風を捕まえる異邦人
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三人に向かって声をかけていたのはアンバーだった。彼女の大切な人形であるウサギ伯爵の耳を彷彿とさせるような赤いリボンが風に吹かれて揺れていた。
「おーい! 三人ともー!」
「あっ! アンバーだ!」
手を振って自分の居場所を示す彼女の姿にパイモンが嬉しそうに声をあげた。アンバーが手を振って待つ場所こそ、ジンに教えられた神殿の一つであろう。
「ここはアンバーが担当だったのか!」
騎士団の中で一番心安いアンバーがいてパイモンは嬉しそうに彼女の方へと飛んでいく。その行動になまえと空は顔を見合わせて苦笑した。パイモンがアンバーと何かを話しているのを見ながらなまえと空は遅れてその場に到着した。
「ここが……」
「そう。ここが放棄された四風守護の神殿の一つ、西風の鷹の神殿だよ」
空がここに祀られていた四風守護を思って神殿の入り口を見上げた。入り口の扉もその前にも人の手は入っているとは言えず、あまり手入れされているような感じは受けなかった。放棄されているというのは本当のようだ。
「この神殿が放棄されたのは何年も前でね、モンドの人でも滅多にここには来ないの」
「……そう、なんだ」
アンバーがあまり疑問に思っていないその様子からモンド城からそれほど遠くないと言うのに、ここへの信仰はすでに捨てられて久しいようだ。捨てられて当然だと言うほどの出来事があったのかもしれないが、空にはわからなかった。
神殿とは祀るものがいてこそ成り立つものである。祀られなくなったら、そこにある力はどうなるのだろうか。どこかの国で祀られぬ神は人々に害を為すものになると聞いたことがあるが、この国でもそうなるのだろうか。なんにせよ、この放棄された神殿に祀る者はもはやなく、祀るべく神の眷属もいない。あるのはその力の残滓だけ。
「だから、中は獣やヒルチャールの巣窟になってるかもしれないね」
獣やヒルチャールは人を避けて生活するものだ。だからこそ、この神殿は格好の場所なのだろう。
「はぁ……風魔龍でさえ自分の神殿を捨てたほどだし……」
アンバーが神殿について憂慮しながらため息を吐いた。
「わたしもショックなんだけど……風魔龍はかつて『四風守護』の一つとして数えられていたの」
「えっ? それって……」
突然風魔龍の話になって首を傾げたパイモンにアンバーが詳細を語りだした。四風守護は先ほどなまえから聞いていた話だ。だから空は先ほどなまえに尋ねようと思って聞くことのできなかった考えを口に出した。
「もしかして東風の龍?」
「よく知ってるね……」
空の言葉にアンバーは感心したように彼らを見た。
「なまえがさっき四風守護の話をしてくれたから」
「……なまえが? そうなんだ」
なまえから聞いたという空の言葉にアンバーはすんなり納得しようだった。特に疑問に思うこともなく話題を変えて、この場所に何か感じるものはないかと尋ねてきた。アンバーはこの場所の「風」に何か違和感がある様子で、それは龍の力の影響だろうと予測を立てた。
「中へ入ってみよう。あんたたちの実力は知ってるから大丈夫だと思うけど、一応気をつけて」
そう促すアンバーの言葉を受けて三人は神殿の内部に入ることにした。