涙のない明日のために
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ジンとリサの二人と別れ、騎士団本部の外を歩くなまえ達。パイモンはなまえが栄誉騎士の称号を辞退したことに納得いっていないらしく、未だにもったいないなあ……と呟いていた。
「やっぱりなまえも栄誉騎士の称号もらってても良かったんじゃないか??」
「でも、モンドの人たちは私のことなんて知らないのに突然栄誉騎士の称号もらったなんて言われても納得できないと思うんだよね……」
空と違ってなまえはモンドの住民の前でその力を見せたわけではない。どこで何をしているかもわからない旅人が栄誉騎士という称号を受ければその称号自体の価値も下がるとなまえは考えたらしい。そうまで言われては納得せざるを得ないパイモンはちょっぴり不満そうではあったが、もうその話題を口にすることはやめた。かわりに、空がジンたちに見せたあの赤い結晶のことで騎士団では話さなかったある話題について尋ねることにした。
「なあ、空……さっき言わなかったことがあるよな? あの時、オイラたちが見たのは、龍と結晶の他に……」
「俺は彼が悪い人に見えなかった」
「ああ、やっぱり覚えてたんだな、あの緑の野郎!」
パイモンはどうも、森で彼が消えたせいで風魔龍に吹き飛ばされかけたと思っているようだ。だからその緑の野郎に対して思うところがあるようで、呼び名も乱暴である。そんなパイモンを見ていると、塀の傍にいたなまえは塀の下で動く影が目に入った。緑色だった。
「――あ」
「ん? ああ、あの下にいるあの人と同じくらい……」
なまえが思わず声をあげるとパイモンが彼女の視線を追った。そして走る人影を認識してその人の服が似ていることを確認してパイモンもまた声を出した。それから緑色だったとパイモンが言おうとした時、空が先に「本人だと思う」と言った。
「やっぱりそうだよな! 二人とも!! 追いかけようぜ!!」
その後、上からその人物がいたところまで走り、その場に到着した。だが当然ではあるがその人はいなかった。走っていた人物がいつまでもその場にいるはずはない。そうするとパイモンが元素の力を視認することができるという元素視覚を教えてくれた。あの謎の緑の野郎もどうやら元素の気配を残していたようで、風元素の彼らしき足跡が点々とどこかへと続いていた。その後、なぜか足跡が壁際で消えていたりしたりしたけれど追いかけて、風の翼を使用した時のスタート地点であった大きな像のある広場へとたどり着いた。
その像の前には人だかりがあって、その中心にいたのが空達の探し人である謎の緑の野郎だった。その緑の野郎はどうやら吟遊詩人だったようだ。彼は多くの見物人を前にして緊張することもなく、人々を惹きこむような語りを見せた。それは空にとってはこの世界で初めての吟遊詩人の詩だった。
そんな彼が話したのは一匹の龍の伝説だった。神の時代から生きてきた一匹の龍の話。気になる単語が散見していたが、詩人の表現は抽象的で自分の考えとあっているのかはわからなかった。詩人の詩が終わり、聞いていた人々が足を止めるのをやめて本来の目的を思い出して歩き出したあと、残されたのは空達とその詩人だけだった。
「おや、君たちは……」
残っていた三人の姿を認めてその詩人は何かを思い出すかのような態度をとった。その後、本当に思い出したようで思い当たる節を彼らに話しながら声をかけてきた。
「……あっ! あの時、トワリンを驚かした人たちだ」
「トワリン?」
パイモンは森での出来事に対して文句を言おうと思っていたが、それよりも彼の言葉を気になってしまい先にそちらを聞くことにした。
「パイモン、リサさんから聞いたでしょ?」
「風魔龍の名前だよ」
なまえと空に言われてパイモンは一生懸命記憶を探る。短い間にいろいろあったせいで頭の中でいろいろな記憶が駆け巡るがパイモンはなんとか思い出すことができた。
「あっ! 思い出したぞ! でも、普通の人は『風魔龍』って呼ばないか?」
それは当然起こり得る疑問であった。なぜなら、今まで話を聞いたモンドの人は誰一人としてトワリンと親しみを込めて呼ぶものはいなかった。風魔龍がトワリンであると教えてくれたリサでさえ、通常では風魔龍と呼んでいたし、殺すことに懐疑的なジンも風魔龍と呼んでいた。だから、この吟遊詩人がトワリンと親しげに呼ぶことは不思議に思われても仕方のないことである。それを踏まえてパイモンが詩人に仲が良いのかと聞くと、彼はなんて事のないようにただニコニコと笑って「さあね」と明言を避けた。
「おい、二人とも。こいつなんか怪しいぞ……」
「パイモン……」
まともに答えてくれない人を怪しいと思うのは仕方のないことだ。パイモンはなまえと空に、こそこそとそのことを告げる。なまえはそんなパイモンにまあ仕方ないことかなと思いながらも、あまり失礼なことを言わないようにねと返した。
なまえとパイモンのやり取りを横目で見ながら、空は詩人に歩み寄った。
「こんにちは、名前を教えてくれる?」
「ボクは吟遊詩人、ウェンティさ」
空の問いには素直に答えてくれたその詩人は自らをウェンティと名乗った。そして、聞いてもいないのに自らの吟遊詩人としての功績を教えてくれた。曰く、モンド一の吟遊詩人らしい。一応気に留めるが、それよりも彼には聞きたいことがある。都合がいいことに彼の方から用事は何かと尋ねてくれた。
「オイラたちがわかるなら、これ以上説明する必要もないよな? もちろん、風魔龍の件だ」
「う~ん?」
パイモンの疑問になにそれと言わんばかりにとぼけたウェンティにパイモンのいつもの容赦ないツッコミがさく裂した。またとぼけられては話が進まないので、手っ取り早く話をするために空にあの謎の結晶を出すようにパイモンは彼に促すことにした。
「空、あれを見せるか」
パイモンに促されて空は例の結晶を取り出した。
「おや、これは――」
空の取り出したその結晶の色が変わっていた。禍禍しいあの雰囲気もなくなり、澄んだ水色であった。なまえはびっくりして思わず両手で口元を覆った。
「あれ? 結晶が浄化されてる? いつの間に?」
「騎士団にいた時はまだ赤かったよね?」
「本当だ。いつなったんだろう……」
身に覚えのない事実に空自身も戸惑った。なぜ浄化されたのか、まったく覚えがなかった。三人が戸惑いの声をあげているなか、静かに声を出したのはウェンティだった。
「これは、トワリンが……」
浄化された結晶をみつめながらウェンティが結晶の正体を風魔龍の涙だと呟いた。苦しんで流した涙であると。そして、ウェンティも自らが所持していた赤い結晶を取り出した。
「優しい子だったのに、今はこんな風に悲しみ、怒りに満ち溢れている……」
涙からトワリンの気持ちが伝わってくるようでその表情は悲しそうだった。