はじまり
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去り行くなまえの背中を見送るのはこれで何度目だろうか。手を振る彼女の姿に同じように応えながらウェンティはそんなことを考えていた。
「――なまえの鈍感。ボクがどれだけ……」
届かないことを知りながら彼はぽつりとつぶやいた。なまえが弓を大切にしている理由に自分が含まれていることを彼は知らない。そしてなまえもまた知らなかった。彼が用意した“それ”は彼とおそろいのものであったこと。
そして彼はずっとなまえが自分の武器を手放してまで大事にしている“あの子”の形見である弓を羨ましいと思っていたことに。それは人間のようにいうのならば彼の欲と呼べるものだったのかもしれない。しかし、彼はそれを口にしようとは思わなかった。
弓の本来の持ち主であった彼女がいない今、なまえのそばにはもう誰もいないからだ。本当は彼自身がなまえと共に旅をしたかったけれどそれは叶わない。彼はいつだって彼女を見送る側だ。
ならばせめて代わりに彼女に渡した“それ”に彼自身の秘めた思いをこめて彼女の無事を願った。時折振り返って手を振る彼女の背中が見えなくなるまでずっと彼は広い草原の上にひとり立っていた。
「―――――」
届けられない言葉をそっと風の中に隠して。