風の申し子
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「別に……気づいてほしくてあんな事をしたわけじゃないよ……」
「うん。なまえはそんなことするような人じゃないもんね」
気まずそうななまえの言葉に今度は話す声すらも優しさをにじませてウェンティはなまえを見つめる。なまえがどんな人物かウェンティは彼女以上に理解しているつもりだった。だから、なまえのその言葉が彼女の本心だとわかっていた。でもそんなことはおくびにも出さずにウェンティはすぐさま表情を変えて、彼女をからかうような明るい声で言い放った。
「ボクはちゃんとわかってるよ、なまえは泣いて力を暴発させるなんてことを、わざとするはずないもんね!」
「ウェンティ!!」
彼の言葉に図星をつかれて思わず声をあげたなまえだった。空とパイモンには話さなかったが、実はあの時、囁きの森の中で空の元素力が突然暴発したのは彼の責任ではないことをなまえは知っていた。原因はなまえで、彼女がトワリンの変化に気づき、その変化が悪い方向であったために動揺のあまり、手をつないでいた空の力に干渉してしまった結果であった。だからこそ、ウェンティは彼らを見極めるために空達を見ていた。トワリンが何もせずに、彼らが無事でいるのもきっとなまえがいたことに気づいていたからだとウェンティは思っていた。
「もう、ウェンティなんて知らないんだから!」
「えっ!? ……ごめんね、なまえ。久しぶりに会ったからボクも浮かれていたみたい」
ぷいっとウェンティから顔を背けたなまえを見て彼は焦った。焦りながらも彼女が本気で怒ってないことはわかっていた。だから、許して? とその可愛らしい外見をめいっぱい使ってなまえに媚びる。しかし、そんなウェンティの態度に動かされるなまえではない。が、なまえも本気で怒っているわけではないので仕方ないなとわざとらしく、ため息をひとつついて簡単にウェンティを許した。それからなまえとウェンティはまた見つめあって楽しそうに笑う。そんなふうにふざけあうのも久しぶりで、懐かしさに嬉しくなってくるのも仕方ない。けれども、なまえはウェンティに会ったら聞かなければならないことがある。
「ねえウェンティ、トワリンにいったい何があったの……?」
そう、トワリンのことだ。なまえは森でみた時から不思議だった。東風の龍とよばれるトワリンは風神の眷属である。風神の眷属たちはそれぞれ四方を司り、皆モンドの守護たるもの達であったはずだ。そのはずの東風の龍がなぜモンドに災いをもたらす害となっているのか。守るべきはずの弱い人間たちをなぜ傷つけようとしているのか。変わってしまったその姿に心を痛めていたなまえ。モンドに来る前に寄った璃月で知人から少し話を聞いていたが、実際にみるとそれは想像よりもずっと酷いもので感情が追いついていなかったことを知った。
「トワリンは……」
「――――!」
「「!!」」
ウェンティが何かを言おうとしたとき上空で龍が咆哮をあげた。その声につられるように2人は弾かれたようにそろって上を見上げた。2人が上空を見上げると、どんよりとした曇天のままであったが確かに変化は見えていた。未だに強風は吹いている状態に変わりはなかったけれど、あれほどあった竜巻は消えていた。そのおかげで視界は広まって、上空に人影があることに気が付いた。
「君と一緒にいたあの旅人が、トワリンをモンド城から追い払ったみたいだね」
これでトワリンにもボクらにも時間ができたと話すウェンティの顔をなまえは見た。その気配に気づいた彼もまたなまえを見つめる。
「空が……?」
「うん、ボクがこっそり力を貸してあげたんだ」
なまえの疑問に答えながら、いたずめいたように笑いかけるウェンティ。そんな彼の様子になまえは不思議そうにパチパチと何度か瞬きをした。
「こっそりって……もう、ウェンティったら……」
「……えへっ」
いたずらめいたように話すウェンティの言葉に呆れていたなまえ。そんななまえの様子にいつものように誤魔化すように笑った。
「そんなことよりなまえ、君は戻った方がいい。今はあの旅人と一緒にいるんでしょ?」
「うん、……ねえ、怒ってる? 私があなたに最初に会いに行かなかったことに……」
その後に続いたウェンティの言葉に彼に対する気まずさを思い出してしまった。別に風の国に来たらウェンティに最初に会いに行くという約束をしたわけではない。けれどもなまえはこの国に足を踏み入れる時には必ず真っ先にウェンティに会っていた。それが習慣のようになっていたから会いに行かなかったことをとがめられると思ってしまった。
「大丈夫。ボクは怒ってないよ。むしろ、なまえが一人じゃなくて安心した。でも、この国に帰って来たらボクに一番に会いに来てほしかったな」
「……」
「なんてね。さ、旅人が降りてくる前に彼を追いかけて」
躊躇う彼女を見てウェンティはなまえの背中を押した。背中を押されて走り出したなまえは少しだけ進んでから振り返る。
「……また会える?」
「もちろん。今度はゆっくり話そう」
なまえの言葉に頷いたウェンティをしっかりと確認したなまえは今度は振り返ることはなく上空の旅人を見失わないように走り出した。ウェンティはなまえの姿が見えなくなるまでじっと彼女を見つめていた。