風を捕まえる異邦人
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「大丈夫?」
「……えっ! お、俺は……」
「? どうしたんだ旅人?? あ、まさか……!」
アンバーの声に大げさなほど肩を跳ねさせて、動揺していることがまるわかりな声で空は直立不動のまま、しどろもどろに答えた。その様子にパイモンが首を傾げながら両腕を組んで眉をよせたかと思えば、何か思いついたように言葉を続けようとした。
「えっ! 俺はなんともないよ! なまえのことなんて……!」
「なまえ……? お前の怪我となまえに何か関係あるのか?」
「怪我!? もしかして、痛いところ触っちゃった!!??」
「怪我してるの!? 痛みがあるなら大聖堂に行かないと!!」
大きな声を出してパイモンの言葉を遮った空の動揺ぶりに皆が不思議そうに彼を見た。パイモンは気づかなかった怪我でもしていたのかと思いたって心配したのだが、空の一言でパイモンはまた不思議そうな顔をした。抱き着いていたなまえもパイモンの言葉を聞いて空から離れて今度は怪我はどこだと空に問いかける。なまえの慌てた様子に感化されてアンバーもまた大聖堂なら祈祷牧師から治療してもらえるから行こうと騒ぎだした。慌てる様子のなまえ達の姿になまえが離れたことで動き出せた空もまた慌てたように怪我はないと否定した。それからしばらくして、空は心配する3人の誤解をようやく解くことができて落ち着くことができた。
「……?」
そして、少し心の余裕ができた空は、なまえのぬくもりがなくなったことに寂しさを感じていたことを思い出し、自らの心境の変化に戸惑っていた。
「(俺はなんでさっきあんなに動揺したんだ? 蛍の時はそんなこと思いもしなかったのに……俺……、)」
いったい何があったのかと空はひとり自分の感情に追いつけていなかった。双子の妹と共に長い間旅をしていたから、妹に抱き着かれることは何度かあって、その度に蛍を宥めたりして良いお兄ちゃんでいられたのに。なまえに抱き着かれて気が動転してしまっていた。抱き着かれる行為は同じなのに、人によってこんなに変わるものなのかと空は実感させられた。ではなぜそうなったのか。考えてみるけれど、結局わからないままで相談するには少し恥ずかしい。だから、どうにもできずに首を傾げている空の様子には気づかないほどアンバーは気が抜けていた。
「皆無事で本当によかった……」
ほっと胸をなでおろしたアンバー。なまえ達がいなければアンバーは座り込んでいたかもしれない。彼女は騎士団の一員として騎士団本部まで旅人達を連れていく責任があった。それなのにその途中でこんなことになってしまい、万が一があればどうしようとずっと気をもんでいたのだ。だから、なまえも空もパイモンも皆怪我がなかった事をちゃんと確認できて、無事だったことにアンバーは本当に良かったと思った。
そんなふうにお互いの無事を確かめ合っていると、ゆっくりと手を叩く音が聞こえてきた。その音の出し方はとてもわざとらしく耳につくような音だとなまえには感じた。手を叩きながらゆっくりとこちらへ向かってきたひとりの男。知らない人だ。龍が去ったとはいえまだ荒れている天気のなか余裕をみせるその男の姿は怪しい。
「巨龍と戦えるほどの力を持っているとは……」
「「……」」
青い髪で片目に眼帯をしている褐色肌の背の高い男。なまえの知るモンド人とは異なるその風貌に警戒心が強まる。ちらりとアンバーの様子を伺う。西風騎士団の彼女ならその男が敵かどうか知っているはず。彼女の出方を見ようとなまえは思った。
「我々の客人となるか……それとも新たな嵐になるか?」
その男はどこか芝居めいた口調でなまえ達を見据えていた。