思いがモンドの人々とは少し異なっているものだということは見てとれた。ウェンティは風神についての知識を話したあと彼は逆になぜ風神について尋ねるのかと聞いてきた。先程広場で話したのは風魔龍のことであり、風神のことではなかったからだ。
パイモンがその理由を「神」のことだからといい、空が風魔龍の過去を聞いたからと補足したけれど、ウェンティは深入りすることもなく「ふーん」と一言言って流した。それから、また風魔龍の話になって狂風のコアが襲い掛かってきたり等あったがなんとか退けた。ウェンティも力を貸してくれたが戦える三人とも使える元素力は風元素であったために風元素で構成されている狂風のコアには元素ダメージを与えられずに大変だった。特に空は近接武器のためほとんど弓使いである二人に任せっぱなしであった。
「ごめんね、空。言うの忘れてたね。スライムとかもそうなんだけど元素生物は自分と同じ元素でできた攻撃はダメージを受けないことが多いの。私も空も風元素だったから忘れてた……」
戦闘を終えて、なまえがそう真っ先に謝ってきた。今まで風元素で構成された元素生物と戦うことがなかったためになまえも、うっかり忘れていたらしい。
そんななまえに気にしてないと伝えてからウェンティが再開した風魔龍の話に集中した。だから、空は忘れてしまっていた。なまえとウェンティの射撃術がどこか近似したものであったことを。
その後、ウェンティは風魔龍となったトワリンには呪いがあるという話をした。その原因が腐食であり、その呪いをかけているのはアビス教団だという。アビス教団とは人類の敵と称される人ならざる者たちで結成されているらしい。呪いは毒となり、少しずつその身を浸食していくものだ。ウェンティもまたその呪いに蝕まれていたらしいがこの大木の近くにいれば浄化されるそうだ。しかし、その話を聞いてパイモンの中に疑問が生まれる。どうしてウェンティがその毒を受けることになったのか。
「それで、おまえはどうして毒を?」
「それはまあ、前にトワリンと会話しようとしたときに……誰かさんに邪魔されてね……」
「「!!」」
パイモンの質問に言いづらそうに答えたウェンティ。そう言われて、思い当たる節があったのは空となまえだった。二人ともほぼ同時に自分のせいかもという表情を隠さなかった。
「えっ! じゃあ、ウェンティ……「そのせいでトワリンの呪いを払うどころか、自分も『アビス』の毒に蝕まれちゃったんだ」
なまえが顔を青くして私のせいでと続けようとしたけれど、驚く空を見つめたままウェンティはなまえの言いたいことを言葉を重ねることで封じた。ウェンティの話すことに集中して、自分たちのせいではないかと思い始めていた空とパイモンはそのことに気づかなかった。
「じゃあ、俺たちのせいで……?」
「そうだよ!」
腕を組んだウェンティは怒ったように肯定した。それから、お詫びに大聖堂に来てほしいと彼らを誘った。あるものが必要だから手を貸してほしいと。
「取りに行くんだ……ライアー――『天空』をね」
ウェンティがそう言ったが空にはそれが何なのか想像もつかなかった。ましてやそれを盗むことになるなんて。