つりあげる前に、出会ってしまった
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このテイワット大陸に存在する七つの国のうち、風の国といえば風神の守護するモンドである。その地に久しぶりに足を踏み入れたのは旅人であるなまえだった。モンド城に入る前に郊外を見てまわっていた。人の多い城内とは違って郊外は人が少ない。少なくともなまえは先ほどすれ違った西風騎士団員以外の人とは出会っていない。そのかわりに何度かヒルチャールやアビスの魔術師、スライムといったいわゆる魔物と呼ばれるものと対峙していた。
「ん~っ! 疲れたーっ!」
襲い掛かってきたヒルチャールを無事に撃退できたなまえは戦闘による緊張で張り詰めた体をほぐすように腕をあげて伸びをした。
「そういえば最近あの子の噂聞かないけどどこで何やってるんだろ……?」
ずっと一人旅をしていたせいかすっかり独り言がしみついてしまった。モンド城に入る前にはなおさなければ変な目で見られるかもしれない。辺りに敵がいなくなったことを確認したなまえは完全に戦闘態勢を解除して辺りを見まわした。遠くに海が見えた。
「あ、海の方にも行ってみよ」
先程の戦闘の疲れもなんのその、足取りも軽くなまえは海に向かって歩くことにした。どうやらなまえのひとりごとをなおすのは時間がかかりそうだ。しかし、数分後なまえはその悩める癖をなおす必要がなくなった。それはある一人の少年を助けたことによるものだった。ようするになまえには話し相手ができたということである。
――
――余所者、おまえたちの旅はここまでだ
「――――蛍っ!!」
伸ばした手が空を切り、空は目を覚ました。見えたのはあの時の青空とは違い、闇の中に炎で照らされた緑色の布だった。
「……夢? ここは……」
夢と現実の区別がつかずに空は混乱していた。なんとなく痛む体を起こすと体にかけられていた布がパサリと落ちる。誰かが助けてくれたことをそこで初めて理解した。そう気づいて、空はあたりを見まわして今の状況を確かめることにした。
「~♪」
見まわすとこちらに背を向けて座っている人が見えた。その向こうに焚火があるのだろうか、闇夜の中で暖かそうな空気とオレンジ色の光が揺らめいていた。そちらから何か歌のようなものが聞こえた。そして、おいしそうな匂いも感じられた。空は思い切って声をかけてみることにした。万が一のために武器をすぐ出せることを確認してから、彼はその背に向かって声を出した。
「あ、あの……!」
「っ!」
声を掛けるとその背中は驚いたように肩がはねた。もう一度声をかけると恐る恐るというように顔をこちらに向けた。その人物の向こうに炎があるせいか、顔はよく見えなかった。しかし、少女であった。彼女が空を見て口を開いた。
「――○☆♯◎$?」
ふり返ったその人が何を話しているのか空にはまったく理解できなかった。
―――
なまえは困っていた。海に行こうと思い歩き出して数分後、彼女は倒れている少年を見つけ彼を保護した。そして近くにあった野営地に連れて行って、彼が目覚めるまで待つことにした。別に急ぐ旅ではないし、人を助けるのも大切なことだ。待っている間に日が暮れて、晩御飯を作っている最中にその彼は目を覚ましたらしい。しかも彼女がノリノリで鼻歌を歌っているときにだ。まさか起きるとは思っておらず完全に油断していたなまえは背後から声をかけられたことに驚いた後、下手くそな鼻歌を聞かれて心底恥ずかしくなり混乱していた。だから、気が付かなかった。彼の言葉がなまえにとって耳慣れない言葉であったことに。
「……? どうしたの? やっぱり、どこか痛むの!?」
「……」
なまえが近寄って慌てて尋ねるが彼は困ったように笑うだけで何も答えようとはしない。先程声をかけてくれたはずなので話せないことはないと思うのだが、なぜ答えてくれないのかなまえにはわからなかった。
その後、しばらくしてようやく口を開いた少年の発した言葉によって彼がこのテイワット大陸とは異なる言語を操る場所から来たのだとわかった。なまえとその少年は、身振り手振りと炎の灯の傍で書いた絵でなんとか意思の疎通をはかった。そのおかげでなまえが彼を拾って危害を加える気がないこととお互いの名前だけは伝えることができた。彼の名前は空というらしい。少し焦げてしまった晩御飯を食べながらなまえはこれからどうしようかと考えていた。
「……」
考え込んでしまったなまえの姿を見て空もまた考えていた。別れてしまった妹を探さなければならない。そのために彼が必要なのは情報だ。この世界のこと、この土地のこと、あの神のこと。幸い、空を助けてくれたというなまえという名の人間は悪い人ではないようだ。今食べているものも少し焦げてはいるが、いたって普通の食べ物であった。空を騙すために親切にしている可能性もあるが話せない空を見捨てない彼女がそういう悪い人間だとは彼には思えなかった。この世界のことを知るために彼女の協力を仰ぐのが近道かもしれない。
「―――それで、その後おまえがオイラを助けてくれたってわけだな」
それから数か月後、海辺で手ごろな石の上に座るなまえと共に彼女の隣に座る空の身の上話を聞いていたのは小さなよくわからない人の形をした生き物だった。
名前はパイモンといって2か月ほど前に親切にしてくれるなまえを喜ばそうと思って釣りをしていた空が釣り上げた。精霊なのかはたまた違うものなのかはまったくわからなかった。パイモンは自身を妖精だと言っていたが他に妖精というものを未だに見たことがないので空の中では結局パイモンが本当にそうなのかはわからなかった。そもそも、その時の空はようやく簡単な単語を覚えたばかりだったので、パイモンの話す言葉の半分も理解できていなかった。目をまわしたままのパイモンを抱えてそれまで釣っていた魚のことも忘れてなまえを呼びながら走った日も懐かしい。それからなまえによる空のためのテイワットに関する勉強会の先生役にパイモンも加わったのだった。